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第17話 どこから私が浮気する話になるのだ!

 そして三週間が経った。私とクロードは再びアズヴァール公爵邸を訪れている。


 今日は国王と王太子の国葬が行われる。地方の領地から多くの貴族が国葬に参列するため、王都に来ているらしい。

 らしいというのは、私はあれから一度も王都には出向いてはおらず、じじぃとクロードが話しているのを横で聞いていたからに過ぎない。


「アレン大叔父様。今日は本当に私とクロードだけで、参列するのですか?」


 そして、黒い喪のドレスに頭から黒いベールを被り、手には黒い手袋をして、アレン大叔父様の前に立った。クロードも同じく黒のスーツを身にまとっている。


 私とクロードが通されたのはアレン大叔父様の寝室だ。ベッドの上にはとても顔色がよく、生気がみなぎっているアレン大叔父様が枕を背に、病人のように座っている。


「レイラよ。わしは見ての通り、病気で行けぬ。代わりに参列してくれ」


 ……全然病弱そうには見えないけど?

 これは、アレン大叔父様が病気になってしまったので、お披露目はしていないが、アズヴァール公爵家に養子に入ったクロードとその妻のレイラリズが、参列するというシナリオか。


「屋敷の中でもこのようにしなければ、ならないのですか?」


 屋敷の中ぐらい、普通に過ごしてもいいと思うのだけど?

 するとアレン大叔父様は人差し指を立てて、口元に持ってきた。


 これはそういう話をするなということか。

 ……ああ、ネズミが入り込んでいると……いや、わざと侵入させて、真実味を帯びさせているのか。


「アレン大叔父様、それよりも……」

「レイラ。おじいちゃんと呼んで欲しい」

「……」


 おじいちゃん……そう呼ぶには無理がある。戸籍ではアズヴァール公爵家に入っているけれど、現当主をおじいちゃんと呼ぶには、色々問題がある。

 私はちらりと、アレン大叔父様にいつも付き従っている侍従のディオールを見る。すると意味深な表情をして頷いてきた。


 これも何かの作戦の内か?


「お……おじぃ……ちゃん……」


 呼べるか! 絶対に無理があるだろう!


「くっ……あの、私はただ参列するだけで、良いのですよね。社交とか無理ですからね」


 何かの作戦であるなら、このなんとも言えないざわざわした気持ちも抑えよう。


「旦那様。念願が叶ってよろしゅうございましたね」

「くぅぅぅぅ……年々妻に似てくるレイラから……おじいちゃんと呼ばれたぞ」


 ん?


「アズヴァール公爵。レイラは私の妻ですよ」


 クロード。アレン大叔父様に殺気を向けるな。

 いや……ちょっと待て、これはもしかして、ただ単に奥方に似ているという私に、そう呼ばれたかっただけか?

 恥ずかしいのを我慢して呼んだのに!


「クロードよ。わしは動けぬゆえ、レイラを頼んだぞ」

「はい、お任せください」

「それから、付き人としてディオールをつけよう。気をつけて行って来るがよい」


 そう言われ、アレン大叔父様の寝室を出さてた私達は、玄関前に停められていた馬車に乗るように促されたのだった。




 私とクロードは進行方向を向くように座席に座り、向かい側にディオールが腰をおろした。そして、ゆっくりと馬車は動いていく。


 アズヴァール公爵邸から国葬が行われる聖堂は、そこまで遠くなかったはずだ。行ったことはないけど、同じ区画内にあったはず。

 しかし引きこもりの情報など、人から聞いただけなので、不確かな情報だ。


「クロード様。やはりカルムオールレイ殿下は国葬中に、王位を継ぐことを宣言する予定のようです」


 王弟の国葬で王位につくことを発表するらしい。しかし、それは第二王子と第三王子が許さないだろう。


「そうか」


 クロードは驚いた感じではないので、その情報は事前に知っていたのだろう。クロードの上司が王弟だからね。


「こちらでは根回しは済んでおります」


 根回し? アレン大叔父様が動いていたことか?


