第27話 懐かしい名を発見する
エレーネ・リンドバーグ……俺は武闘大会のエントリー表を見ながら懐かしい名前を見つけた。
あの伯爵のお嬢さまが武闘大会だと?
何を考えているんだ?
彼女は戦うことなど出来なかった筈だ。神官だし、あ、女神様のおかげで多少は武闘出来たんだったな。それでも強者が集う大会で地方選ですら勝ち抜きは難しい筈。何かあったのかもしれないな。彼女が率先して戦いの場に参加するというのも解せない。
エントリー表には、サトシ、ミキオ、俺ヨシタカが入っていた。ユアイは入っていないが「飛び込み枠を利用するかもね」と言っていた。俺を観戦するのがメインで、想定外で暇ならばエントリーしたいという。会場がユアイの魔法で吹き飛ばないか心配だ。
初めて知ったのだが、ミズハは第二位の聖女ということなので賓客として観戦する。第一位がすでにいるそうで、その聖女様は勇者パーティに所属しているとのこと。
その勇者パーティ……気になっていた俺たち以外の現・勇者パーティ。今の時代では彼らが正統派であって、俺たちがイレギュラーな元・勇者パーティだ。なのだが、かなり強いという評判だった。わりと敵がいなかった俺たちもワクワクしてくる。やっぱり剣と魔法が使えるなら強者とは戦ってみたいからね。
それと勝ち抜き後のイベント案内を見る。剣、魔法、メンバー付与系、パーティ支援系、総合戦力系(勇者系)の各ジャンルで一位になった勝者が全員仲間になり、勇者パーティと最強の座をかけて戦うというイベントだった。これが国民へのお披露目ということらしい。勇者パーティがどれだけ抜きんでているのか、それを国民に見せるという。
映像はライブ中継で、更に勇者パーティのメンバーと婚姻を結ぶお相手である各貴族たちとのお披露目もあるらしい。その場では女神様からの祝辞と国民に対する平和へのメッセージが述べられるという。
・・・・・
・・・・・
「ちゃんとユキシもエントリー表に入ってるぞ」
俺たちは2か月前からユキシを特訓していた。護衛任務もやりたいというユキシの希望を叶えた格好で、お嬢様らしい外見に反して荷作業を男子として働いていた経験から自然と体が鍛えられており、身軽で素早さが持ち味で、且つ、荷物持ちのキャリアから力も強い。
最初は索敵など軽い魔法から教えたのだが、直ぐにマスターした。意外なことにユキシに素質があると分かってから、魔法を中心に、短剣を使った軽い戦闘行為もこなせるように訓練した。
大会はまず地方選から始まる。まず数が多い騎士爵、男爵や子爵などの領主が地方で大会を開催する。勝ち抜いた人材が次に伯爵や侯爵、公爵の大エリア内で大会に出場し、勝ち抜いたものが王都の本戦に出場できる。
勇者パーティのメンバーや剣聖、魔導士、賢者、聖女などの著名人は特別な参加枠が設けられ、その気になれば本選の特別枠を使って出場できる。強者と認めた相手と戦ってみたい、弟子がどれだけ強くなったか真剣勝負をしたい、などという理由である。
「ミズハねえちゃんは出場しないんだ……」
「いや分らんぞ。浄化魔法と偽ったギャラクシアnエクスプロージョンを放ちたくてウズウズしている筈だ」
「武闘大会ってお約束よね?他との差別化が必要じゃないかしら」
「それは神のみぞ知るってヤツだな」
「ハルちゃんが祝辞とか国民に挨拶するってイベントで何か起きるのかしらね」
「そ、それも……神のみぞ知るってヤツだな」
「ふ~ん」
「あ、あの……時々ユアイさまとヨシ兄さんが女神様とか聖女様とか元勇者様とか、お友達のように話されていらっしゃるのですけど、何か特別なご関係でもあられるのですか?」
「あー、ユキシには話してなかったけど、もう仲間だから良いかな?」
「あのね、ユキシちゃん。気をしっかり持ってよく聞くのよ!」
「お兄ちゃんと聖女ミズハねえちゃんは、幼馴染で恋人同士なの!」
「えっ」
「お兄ちゃんと女神ハルちゃんは、元恋人同士なの!」
「ええっ」
「お兄ちゃんと元勇者サトシさんは、ハルちゃんを巡る三角関係、恋のライバルなの!」
「えええっっ」
「お兄ちゃんとハルちゃんとは大観覧車で一回キスも済ましているわ。ミズハねえちゃんとは三回もよ!湖の畔でのキスは特に嫉妬したわ!!」
「ええええっっ!」
「おいユアイ!どうしてそんなに詳しいんだよ!」
「女の子はね、好きな人の事は何でも知ってるのよ」
ま、まさか、ご主人様たち……この方たちは、伝説の、人の身体をした神様でわ……




