第30話 神官エレーネ合流
大会の戦士控室では、新しい仲間となったユアイの侍女ユキシが話題になっていた。ミキオが少しお気に入りにしている様子。10歳前後にしか見えない成人15歳のお人形さんのように可愛い女の子で、ユアイのメイドさんたちからは合法ロリとも言って揶揄われている娘だ。
彼女は幼い頃に両親を亡くし、男子のように振舞って一生懸命に荷下ろしの仕事をしていた。ヨシタカが乗合馬車で働き具合を見て雇って(拾って)きた。ヨシタカは、まさかお風呂に入れたら奇麗な娘になるとは思ってもいなかったが、彼女はあれよあれよと人気者になってしまったのが今である。
「ユキシちゃん、オレとの試合、良かったよ。戦闘の筋が良かった。侍女のスキルを完全にマスターしてたな。よくがんばったね」
「そ、そんな……何もできずに負けたのに花を持たせすぎないでください」
「ヨシタカやユアイちゃんに随分と扱かれただろ?」
「はい、とても。でも優しく教えて頂きました」
「オレもキミのような可愛い娘を鍛えたいなぁ」
「可愛い娘って限定なのですか?ミキオさん」
「ミキオ君も弟子取ったら?正統派の剣聖は廃れさせたら勿体ないよ」
「オレか、騎士団でもそうだけど実は教えるのが苦手なんだよな」
「そうかい?僕の勇者スキルは他人に伝授できないから、弟子を取るって憧れるんだよね」
「でもサトシはオレの騎士団で若手に教えてるじゃねーか?」
「基本の剣技だけだよ。あまり僕がやると変な癖がつくからキミに迷惑が掛かるし」
「迷惑なんてないぞ、女子騎士に教えて仲良くなれよ」
「いや、それがね……僕、女の子は苦手なんだ」
「またまた~って、マジかよ……オレとスキル交換しねえか?」
「はいはい、注目で~す」
「お兄ちゃんが、まだまだ目を覚まさないので、私の魔力を少し渡しますね」
「魔力を渡すって、伝説の秘儀って言われている魔法ですか?」
「そうよ、ユキシ。しっかり見ておいてね」
「そらっ!ピヨ~ン」
この脱力しそうな掛け声とは違い、魔力譲渡という稀有な魔法はユアイ特有であり、有史以来、実現できたのはユアイだけである。膨大な魔力がないとかすりもしない魔力譲渡、戦闘時には膨大な魔力を持つヨシタカ以外、スタンビートなどで共闘している冒険者などの面々が無限の魔法を放てるのはユアイのおかげである。
「拡散エクスプロージョンを打ちまくったせいで、私が多少魔力を与えたぐらいでは目を覚ましてくれないみたいです。宿泊施設に戻って寝かせた方が安心ですね」
「じゃ、僕の転移魔法で送るよ。宿泊施設はどこかな?」
「この先のホテルです。よろしくお願いしますサトシさん」
「了解したよ。おっと、その前に、ユアイちゃん、陛下ご観覧時のイベントは僕たちと組むよね?」
「もちろんです。でもミズハねえちゃんはどうでしょうか?」
「そうそう、ソレ聞いてないよな。サトシも同じだろ」
「ミズハさんは教会本部のVIP室が宿泊施設だし、彼女と会話するのも来賓観客席に行かないと出来ないから、僕たちと組むかどうかの確認は難しいなぁ」
「ははは……うー、ごめんなさい」
「ユアイちゃんは陰の功労者だよ。でも僕は、てっきりミズハさんからヨシタカ君に会いに来るものだとばかり思ってたから、気にもしていなかったよ」
「そうそう、ミズハはヨシタカに会いにも来ねーんだから、それこそ意外だったな。やっぱあの現勇者とかいう奴に洗脳されてんじゃねーか?」
「でも女神様のお膝元の教会内で魅了魔法なんて使ったら、女神様激怒ですよ」
