第32話 対勇者パーティ戦略1
サトシの魔法で宿泊施設のロビーに移転したメンバー全員は、ミキオが背中に背負ったヨシタカを一旦彼の宿泊部屋のベットに寝かせ、その間に女性陣が着替えたりなんかして再びロビーに集まった。
サトシ自身、以前はダンジョンから一人しか送れない転移魔法だったが、今では数多くの人数を一回で移せる。『今の能力レベルだったら死ななくても良かったんだけどね』と過去の魔王城からの脱出を思い起こす。
これから始まる会議の中心は、現勇者パーティの評判をエレーネに聞くことから始まり、各々実力の推測をすり合わせ、仲間同士の実力の確認と、サブイベント時の連携の戦略を組み立てることだった。
「おほん、えっと、現勇者パーティとの戦闘の対策なんだけど……スキルは同等、武器は聖剣も同じであり、寧ろ僕たちの方に劣勢な魔剣や防具しかなく、少し差があるね」
「サトシさん、スキルが同等で、各戦力がほぼ同じならば、キャリアの差が決定打となります」
確かに歴代最強と言われた勇者サトシに伝説と伝えられているメンバーばかりなので、通常なら特に何もしなくても勝利する事だろう。
「戦闘キャリアの点はわたしたちが一歩抜きんでいますし、負ける要素を検討しましても、相手側にいるミズハねえちゃんに対して攻撃が出来ないだけ、という仲間意識だと思われます」
「ゆえに今、わたしたちがしなければならないのは……」
「ヨシタカ君のミズハさんに対する篭絡かい?」
「いえ、特にお兄ちゃんには何もしてもらいません。失恋の辛さを一瞬忘れて貰うだけでオーケーです」
「ヨシタカ君の嫉妬の嵐が一番の敵だしなぁ、いや相手方にとっては間接的援助になるのか」
「不安要素は、錯乱して味方にもぶっ放しかねんヨシタカ」
「そしてミズハねえちゃんが完全に対戦側になったとしても、神官エレーネちゃんが参加してくれますので、回復系も充分と思われます」
「は、はい」
「現勇者たちとの模擬戦にエレーネさんを飛び入り参加させる為に申請許可を取らないと」
「その場で大丈夫ですよ、女神様に頼んで『パーティ・バランスが可笑しいわね』と仰って頂き、王族含めトップダウンで確定です」
「ユアイちゃんって、意外と強引……」
「なんですかミキオさん」
「いや、つ、つづけてください……」
(ユアイちゃん怖い)
「対策が必要なのはミズハねえちゃんの異質な神聖魔法だけです。支援系にも拘らず、なぜか攻撃力が半端でない浄化や回復など、防ぎきれるかどうか」
「防御魔法ならヨシタカ君で、防御結界はユアイちゃんで、隙はなく思えるけど」
「それでもミズハねえちゃんの神聖魔法は、通常の攻撃魔法や物理的破壊力を防ぐ魔法では対応できないのです。サトシさんもご存じの通り、回復なのに攻撃力があり、浄化なのに火力が凄いんです。女神様の悪趣味なせいで」
「ああ、なるほど、そういうことか」
「そこで、ミズハねえちゃんの魔法が発動する前に、速攻で決着をつける必要があると思うのです」
「それじゃ戦闘開始と同時にヨシタカ君かユアイちゃんのファイヤーボールで様子を観ようか?」
「そうですね。オーロr エクスキューションなど氷系、魔王対策の時の、火や氷という質の違う魔法を組み替えながら攻撃したく思います。ファイヤーボールなど放射熱の発生する魔法の後で、冷たい攻撃を重ね掛けする、魔王対策時と同じ戦略ですね。いつも通りの基本で」
「「了解」」
「エレーネちゃんは後方に位置取ってね、攻撃はしなくていいから」
「はい」
「魔王戦略を人間の勇者パーティに採用するのか……不思議な感覚だな」
「絶対に勝たなければなりません。お兄ちゃんの為にも」
「了解。現勇者パーティは僕らの事をミズハさんから聞いてるだろうし、ヨシタカ君の大きな魔法を警戒しているだろうから、スピードのあるファイヤーボールで先制しよう」
「ミズハがオレたちの技能や弱点を話してる可能性……あるのか?」
「最悪の想定をしたうえで戦闘に臨む。それが僕たちの常識だろ、ミキオ君」
「はいっ」
「エレーネさん、どうぞ」
「第一聖女様も変な魔法を使用するとお聞きしています」
「エレーネさん、具体的にわかるかい?」
「多くは公開されていませんが、私のように神官なのに索敵や攻撃魔法が使えたり……みたいです」
「おっと、ミズハ並みの新手か」
「はい。ミズハ様の神聖魔法とも違うようです。第一聖女様は魔力や体力を奪う結界を張られるみたいです」
「魔力や体力を奪うの?具体的イメージは簡単にできるけど。プラス効果の見本である聖女なのに、マイナスに働かせる魔法とは珍しいと言えば珍しいわね」
「いきなりマジックポイントやヒットポイントをゼロにされたら即死級のバグだな」




