第37話 女神降臨1
★文字数が少ないのでお昼にもう一ページ更新します。
【イベント当日】
柔らかい風が吹いた。観客の熱狂をさらいながら消えていく。
「ご来場の皆さん、この度は当コロシアムに足を運んでくださり誠にありがとうございます。まずは摂政でもあられますアルフォンヌ公爵さまの開会のお言葉です。拍手でお迎えください」
アルフォンヌ公爵
「えーみなさん、こんにちは。我が公爵家では大会の成功を祈って多額の寄付金を提供し……云々」
・・・・・・・・・・
「最後に国王陛下のお言葉で締めさせて頂きたいと思います」
国王
「我が人民の諸君、この度は王家主催の武闘大会に……多額の寄付金を出し大成功をおさめ……云々」
コロシアム中に王侯貴族の来賓の声が響く。いつも通りのアナウンスで政治色の強い話ばかりだった。今回は来賓の数が多く、その分、寄付金も多額であった。まず地上へは滅多に降臨されない女神様が、直接国民へ平和の祝辞のようなものを語られるという事で、女神様を呼ぶことが出来た王侯貴族が神の象徴にあやかり、自分の名誉を高めるというマッチポンプで大勢集ったからである。
「では、お待ちかねの御前試合を始めたいと思います。勇者パーティとの模擬戦を行うのは各ジャンル別の優勝者たちの即席パーティです。戦闘参加の皆様は、国王陛下を中心にございます正面までお越しください」
ヨシタカたち全員が正面に歩いて行き、すみやかに跪く。反対側からは現勇者パーティが歩いて来る。その中にはミズハもいた。朝の集合時にミズハがいなかったので驚くことはなかったが、ミズハ不在が現実となるとヨシタカの心の中で寂しさが吹き荒れる。
ヨシタカ
(ミズハ……なぁ、どうして俺を裏切って別の男に靡いたんだ……一言お別れを言ってくれれば俺も身を引いて君の幸せを祈ったかもしれないのに。なぜなんだ……キスすら一年に一回という制限を課していた君が、なぜ簡単に、あの男に唇を触らせたんだ……)
エレーネ
(アルフォンヌ公爵……横暴な婚約者アランの本家、遠縁であることは何かリンドバーグ伯爵領の異変と結びつきがある筈だわ……)
国王
「おほん……これより我が王国の祭典を始める。この模擬戦の開始前に女神様の祝辞を賜りたく思う」
観客が待ちに待った女神様の降臨が言い渡され、全員が頭上を仰ぎ見る。初めて御姿を見れるとなっては感慨も一入であった。
あるものは幼少期の素晴らしいスキルを与えて下さった女神信仰を、あるものはその美しさを想像した過去からの憧憬を、ほとんどの人々が教会が身近でなくても、スキルを与えて下さる女神の加護は密接に生活に繋がっており、無関係と思っていても心の中では常に女神に祈っているものである。
困った時の神頼みを、結果オーライに導き実現して下さるのも、女神様の優しさを感じるところであり、祈っても何も起きない世界とは違う、女神に対する特別視を多かれ少なかれ人類全員が持っていた。
「……」
「……」
「……おお……」
コロシアムの上空にゆっくりと光が集中し浮かびあがった。その光は普通の光ではなく、神々しさを表した何とも柔らかくて眩しく神聖さを醸し出していた。それは徐々に大きくなり人型を形作る。静かなる波動が広がっていき、軽いにも関わらず重たい振動が地面に伝わった。
ズズズズ……ズン……
女神が地上に降りる際は、神力を抑えないと大地震が起きてしまう。これは前世時代に彼女がヨシタカに会いに宿へ行った際、大騒動を起こしてしまった経験の故、そろり、そろりと発現するのをマスターしていた。
女神様が具現化した。形の良い唇が言葉を紡ぐ。
「人類の皆さん、こんにちは。この度、王国闘技大会にお呼びいただき大変嬉しく思っています。せっかく地上に参りましたので、一つの国だけでは勿体なく思いますから、全人類に向かって、隅々まで私の声をお届けいたします」
「あ、あれが女神様……凄い美人だ」
「なんという神々しさ……」
「はぁー、ありがたや、ありがたや」
「優しそうなおなごじゃのう、勿体ねえずら」
最敬礼で跪いた旧勇者パーティの面々は心の中で語っていた。
サトシ
「女神様、お久しぶりです。サトシです。またお会いできて幸甚です」
(貴女のおかげで恋心が止まりません。好きです、愛しています、ハルちゃんっ)
ユアイ
「……」
(あ、女神様の声が脳裏に直接響いてるわ、テレパシーってどうやるのかしら?今度教えて貰おうっと)
ミキオ
「女神、ちょっと緊張してない?元々恥ずかしがり屋だし、大勢の前によく降臨したな」
ヨシタカ
「おい心の声を口に出すなよミキオ」
ミキオ
「す、すまん」
オマケ:最近、作者の頭の中:女神ハルのイメージ ↓




