第16話 渓流から出られない謎
「こんにちは、ユキシくん」
「あ!マナちゃん」
僕は待っていたよと駆け寄った。ヨシタカの兄貴は静かに僕たちを見守っている。マナちゃんの手を取って兄貴に紹介する。彼女の手はとても冷えていた。
「この娘がマナちゃん、可愛いだろ!」
「ああ可愛いな、こんにちは、マナちゃん、俺はヨシタカという冒険者だよ。怖がらなくってもいいからね、俺たちは味方だ」
少し違和感のある自己紹介をした兄貴だったが、視線は優しくマナちゃんのほうを向き、角度を変えて観たり、上から下までワンピースの服を眺めたり、おかっぱの髪の毛を触りたそうにしてたりと、兄貴をそのまま放っておいたら女の子の手さえ無断で握りそうな勢いで、そんなに美少女が好きなのかと呆れそうになった。
僕はちょっと兄貴の前に出て、兄貴に後ろにいるように目配せをした。
「マナちゃん、来てくれてうれしいよ」
「私こそ、今日も来てくれて嬉しい。ユキシちゃん、会えてうれしいよ。」
彼女は冷え切った身体をくっつけてきた。僕はマナちゃんを抱きしめながら目を兄貴に向けた。兄貴は分かってるよと口パクで僕に伝えてきた。
きっと彼女は地縛霊なのだろう。ここで暴行されたか、亡骸を捨てられたか、それで随分と長い間、ここに閉じ込められていたのだろう。僕は兄貴に相談した。冷たい身体をした彼女マナちゃんは生きている人間とは思えない、でも手は繋げることができるし、抱きしめるハグもちゃんとできる、物理的だ。
手が抜けてしまったり、頭を通過したのなら、神官の浄化魔法で処理をするのだろうが、生憎、実態がありそうなのだ。
地縛霊とはいえ、長い時間を過ごせば、妖怪みたいな身体になるのではなかろうか?彼女はきっとそうだ。白いブラウスにふわっとしたワンピース。大変清楚な雰囲気をまとった美少女。
僕はマナちゃんを救いたくなった。……と兄貴と相談し、昨夜話し合ったのだ。
しかし兄貴は顔が優れなかった。僕と目が合っても昨夜のように「俺に任せろ」といった気概を見せてはくれない。どうしたのだろうか?「悪霊でも一発で浄化してやる」、「お前の初恋でも残念だな」みたいなことを言っていたが、兄貴は腕を組んだまま真剣な眼差しだ。
「ねぇマナちゃん、今日は村に一緒に来れるかな?」
「ううん、村には行けないわ。私たちは村を見守っているしか出来ないの」
「夕飯も兄貴が奢ってくれるぞ、贅沢し放題だよ」
「とても魅力的なお申し出だわ。でも私はここから出れないから……」
やはり、ここから出る事が出来ないと断られてしまった。多分、ここから出ないと成仏できないのだと思う。それは可哀そうだ。僕は兄貴を見て、他の手段を相談しようと口を開ける。
「あ、兄貴……何か出来ないだろうか?」
「そうだな、結界なら種類が違うな」
……僕にはよく意味が分からなかった。




