第35話 予知夢1
★本日中にもう一話更新します。
()は眠っているヨシタカの意識です。
次の日の深夜
【ヨシタカの異様に長い夢の中】
イベント参加予定の面々であるヨシタカとユアイ、サトシ、ミキオ、エレーネが相手側と対峙していた。
ユアイが自分たちの能力を制限する妙な結界らしきものを観察した後で言う。
「こんな空間、結界レベルでは出来ないわ、神のレベルの力が加わらないと……」
相手側は、現勇者と第一聖女、第二聖女のミズハの三人だ。敵のタンク担当戦士と魔法使いは、ヨシタカの第一波のファイヤーボール攻撃により既に倒れている。数的には有利になっている段階だ。
しかし、ヨシタカたちは、周囲を真っ暗で薄く黒い幕で覆われ、大きな半円の茶碗が伏せた中のような特殊な空間に閉じ込められている。この空間は、ヨシタカの第一波攻撃で敵側の一部メンバーが倒れた際に、急遽第一聖女が張ったもので、最初はたかが黒い空間と思いきや別物だった。
結界に似た雰囲気の効果を持つものの、想定外の正体不明な効果が複数あって、ヨシタカ側全員の魔力が発揮できなかった。また、肉弾戦でも力が十分の一になるというハンデを背負わせられるもので、徐々に苦戦を強いられつつあった。
夢を見ているヨシタカですら意味がよく理解できていない。
ヨシタカが何か苦痛を伴って叫ぶ。
「違うっ! お前は間違っている! この世に大切なのは愛だ、愛することだ、愛し合う事だ!」
現勇者
「そうか、じゃぁ、その愛するという抽象的なもので、この空間を破って我々に勝てるのか? あはははは、見せてみるがいい」
「くそっ」
ミズハだけが俯き加減で何かを言いたそうな悲しげな眼をしていた。しかし、それまでのミズハは完全に相手側に寝返っており、攻撃はしてこないものの、現勇者と第一聖女を完璧にフォローしていた為、均衡は崩せなかった模様。
(なぜ俺は愛を叫んでいたんだ? 夢なのに意識もあるし変だな……)
どうやら夢を見ているヨシタカは意識を保っており、通常とは異なる夢の違和感を自覚している。
「ねぇ、お兄ちゃん、まだ完全に魔力も回復していないし、魔力枯渇の悪影響が身体に残っているから無理しないで」
「大丈夫だ、俺一人でやらせて欲しい。頼む」
「お兄ちゃん……どうして……そこまで」
エレーネ
「ヨシお兄様、今は普通じゃありません、たとえ圧倒的強さの貴方でも単独では心配です」
ミキオ
「オレもエレーネと同じ意見だ。ヨシタカ、一人で責任を被ろうとするな」
「頼む皆、ミズハの件で決着をつけるには一人で戦いたいんだ」
ミキオ
「ヨシタカ、お前の気持ちは分かるが、正々堂々とする必要性はないんだぞ?」
サトシ
「……僕にはヨシタカ君の気持ちも分かる。失恋は辛い。しかしミキオ君の不安も分かる」
「お兄ちゃん……」
「今まで現勇者たちと戦ってきたが、リアルでは圧倒的に強力な俺たちが、ほとんど通用しなかった理由が必ずある。そして元凶となっているこの空間を破壊する事は、人間が作ったものなら弱点を突けば破壊出来るはずだ、俺がやられている間に、空間を分析し解明してくれ」
「「分かった」」
「お、お兄ちゃん、わたしは反対ですっ」
「いくぞ、現勇者、肉弾戦でも充分やれるというところを見せてやるぜっ!」
ヨシタカは夢を見ながら、どうして自分が単独で戦おうとしているのか? その理由が掴めなかった。また、謎の空間というのは、MPとHPが減る程度のものではなさそうだと感じていた。
・・・・・・・・・・
