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プロローグ そのニ

「ただいま〜…」


朝の快活な気分はどこへやら、憂鬱な気持ちで家の扉をまたぐ。

なけなしの元気を振り絞ってただいま、とは言ったけど、父からの返答はない。

そういえば今日は夜出かけるとか言ってたっけ。


「ハァ〜〜…」


ボスン、と投げやりにソファに身を投げる。 テレビのリモコンに手を伸ばそうとして…ソファから届かないのでやめた。

今日は災難だった。

ポチ(龍)に乗って意気揚々と家を飛び出したところで朝からつい先程まで、警察の方々(+父)にこってり絞られた。

さらに、器物損壊などの罪状は目を瞑ってもらえたがしばらくの間自宅謹慎を命じられてしまった。 ポチ(龍)と街中を爆走し、信号機などに衝突してはを現代アートのようにしてしまったのだから当然の報いではあるが。

とにかくこれでまたしばらく退屈な日々に逆戻りだ。

しょぼくれながらもお腹が空いたので夕飯でも頼もうかと思った矢先、玄関のチャイムが鳴った。


「はいはーい、今行きますよっ…とぉ」


まだ自分は何も頼んではいないので、大方父の頼んだ何かしら(どうせ研究関連)の荷物だろう。


「…あれ?」


しかし、玄関を開けばそこに配達員の姿はなく、代わりにカエデの身の丈ほどもある鉄の塊が鎮座していた。

()()それは直方体で人一人余裕をもって入れるくらいの大きさだ。

正面?には何やら緑色に発光するゲージのようなマークがある以外、特に装飾は施されていない。

とにもかくにも、玄関を塞ぐこの邪魔者を退けようとするが、想像以上に重い。


「いやいや、何これ…お父さんもこんなの届くなら事前に言っといてよね〜…って、ちょっと待ってこれめちゃくちゃ重いんだけど!?」


四苦八苦していると側面に取手のようなものがついていたのを見つけた。

よく見ると箱には肩紐の様な物も付いているのでこれらを使っての持ち運びを想定されている様だ。

よかった、これならなんとか持ち上げる事が出来る。 そう思い、取手に手をかける。


ーーーブゥン


瞬く間にその大きな腕ーーー、一見すると悪魔の手の形相のそれは、カエデの腕に取り付いたかと思うと側面からを装甲を展開し、さらにカエデの握っていた取手からは刃が生え剣となった。


「おおおおーーーッ!!??」


一瞬の出来事に驚愕の声しか出ない。 剣自体は珍しい物ではないが、こんな風に変形し、ましてや使用者に取り付くなんてものは聞いた事がなかった。


「すごい!!カッコいいーーッ!!!お父さんが作ったのかな?もしかして、普段頑張ってる私へのプレゼントってコト!?」


…いや。恐らくそれは無いだろうな。 前述した通り私は普段惰性に生きていて、お世辞にも普段から頑張っているとは言い難いし。

では誕生日かなんらかの記念日だったか? それもないだろう。私の誕生日はまだ先だし、今日が何かの記念日という事もなかったはず。 強いて言うなら今日は警察にお世話になったので、出所記念日か。


「…まぁ普通に考えてなんかの研究品だよね。」


ならば本来の持ち主であろう父に渡せねばなるまい。 その為にはまず箱の形に戻さないと。

…どう戻すんだろこれ。

今なお右腕に装着されたアーマーを空いた左腕で色々といじくっていると、剣の鍔部分の緑色に発光するマークに目がついた。

これは剣に変形する前の箱の状態の時に、正面に付いていたマークだ。

あれは鍔の部分が外から見えていたらしい。 なんとなしにそのマークへ手をかざしてみる。

すると、今度は突然機械音声が発せられた。


「識別律98%。初めまして、東雲楓。雑賀を受継ぎしもの。我らの夢。」


「ええーーーッ!!今度は何!?喋った!?」


この剣、変形するわ喋るわで何でもありだな! しかも、サイカ?を受け継ぎしものって…?

