第40話 女の子達を救いに行くわよ!
【武闘大会・会場を辞したヨシタカ達は揉めていた】
戦闘時より真剣モードに切り替えたメンバーは、まず気絶したままのミズハを素早く回収、ユアイの部屋のベットで寝かせ、全員が宿泊予定ホテルのロビーに集合していた。
なぜ戦闘時より真剣モードなのか?
女神ハル
「ミキオくん、わたしはね、お化粧してないからね! 濃くないから!」
ミキオ
「いやぁ、もう許してくださいよ~、分かりましたから~」
女神ハル
「あなた分かってないわっ! 乙女心がちっとも分かってない!」
サトシ
「女神様、貴女は、それだけ超美人だという事だと思います。可愛いです」
女神ハル
「あのね、サトシ君、お化粧というのは人間が使うもの、神が化粧してどうするのよ!」
サトシ
「僕に飛び火したぁー」
ミキオ
「ちょっと! ヨシタカ、ヘルプッ」
ヨシタカ
「まぁまぁ、女神様、こっちへ来てください。俺の近くに」
女神ハル
「いやよっ! ヨシくんだって、わたしの顔を見たとたんに薄い化粧してるって言ってたし! ヨシくんが呟いたの聞いたもん! わたしお化粧してないのに! 本音では女神太ってるとか思ってるのでしょ!」
ヨシタカ
「太っただなんて思ってませんよ、それに太っていたとしても女神様は素敵です。いつも可愛くて奇麗でスラっとしてて、みんなの憧れの女性です。はい、もうお化粧の事はいいですから、挨拶のハグと愛しの撫でこをしませんか? いつも気立てのいいハルちゃんは拗ねたところも飛びっきり可愛いですよ」
女神ハル
「……」
女神ハルは何も言わず、ヨシタカの傍にトコトコと歩いて行く。そして頭をヨシタカの胸にポンとつけ、両手を背中に回してハグ体勢になる。ヨシタカは優しく抱擁した。
ヨシタカ
「ハルちゃん、いいこ、いいこ、なでこ、なでこ……」
ヨシタカは敢えて素敵な目をしながらプンスカ女神の頭を抱き、背中をさすり、髪の毛に指を通して優しく撫でる。時々、ユアイの弱点と同じ耳たぶやうなじ、首筋に触れて彼女の怒り・集中力を分散し削ぐことも忘れていない。ハルは頭をぐりぐりと彼の胸に押し当て、ほっぺたをスリスリしたりと甘え放題である。
女神ハル
「うーー、ヨシくん、ずるい、そんなことされたら怒れないじゃない」
「も、もっと……ギュッとして。耳たぶは触っちゃイヤ、今すごく敏感なの」
「注文多いですね、はい、分かっていますから、なでこ、なでこ」
「私を子ども扱い……、もっとして。もっと甘やかして」
「分かりました……なでこ、なでこ」
全員
「「ふぅ~~」」
さて話を戻そう。これからホテルのロビーにて、気絶中のミズハ以外の全員が集まってミーティングが行われる。リンドバーグ伯爵領で囚われている女性たちの救出と解放についてだ。
まず前提に、女神ハルには政治がらみの案件になると女神として介入しない、というルールを自らの発言力を鑑みて設定している。高位爵の不祥事が蔓延る足かせになったのが、この政治不介入ルールだった。
それゆえ、第二聖女のミズハが勝手に現勇者パーティへ移籍させられたことを含め、国民・領民たちの状況悪化に心良く思っていないにも関わらず、女神は何もできないでいた。
女神ハル
「キーマンはアルフォンヌ公爵ね」
サトシ
「アルフォンヌというと大会で挨拶した摂政の公爵ですか」
女神ハル
「そうよ」
ヨシタカ
「女神様、国王陛下や教皇猊下はリンドバーグ伯爵領の不祥事に関わっているのでしょうか?」
女神ハル
「王家は関わっていないわ。教会もよ。全て摂政アルフォンヌ公爵の強権によるわ。たぶんだけど、彼が魔神の地上代行者っぽいわね」
サトシ
「そうしますと女神様、リンドバーグ家へはアルフォンヌ公爵との繋がりや不祥事の証拠集めで行くという事ですよね?」
神官エレーネ
「正面突破は伯爵領の騎士団と護衛兵で計二万人いますが、潜入捜査なら私とユアイさんから人選で数名のピックアップがしてありますが、どうでしょう?」
女神ハル
「国王と教皇に命じて、もう諜報員を派遣してあるわ。税金や奴隷問題、使用人に対する人命軽視などの法律違反で、各専門家による検挙も可能になってるし。派遣元は主に宮廷騎士団の諜報員たちよ」
エレーネ
「潜入捜査は、そちらは……今更ですね、さすが我が女神様」
ユアイ
「サトシさんとミキオさんの宮廷騎士団との伝手で見繕っていましたけど、女神様仕事はやいです」
女神ハル
「ふふふっ、もっと尊敬してね! それに騎士団や護衛兵が合計で二万人ぐらい居たとしても余裕よ、攻略兵として傭兵を集めなくても、だいじょーぶっ。この場にいるメンバーで正面突破よ。わたしもミズハちんも戦闘に加わるしね。女の子たちが毎日苦しんでいるのを一日たりとも見逃せないと分かったから、急ぎましょう」
ミキオ
「確かに、メンバーを鑑みれば、魔法の火力はもう充分だと思うな」
ヨシタカ
