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第4話 魔女の本質は、魔女によって違う

「プワッー! やっぱ冷えたエールは美味いな!」


 まだ日が沈むには早い時間から酒を楽しんでいるのは、竜人のサイファだ。ジョッキなみなみに注がれが泡立った酒を一気に飲んで上機嫌だ。既に十杯は飲んでいるのではないのか?


 私は炭火の上に金網を敷いた肉と野菜共の面倒を見ている。やはり四日も空けていたら、だいぶん野菜が傷んでいた。だから今日は肉よりも野菜の方が多いバーベキューになっている。

 勿論バーベキューだから、家の前で火を囲いながら、木陰の下で食べている。


「魔女さんや。ちと肉が少なくないかのぅ?」


 既に焼き鳥を十本完食し、焼き上がり待ちの賢者が言ってきた。


「肉はいつも通りだ。野菜が焼けているからそっちを食べればいい」


 私は肉はまだ焼けないので、焼き上がっている野菜を食べろと勧めるも、顔を横に背けて絶対に野菜を食べないという態度を取った。

 じじい。肉ばかり食うな。野菜も食べろ。


「そうだぞ。じいさん。野菜も食わないと駄目だぞ」


 見た目に反して、サイファは野菜好きだ。この大量の廃棄処分の野菜もほとんどがサイファの腹に収まることだろう。


「野菜を食わんでも死なん」


 まぁ、今まで肉食で生きているのだから、私がグチグチ言うことではない。


「しかし、弟子は何をいじけておるかのぅ」


 賢者は呆れた声で私の向かい側に座っている者に声をかけた。そう、なぜかクロードがここにいるのだ。私は戻れと言ったはずだが?


「ほら、坊っちゃんもたくさん食え、大きくなれないぞ」

「トカゲの。人の成長は早いものぞ」

「ああ? 俺より小せぇだろうが!」


 サイファよ。人は竜人のようにデカくはならない。私も二メル(メートル)超えの人は今のところ見た記憶がないな。


「魔女なんて、全然変わってねぇだろう?」


 まぁ。初めて会った時は二十歳ぐらいに化けていたからな。それから見れば、外見が変わったぐらいで、背丈はそれほど変化はしていないだろう。


「魔女じゃからのぅ」


 賢者のじじぃは魔女の一言で済ませてしまった。間違ってはいないが、一応子供から大人にはなってはいるぞ。


 さていい頃合いか、仕上げにタレツボに串に刺さった鳥肉を入れて、網の上に並べて再び焼く。タレと鳥の脂が火に炙られて、香ばしい匂いが辺りに立ち込めてきた。


「出来たぞ」


 私は自分の分を一本確保して、焼鳥が出来上がったと言葉にした。その瞬間、網の上に並べてあった二十本の焼き鳥が一瞬にして無くなる。

 じじぃ。一人で十本も取っていきやがった。


 ちっ! いつもなら鳥一羽で十分なのに、一人増えたから、じじぃが物足りないオーラを出しているじゃないか。

 なぜ、ここで当たり前のように、食事をしているんだ。


「イズミの作ったものと同じ味なのに」


 クロードが焼き鳥を食べながら文句を言ってきた。

 同じだったら何かあるのか? 文句があるなら食べなければいい。


「この風景も見覚えがある。この家も知っている。賢者様もサイファもいる。なのにイズミが居ない」


 私を睨みつけながら、何を言っている。しつこいぞ。そんな昔のことはさっさと忘れろ。


 ぶつぶつ文句を言っているクロードにサイファと賢者のじじぃはニヤニヤとした笑みを浮かべている。なんだか嫌な予感がするのだが……。


「弟子よ。では問うが、魔女とはどういう者じゃ?」


 じじぃは一年しか弟子にならなかったクロードのことを、存外気に入っているようだ。そもそもクロードは魔力が多いわりに、魔術を扱えていなかったのは、魔力が多すぎてコントロールできなかったからだ。

 一度コツというものを掴めば、するすると魔術が扱えるようになり、じじぃも教えがいがあったのだろう。


「はい、賢者様。魔女は生まれながらにして魔女であり、保有する魔力は人とは比べることはできず、個々の魔女によって保有する知識は違い。その知識は真理を知ることと同意義だと言われています」