イマイチ状況の急展開に頭が追いつかない私をよそに、その音声は淡々と続ける。


「…可惜夜(あたらよ)。この剣の…識別名かつ、サポートAIであるワタシの名です。」


謎の機械音声はそう言うと、また瞬く間に元の箱の形に戻った。


「え、えーと、アタラヨ、さん…?ちょっと聞いてもいいかな?」


とにかく喋ることが出来るならこの謎の状況を説明してもらおう。


「承知しました。質問をどうぞ、東雲楓。」


「さっき言ってたサイカがどーの、ってどういう事なんですか…?」


「回答します。アナタは戦国時代の傭兵集団、雑賀一族の長、雑賀孫一の子孫である、ということです。」


雑賀一族。初めて聞く名前だ。どうやらかなり知名度の高い集団ではあるらしい。

しかもその長の子孫との事。 歴史の授業で睡眠時間を得た代わりにここでのカタルシスを失っているな、私。

歴史に詳しければここであの雑賀の!?ってなれたんだろーに。あーあ。

内心嘆く私を放って、アタラヨさんはここからが本題です、と前置きして続ける。


この暗闇の世界は戦国時代に終わりの見えない戦に疲れ果てた12の大名達が、神様と『夜が明けない代わりに辛く悲しい時代を終わらせる』取引をした事。

その取引の結果、陽の光は失われ、その提案に雑賀一族のみが反対し、一族は猛攻撃を受け滅びた事。

しかし何とか、族長である雑賀孫一の子孫のみは生き永らえ、この剣を代々後継者に託していた事。


なるほど、わからない。 …というか、なんか1聞いたら10帰ってきたな。

こうなると私から聞く事はただ一つだ。


「えーと、それで結局私はどうすれば…?」


恐る恐る聞く私にアタラヨさんは、さも当然かの様に答えた。


「もちろん、アナタには雑賀孫一の意志を継ぎ、世界を救っていただきます。」


「えええ!?いやいやどういう事、それ!?」


「ああ、失礼。具体的に申し上げると、12の大名の後継者達を全員ブチのめし、欠片を全てブッ壊していただきます。」


どういう事、ってのは別に具体的なやり方を聞いたわけじゃ無いが!というか、口悪いな!


「でも、私ただの女子高生ですよ!戦いだって実践はした事ないし…」


「その心配に関しては問題ありませんよ」


学校の授業で刀を使った訓練はあるが、実践経験なんてものはない。

そんな私の不安を、アタラヨさんは悔い気味に否定した。


「アナタはあの最強無敵かつ偉大なる女傑、雑賀孫一の子孫なのですから。とりあえず戦ってみれば眠っている才能が開花するでしょう。最強無敵の美少女戦士として」


ああ、最強と言っても孫一の次に、ですが、と付け加えアタラヨさんは自信満々に最後にこう締めくくった。


「世界の救世主、東雲カエデの名は後世に語り継がれるでしょう。今この瞬間がその伝説の始まり、というわけですね」


…正直かなり不安な回答ではあるが、「世界の救世主」とか「美少女戦士」という厨二ワードには心がときめいた。こちとら毎週日曜朝の特撮番組に育てられた乙女。そういったアニメや漫画の世界の物語の主人公になるチャンスが目の前にある、そう思うと湧き立つ心が抑えられない。その辺をアタラヨさんはよくわかっておられる。


「ふ、ふーん?まぁ?選ばれし者なのは事実なわけですし?学生生活も退屈してたところだから、ちょうどいいかもな〜?さっくり世界を救って、教科書とかにものっちゃったりして?…へへ」


「ええ、可能です。この可惜夜とアナタがいれば歴史の教科書の表紙を飾る事も容易いでしょう。」


「…!よーし、んじゃあ善は急げだよね!」


すっかりその気になった私は、着替えや最低限の生活用品を鞄に詰め込む。

お父さんには置き手紙だけしといて、世界を救った後改めて謝ればいいよね!

「ちょっと世界を救ってきます」…っと。これでよし!


「準備できた!」


さぁ、12の国を巡り、世に光を取り戻す勇者東雲カエデの物語が今始まるのだ!


「よし、早速出発しよ!ポチを起こしてくるね!」


「エッ」


「えっ?」


「い、いえ。カエデ、龍での移動はやめましょう」


「どーして?龍の方が手取り早く目的地に行けるよ?」


意気揚々と駆け出す私にアタラヨさんから思わぬ提案。

私の運転が心配なのかな?


「大丈夫!今朝はちょっと無茶しちゃって警察に軽ーく怒られたけど、ちゃんと次は安全運転するよ!」


「いえ。カエデ、そういう問題では無いのです」


アタラヨさんの今まで以上に張り詰めた口調に少し空気が張り詰める。

余程ちゃんとした理由があるのだろう。

確かに私達はあくまで観光に行くわけじゃ無いし、目立つとまずい、よね。


「吐きます」


「吐く?」


真面目に考えている私に帰ってきたのは思わぬ答え。


「…何を?」


「オイルや、下手したら内臓部品まで。そうなると二度と変形できなくなる恐れがありますね」


「機械なのに酔うって事!?そんな事あるの!?」


「ええ。高性能サポートAIですから」


「変なとこで性能を発揮しないで欲しいな…」


…薄々思っていたけど、アタラヨさんってポンコツでは?


「失礼ですね。さすがに心外です」


「うわぁ!心も読めるの!?」


「いえ。しかし、恐らくこう考えているだろうと思い、思考を予測し返答しました。これも高性能故なせる技。」


「根に持ってるな…」


…ともかく、こうして私は自称高性能AI付きの剣を手に長い旅をする事になったのであった。

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