「充分、寧ろオーバーキルだが」
女神ハル
「そうよ、その通り、先制攻撃は私の出番よ! 渓流神マナもついて来るから、わたしたち圧倒的だからねっ! まっかせなさい」
サトシ
「移動は僕が過去に何度か行ったことがありますから、空間転移魔法が使えます。女神様もご一緒なさいますか? ただ肌と肌を触れ合わせる必要がありますけど」
ミキオ
「サトシ……お前、ちょっと個人的なものがあるよな」
サトシ
「ばっ、バカなことを……僕はただ空間魔法が使えるという事をだね……言いたいだけなんだよ」
女神ハル
「わ、わたしは……抱き締められると参っちゃうけど、手を繋ぐぐらいなら……」
サトシ
「は、女神様っ! ぼ、ぼくと手を繋いでもいいんですね!」
なぜか真っ赤に染まる女神の顔。口をもぐもぐさせて、俯きながら目をヨシタカへ向けて、又、視線を戻して口をモニョモニョしてからチラっと又ヨシタカを見て真っ赤になって俯いた。
……どうやら、サトシの春はまだ早かったらしい。
手を繋ぐだけで恥ずかしいなら、口に出して言わなくてもいいのに……というジト目でユアイが女神を見る。
ユアイ
「女神様はお兄ちゃんと手が繋ぎたいんですよね? いいんです、分かってますから。抱き締められたら幸せを感じて気絶しちゃうんですよね、分かってますから。そもそも転移魔法なんて要りませんよね女神様なら」
女神ハル
「ユ、ユアイちゃん、そんな……いじめないで下さい……ダ、ダメですってば、わたし……そんな……ヨシくんに抱っこされるなんて、想像しただけで……わたしって、いやん……」
ユアイ
「それとも大観覧車……ですか?」
女神ハル
「あーあーダメですって、ユアイちゃん、いじめないで下さい~、それは大切な、大切なわたしの青春の一ページなんですからぁ」
ヨシタカ
(何を想像されていらっしゃるんだ女神様は。家族ハグの事か? 大観覧車って前世のアレだよな?)
侍女ユキシ
「ユアイさまに聞いたことがあります。女神様の記念すべきファースト・キスでしたよね」
エレーネ
「えっ? お話についていけませんけど、そんなロマンチックなことがあられたんですか? 教会にある女神様の教書には記載されていなかったと思いますが、そんな女神様の初体験を生で聞けてしまうなんて、神官冥利に尽きます。早速、記載せねばなりません」
女神ハル
「ふぇ、ふぇ、初体験って、はつたいけん……、だ、ダメです、教書になんて載せたら、わたし嬉しくって死んでしまいます」
ユアイ
「わたしもまだファースト・キス経験がないんですよ、女神様。羨ましいです」
ミキオ
「……サトシが泣いてるから、それぐらいで止めてやってくれや」
サトシ
(そんなツッコミ言うな! ミキオ、頼むこの話題流してくれ)
侍女ユキシ
「あ、あの、その……、今夜の宿泊なのですけど……今、話してもよろしいでしょうか?」
サトシ
(ナイス! ユキシちゃん愛してるよーーっ)
ミキオ
「ああ、このメンバーが揃うと恋バナで脱線しまくるから遠慮しなくていいぞ」
侍女ユキシ
「えっと、ここに部屋割りのクジ引きがございまして……」
ユアイ
「ムムッ……それは大変重要な……」
女性陣
「「部屋割り」」
ユキシ
「えっ、ええっ、えええっ」
目の色が変わった女性陣にビビるユキシであった。
ミズハを看病するという名目で女神ハルとユアイが同室、ユキシとエレーネが同室、ミキオとサトシとヨシタカが別部屋で単独ずつ、というクジ引きの結果となった。
『伝説のメンバーばかりなのに、恋バナが一番盛り上がるだなんて、本当に大丈夫かしらん? 我が女神様……』
とエレーネは、明日にもリンドバーグ領に領民女史らを救いに行くのにと少しだけ不安になり、女神様に祈り始めた。
神官エレーネ:祈りの姿勢
「全能なる女神様、我がリンドバーグ伯爵領の不祥事を改善させることが成功しますよう、どうぞお力添えをお願いいたします。そして伯爵邸突入パーティの皆が全員無事でありますように……、ん……」
(『ちょっとヨシくんの部屋に行ってくるね』)
(『ダメです! ハルちゃんは今夜は大人しくしていてください』)
(『でも、だって、ユアイちゃん……、わたし家族ハグしてもらいたい』)
(『でもだっては禁止です。だいたい考えてみてください、私が「お兄ちゃんの部屋に行ってくるわ」というのとハルちゃんが男性の部屋に行くのとは訳が違います。R18になってもいいんですか』)
(『え~~~~! でもユアイちゃんも会いに行きたいんでしょ?』)
(『うぐっ。……それはそうですけど……』)
(『あ、ミズハちんが寝返り打った! 今の会話、聞かれちゃったかしら』)
(『二人で正座するの嫌ですよ、だからハルちゃんも大人しく寝ましょう』)
エレーネは祈った女神様がすぐ隣の部屋に宿泊していると思いなおして、尚、複雑な気持ちになるのであった。