「ハルちゃんはミズハと身体半分は感覚を共有してるからなぁ、ヨシタカ以外に触られたら嫌がるだろ」
「それは女神様と聖女様の共有感覚の話ですね」
「そうそう。ヨシタカがミズハを抱き締めたらハルまで顔真っ赤っかになるという恐ろしい設定のやつな。だから好きでもない男から顔を触られまくるって、今頃、間接的にもだえてるかも」
「ミキオさん、すごくイヤらしい、そういう表現やめてください」
「……す、すまん、ユアイちゃん」
「……」←ハル片想いで凹むサトシ
「それじゃ当日じゃないと分かりませんね。ミズハねえちゃんがいないと私達パーティは四人だけです。現勇者パーティとの戦闘時は聖女の回復系支援魔法が不足ですね」
「その通りだね。普段なら僕らには不要な回復系だけど、でも同等と思われる現勇者パーティが相手となると回復系は必要だと思う」
サトシが話しながら出入り口を見ると、先ほどから扉の外からコッソリ覗いている金髪の令嬢のような上品な女の子がいた。
「さっきから覗いているのは君かな?」
「あ、すみません……エレーネ・リンドバーグと申します……」
「僕らが戦闘会場に入った後で、君も結界を潜って入って来てたよね?」
「は、はいっ!ヨシタカ様を心配して、わたくし神聖魔法が使える神官なもので、つい……、ヨシ兄さまは大丈夫でしょうか?」
恥ずかしそうに部屋に入ってくるエレーネ。小さくペコリと繰り返している。その可愛らしい顔の目は久しぶりに会えた愛しい人に、今すぐにでもヨシタカに抱き着きたいと言っているかのようである。
「え、えっ、ええっ、ヨシ兄さま呼びって……リンドバーグって伯爵家よね?」
「はいリンドバーグ家の長女です!以前、ヨシ兄さまと義妹にして頂きました」
「ええっ!そ、そうでしたか……わたしはユアイです。お兄ちゃんの妹の……」
(お兄ちゃん……ユキシちゃんだけじゃなかったのね……義妹、作りすぎでわ……)
ユアイは突如現れた新しい義妹にビックリしていた。しかし一方のエレーナはユアイの名を聞いた途端、目を見開いてユアイの顔を凝視した。令嬢として儀礼を欠く失礼な凝視ではあったが、すでに自分が令嬢という事は忘れてしまったかのようで、目に涙が浮かんでいた。
エレーネは、ユアイの両手を取り、勢いで話し始めた。
「ユアイさん!ヨシ兄さまからお話は伺っています。とても可愛い妹さんだって!!」
「にゃ、にゃーっ!そんなこと言われたら照れちゃうじゃないですか~~」
「耳にタコが出来るぐらい、妹は可愛いって、大好きだって、ヨシ兄さまから聞かされてましたから!」
「にゃ~~~、も、もう、エレーネさんったらっ!」
茹でだこになったユアイも満更でなく喜んでいた。顔がユルユルになってしまったので、手を離し両手で頬を覆い、兄が妹を褒めている光景を想像し、恋心が炸裂して『ふにゃぁ~~』と参ってしまった。
その合間を縫ってユキシも仲良し姉妹として参戦する。
「わ、わたしもヨシタカさまの義妹です、ユアイさまの侍女ユキシと申します。リンドバーグさま」
「ユキシちゃん!よろしくお願いいたしますっ!エレーネとお呼びください、握手を」
「は、はい、ありがとうございます!」
いつもの脱線し放題の面々であったが、しかし金髪美女の神官エレーネが合流したことによって、ミズハの抜けた穴の戦力補強はもちろん、奇跡的な幸運も手に入るのであった。それに気づくのは戦闘イベント後の結果が出てからである。
控室で昏睡しているヨシタカは、早く宿泊施設の部屋に連れて行ってベットに寝かして欲しいのだが……と思ったとか思わなかったとか。




