第3話 神官エレーネ
今、町に向かって街道を歩いている。
「ヨシくん様、お疲れではないですか」
鞄から水筒を取り出し手渡してくれた。
「ありがとう。気が利くねエレーネは」
ふぅ~と薄く笑うと溜息をついた。
「喉は乾いてませんか?」
今度は香りの違うお茶だ。麦茶に似た美味しさだった。
「おや、これはいいね。薬草を煎じたのかい?」
「はい、美味しかったのでしたら嬉しいです」
「ねぇエレーネ、その肩掛け鞄には色んなものが入ってるね」
「はい、飴ちゃんもありますよ。おひとつ如何ですか?」
「ありがたく頂戴しよう。妹のユアイもよくくれたよ」
「妹さんがいらっしゃるのですか。甘いものは疲れを癒しますよね」
「御馳走様。どうもありがとう、妹はエレーネと気が合うと思うよ」
ヨシタカは糖分補給により頭が少し冴えた気がした。
「あ、また馬車の休憩エリアだ。今度は休もうか」
「はい」
休憩エリアにはだれもおらず、エレーネと一緒に近くにある岩場に腰を掛け、テーブルをマジックリュックから出し、今夜のプランを考える。言葉のキャッチボールもそうだが、エレーネと一緒に居ても疲れない。彼女は我儘を言うでもなく、素直で気遣いが出来る大人しい娘である。ヨシタカはエレーネに好印象を持つゆえ妹ユアイを連想していた。この二人、気が合って仲良くできるかも知れない。
「もう数時間経てば周囲は暗くなってくる。野宿の場所を考えよう」
「はい、少しだけお時間を頂けますか。この草原で薬草を採取したいです」
「おや、拘りのお茶の風味を効かせる香草もだね」
「もしかして薬草の方は苦手ですか?」
「そんなものはないよ、俺自身が雑草だから」
薬草や香草を採取したエレーネは、複数の水筒の中に入れ味や香りが滲み出すのを楽しみにしているのかニコニコとしていた。濃くなったかどうかを確かめる為エレーネの水筒からコップに注ぎゆっくりと飲み干した。次の馬車休憩エリアで野宿することにして、二人で歩き続ける。周囲が若干暗くなってきたが丁度休憩エリアにも到着した。
すると突然エレーネはスタッフ・オブ・ヒーリング(癒しの杖)を取り出し、すぐに使えるように手で持つ。オーラが集中しエレーネの艶やかな金髪がきらきらと揺らめき足元の草が微かに揺れ動き始めている。まさに真剣モードの顔つきだ。
「どうした?エレーネ」
「なにか嫌な気配がします」
エレーネは心配そうな表情を浮かべつつ、ヨシタカに答えた。
「私、すぐサーチの魔法を行使しようと思ったのですが……感知までの距離が遠くて。この距離でのプレッシャーから推測しますと大規模な群れかと思われます」
「へぇ、クレリックがシーフ職も兼ねるんだ珍しいね」
「私の教会は女神様のおかげで少し毛色が違いまして……」
「どれ俺がサーチしてみる、近くにゴブリン約300体、遠くにオークの約100体の群れか」
「そこまで大規模な群れなのですか?王国に警告を発して応援を呼びませんか」
「こういうのは俺に任せてくれればいい」
「は、はい?」
「うむターゲット一帯に人はいないな」
戦いにはならない。涼やかな風が吹き、ヨシタカはエクスプロージョンを細かく拡散させた打ち上げ花火のような魔法を放った。ゴブリンがいるであろうエリアを横一文字で数百のミニ・エクスプロージョンが虱潰しに蹴散らしていく。そのついでに遠方に居たオークの群れも瞬滅した。
ゴゴゴゴゴゴ……
地鳴りがしばらく続き、遠ざかっていった。
「よ、ヨシくん様……あの、もしかして……人の身体をした神様ですか?」
「ああ、心配しなくてもいいよ、妹の方が魔法火力凄いから」
「いえ、人の身体をした神様=勇者パーティの方かと……」
「大袈裟だよ」
「こないだの治癒魔法といい、私が知らない事ばかりで」
いや待てよ、元勇者パーティということで肯定を固辞したものの話の流れは納得だが、現役でも勇者パーティがいるのか?
「エレーネ、勇者パーティって現代にいるのかい?」
ヨシタカに指摘された事が意表をついたようで、エレーネは申し訳なさそうに顔を伏せつつ応えた。
「え?はい、ご存じなかったのでしょうか?有名です」
「そ、そうか、それは良かった」
エレーネは俺たちのことを言っているのではない。転移したばかりで勇者パーティは揃っていないからだ。俺たち以外に居るのか?サトシは聖剣を賜りに王宮へ行ったはず、国王と直接謁見して確認し、それは女神様の啓示でもあるから間違いはない。聖剣が二本あるのか?勇者や聖女が二人?どうなってるんだ今の時代は。
エレーネは心配そうな表情を浮かべつつ、ヨシタカに言った。
「ヨシくん様……遠い国からお越しになられたのですね。さっき、魔法を放たれる様子を見ていました。全く知らない魔法でした。詠唱がなく祈りもなく行使されてました」
エレーネは思わず目を細めた。ヨシタカの目をじっと見ている。