 昔はよくこうして賢者のじじぃの質問に、じじぃの書庫で読み漁った資料の知識をクロードは披露していたな。


「ふむ。その通りじゃ。魔女は生まれながらにして魔女じゃ。だから、歳も姿も関係ないのじゃ」


 じじぃ。歳は関係するだろう。いい加減なことを教えるなよ。


「因みに魔女自身が名乗る名にも意味がないのぅ」


 名前に意味が無いのは認めよう。魔女は本当の名前に呼ばれるのを嫌っているから、必ず偽名を名乗る。因みに魔女の代表として上げた赤銅のメイアも白銀のリリーも二つ名に恥じない髪の色をしてはいるものの、本来は膨大な魔力を保有している証としての黒っぽい髪色だということは、魔女の公然の秘密みたいなところがある。

 だが、力がある魔女は、己が得意とす魔術の属性の色をまとうことによって、魔術の精度を上げる目的の為に、色を変えている。


 言い換えれば、そこにたどり着いた者が真の魔女とも言える。


「名も歳も姿も関係ない……では残るのは……魔女としての本質」

「正解じゃ。では黒橡(くろつるばみ)の魔女の本質はなにかのぅ。魔女さんや」


 何故に今度は私に質問してきた!黒橡(くろつるばみ)の魔女の本質なんて見ればわかるだろう。

 ああ、魔女の本質とは、その魔女の存在意義と言っていい。しかしそれは魔女自身の在り方であり、本能であり、与えられた役目でもある。だからわざわざ魔女自身が言葉にすることはない。


 因みに赤銅のメイアは攻撃力の強い魔術を使うことで有名だ。そして過去に何度か国同士の戦いに介入してくることから、仲裁か、両成敗を行ったと思われる。だから、赤銅のメイアが介入してきた戦は、直ぐに停戦へと持ち込まれるようになった。でないと両国の被害が甚大になるそうだ。


 白銀のリリーはどんな病も治せると言われている。しかし、魔女の家にたどり着くまでに半数が死ぬと言われる極寒の地に住んでいる。一人の生のために、幾人もの人を犠牲にできるのか、命の重さを問われているようだ。


 この様に魔女と呼ばれる者には役目が与えられているのだ。

 誰に? きっと世界にだろうな。


 では私は何の役目を与えられているのか。


「ふん! 私は黒橡(くろつるばみ)の魔女と名乗っている。それが全てだ」

「魔女さんは恥ずかしがりやじゃのぅ」


 どこが恥ずかしがっているって? 私は答える意味はないと言っているんだ。


黒橡(くろつるばみ)は喪に服す色じゃ。魔女さんは死の魔女じゃよ」

「死の魔女……イズミは俺に生きることの楽しさを教えてくれた。やっぱり違うのか?」


 まぁ死の魔女でもいい。正確ではないけれど。


「坊っちゃん。じいさんの言葉をそのまま受け取るな。俺も魔女に助けられたって昔話したよな」


 サイファが賢者のじじぃの言葉を否定する。賢者のじじぃは偏屈だ。そして意地が悪い。

 これは絶対にクロードの反応を見て楽しんでいるのだろう。


「俺は国の奴らに、やっていない罪を被せられて、死刑が決まっていたんだ」


 これは英雄という名が、国民から人気があったことに由来する。ただの人気者という者ではない。政治的に影響するほどの人気と言ってよかった。

 となればサイファの発言力は強くなっていき、亜人人種の竜人サイファが口出ししてくることに、よく思わなかった国王がサイファを陥れようとしたのだ。


 己の娘に手を出したという、ありもしない強姦事件をでっち上げた。


 いや、サイファは竜人だからね。人はオスかメスぐらいの違いはわかるが、顔は一緒だろうという感覚しかない。そう、人の美醜がわからないのだ。

 それが国一番の美女と言われる王女を無理やり犯したという事件をでっち上げたのだ。


 私はそのとき三歳だったが、自分を魔女だと自覚した。なんというか、どこからともなく怒りが湧いてくるというか。何かを成さなければならないというか。よくわからない衝動に駆られたのだ。


「魔女はな。檻の中にいる俺に尋ねたのだ。このまま公開処刑されるのと。何かしらの罰を受けてこの国を去るのとどちらがいいとな。それを聞いた俺は勿論憤った。俺は何も悪いことはしてないと。なぜ、罰を受けなければならないと」


 捉えようによっては理不尽だ。そのまま無実のサイファを檻から連れ出してもよかった。だけど、その後が絶対に面倒くさいと思ったのだ。だったら、刑罰を変える方向に持っていって、自ら檻の外に出た方がいいと。


「それで言われたのが、このまま逃げ出すと一生逃げ続ける生活をして行けなければならないってな。それよりも何かの刑罰を受けて国を出ていけばいいってな。魔女はな、理不尽な死を正す魔女なんだ」