ヨシタカは仲間たちに体力と防御力を付与した。そして自分にはストロング・マックスと最高レベルの防御力を施し、一人向かって行った。特に無謀には見えなかった。現勇者たちの攻撃力などは一般では最高レベルであるが、それでもヨシタカたちには届かないレベルであった。
しかし、現勇者へ片手剣で打ち下ろそうとしたところ軽く躱され、そのまま腹に聖剣エクスカリバーで打ち込まれた。
ヨシタカ
「ぐぁっ!」
現勇者
「どうだ、絶望を感じた気持ちは」
第一聖女
「何もできない無力感は格別よね」
現勇者
「お前らの仲間のうち一人が死なねば、この結界は解除されない。ふふふ……」
(えっ!? 誰かが死なないといけないのか、なんだこの変な結界は。模擬戦だろ? コレ)
ヨシタカ
「くそっ!躱したと思っても十分の一の戦闘力だと剣筋すら見誤る……まだ動けるが」
(なに?戦闘力が十分の一に減らされているだと? HPが吸収され減るんじゃないのか)
ユアイ
「卑怯よ!お兄ちゃんが、お兄ちゃんが死んじゃう」
現勇者
「なら、お前が犠牲になるというのか?ユアイとやら」
ヨシタカ
「しゅ、出血が止まらない……傷口が塞がらない……やはり回復魔法でも効果はないのか」
現勇者
「それじゃ、死ぬのはお前からだ、英雄ヨシタカ」
ユアイ
「お兄ちゃん、死んじゃイヤーーーっ」
(ゆ、ユアイ……お前)
サトシ
「早まるなユアイちゃんっ!待て、待つんだっ」
ユアイ
「わたしは死んでもお兄ちゃんを守る!命を懸けて護るんだからね!」
ジャリッ、シュバッ!ザクッ!
ヨシタカ
「ユアイ!」
ミキオ
「ユアイちゃんっ!」
(ええっ!?)
急いでユアイの代わりに的になろうとしたサトシを躱して、現勇者の刃がザックリとユアイの胸や腹を切り刻み、心臓近くを抉っていた。その瞬間、ユアイの動脈が切れ血圧の押し出しで大出血が始まった。致命傷を与えた現勇者は喜びを表した。
現勇者
「はははは……愉快、愉快」
サトシ
「僕のエクスカリバーの防御すら軽く躱された……手も足も出ないとは……」
現勇者
「仲間とのお別れの時間を与えてやろう。優しいだろ、俺は」
大出血し倒れるユアイを眺めるミズハは、何とも言えない辛い目をしていた。
(夢とはいえ、どうなっているんだ? 生々しいぞ)
・・・・・・・・・・
傷口を手で塞ぎながらユアイに近寄るヨシタカ、顔は絶望に染まっていた。
「どうしてユアイ、お前が犠牲になるんだよ」
「だ、だって……お兄ちゃんが死んじゃったら……みんなが悲しむから……」
「お前がいなくなっても悲しむんだぞ……」
すぐさまミキオとサトシも駆けつける。
ミキオ
「なんでだよ、なんで……ユアイちゃん」
サトシ
「ユアイちゃん、僕が間に合わなかったばかりに……許してくれ」
ユアイがヨシタカを押し出し、代わりに現勇者の刃に倒れた。血だまりが膨れ上がる。回復魔法をかけようとするもの、圧迫して血を止めようとするもの、入り乱れた。
直後、エレーネが彼らを護る結界を敷き、警戒をしながら前に出て、防御態勢を固める。しかし、今攻撃されたらエレーネだけでは防ぎ切れないのは明白、そのことは彼女も理解していた。敵側が待ってくれているというシチュエーションは、現勇者に、これほど舐められているのだと言われているようで、また自分達では現勇者たちに『勝てない』という悲壮感が漂っていた。
(なんだよ、こんな夢、どうしてユアイが死ぬんだよ!)
しかし、更に絶望のシーンが迫って来ていた。