 いや、合っているが微妙に違う。


「サイファ。竜人の英雄が島流しになったのは、二十年ほど前だったと思ったが? それだとレイラリズ・アズヴァールは二歳だな」


 クロード。正確には十九年前だ。それになぜ私をアズヴァールと呼ぶ。サインはしたが、まだ受理はされてないだろう。

 婚姻は教会の教主のサインがないと成立しない。国王のサインも必要だが、あの書類には既にしてあったのだ。これはきっとアレン大叔父様がサインをもぎ取ってきたのだろう。


「アズヴァール? はて? 魔女さんは刑の魔術師の血であったはずじゃろう?」


 賢者のじじぃは別に私の名を知らないわけじゃない。グラシアール伯爵家はその昔、罪を犯した受刑者を働かせる鉱脈を持っていた。いわゆる囚人労働というものだ。その者たちを縛る術に長けていたという、嫌味な言い方が、刑の魔術師という言葉だ。私はあまり好きではない。

 まぁそのお陰で、お祖父様の家には普通では教えられないだろうという魔術書があり、色々知識が増えたのは感謝はしている。


「じいさん。魔女が四日も俺達を放置して出かけていたのは、結婚してきたらしいぞ」

「は? 結婚? 相手を海に沈めてきたのか?」


 君たち。なぜ、私が結婚すると相手を始末すると決めつけられているんだ!

 それに賢者じじぃの演技を忘れるほど、驚くことか!


「クソエルフ。じじぃの皮が剥がれているぞ」

「ごほんっ! それで、その可哀想な相手は誰じゃ?」


 私はちらちらとこちらに視線を向けてくるクロードを指し示した。


「因みにお互い干渉し合わないというのが、結婚条件だ」

「ふむ。トカゲの。わしの弟子は馬鹿であったな」

「いや。もやしの坊っちゃんが、ハゲジジイの後釜になるほどだから、馬鹿じゃないだろう」


 サイファの言葉に、賢者のじじぃは険しい顔をして、クロードに聞いた。


「もしかして、魔術師長の任についたのか?」

「はい」

「わしはそれは勧めぬと言ったはずじゃが?」

「はい。覚えております」


 賢者のじじぃはそういうだろうな。じじぃがいるときから、王位の交代が行われてはいない。今の王の下で働くのは、じじぃとしては勧めないだろう。


「ふむ。アズヴァールか。あの若造が弟子を跡継ぎにか……きな臭いのぅ。王は戦をしようとして、アズヴァールの若造はそれに反対しているという感じかのぅ」


 アレン大叔父様を若造というぐらいに、あの国に居座った賢者のじじぃは、国王の行動を離れた孤島でも手に取るようにわかるようだ。 


 あの国は水面下で戦の準備をしている。それは事実だ。物資を集めているため、徐々に物価が上昇しているところだ。

 この前買い出しに行ったときに驚いたよ。小麦が三倍の価格にまで上がってた。三倍は駄目だろう。


「賢者様。私とレイラリズの婚姻になぜ、戦争を反対するという意味になるのでしょうか」


 クロードが賢者のじじぃに尋ねた。しかし、いつの間に私を呼び捨てにするほど、仲が良くなったのだ?


「弟子をアズヴァール公爵家に取り込むことで、好き勝手にさせないという意思表示じゃな。公爵家の当主となれば、簡単に戦争には駆り出すことはできぬ。それで今はアズヴァールの若造はどうしておるのかのぅ?」


 なぜ、私に聞く。これは私に詳細を視ろということか?


「辺境に行ったと聞いたが、詳細の確認が必要で?」

「頼めるかのぅ」


 私は息を一つ吐いて、遠見の魔術を施行する。辺境と言われても広いからな。直感的に西の辺境か。あそこは隣国との小競り合いが多い土地だからな。 


 西の辺境の方を視てみると、乾燥した荒野に土煙が立ち上っているのが見える。これは観るだけなので、音が拾えないのが難点。

 土煙が立ち上っている方に焦点をあわせると、争いが起こっているようだ。魔術が飛び交い、武器を交えている人々がいる。その奥の方に陣地に陣取っている大柄の人物がいる。どうもこちらの陣地の指揮官のようだ。それがアレン大叔父様。


 ……あの国王!見合いの席にアレン大叔父様がいないと思ったら、隣国との小競り合いに大叔父様を駆り出していた。


「はぁ。隣国ダレンガルドといつもの小競り合いに辺境伯ではなく、アレン大叔父様が出ておられています。……そろそろ国王の首をすげ替えてもいいのではと、黒橡(くろつるばみ)の魔女は発言します」



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