「わかった」


 これは仕事に行ってくると王都に行ったクロードは、アレン大叔父様と連絡を取っていたということか。

 いや、じじぃが一枚噛んでいることかもしれない。私は空気のように存在感を消しておこう。

 じじぃの作戦をぶち壊てしまったら、絶対にあとからネチネチと言われるのが目に見えるからな。


「それからジャンハルト殿下はすでに王都の中に潜伏しており、ナルタルエーサ辺境伯爵の兵と共に、本日動くつもりのようです」

「王都壊滅作戦か!」


 思わず叫んでしまった私に、二人からの視線が突き刺さる。いや一個師団は駄目だろう。一万規模の兵なんて!……潜伏できるのか?

 そもそもの疑問にぶち当たってしまった。

 そんな大人数を隠せる場所なんて無いように思える。


「レイラ。それはないだろう。ジャンハルト殿下は王に立とうとしているのだ。国を滅ぼしたいわけじゃない」

「え? だって王子が言っていたし、弟が辺境から一師団を連れてきているって」


 すると隣からなんとも言えない気配が発せられてきた。そうだよね。流石に一個師団は多すぎるよね。


「レイラ。いつジャンハルト殿下と逢引していたのだ?」

「合い挽き? お肉の話?」


 ん? お肉のどこに王子が掛かってくるんだ? いや、王子に肉が掛かってくる? 話が繋がらないな。


「……違う……いつ俺が居ない間にジャンハルト殿下と会ったんだ」

「え? 私が渡した魔女の家にいける紙を持って客として来ただけ」

「……レイラ。これから客が来たときは俺を呼べ、同席する」

「面倒だから嫌」

「レイラが浮気するじゃないか!」

「いったい何の話だ!」


 辺境から兵を連れてきているという話から、なぜ私が浮気する話に差し替わったのだ!


「ごほん! クロード様。レイラ様が名前で呼ぶ基準を知っていますか?」


 ん? 基準? そんなものはない。


「旦那様のことは最初は公爵様と呼んでおいででした」


 確かに、お祖父様から紹介されたときに、アズヴァール公爵と言われたから『公爵様』と呼んでいた。それがどうした?


「旦那様のご友人のグラシアール伯爵夫人が病に倒れられたとき、旦那様は夫人のために、各地から薬師や医者を連れてきて、夫人の病を治すために奔走されたのです」


 あのときのアレン大叔父様は、ご自分の奥方が病に倒れたのかと思うほど、色々してくれた。

 でも私は知っていたから何も言わずにいた。お祖母様は死に囚われていたと。

 じじぃに聞いても、それを治すことはできないと言われた病。


『クタネア病』

 それは魔力の硬質化現象が起きてしまう病だ。身体を巡る魔力の硬質化は肉体を徐々に固めていき、四肢が動かなくなり、臓器が動かなくなり、やがて死に至る病。


 だから、アレン大叔父様の行動は無駄だと知っていた。だけど、その想いはお祖父様には届いていたから、全てが無駄だったわけではない。アレン大叔父様の行動にお祖父様は救われたと、私は思っている。

 手は尽くしたと、何も出来なかった無力感をお祖父様が感じることはなかったのだから。


「その時ぐらいからでしたね。旦那様のことを、アレン大叔父様と呼ぶようになったのは」


 そう……だった?


「ですが旦那様はレイラ様と家族になりたかったのですよ。ですから、今日やっと『おじいちゃん』と呼んでもらって喜んでおいでだったのです」


 ん? 何がどうなって、そこに話が飛んだのだ? 『おじいちゃん』呼びはアレン大叔父様にお孫様がいないから、私で代用させようとしたってことじゃないのか?


「そうか。レイラがその人物の肩書で呼んでいる人と、名前で呼ぶ人と、賢者様を『じじぃ』と呼んでいるのと何か意味があるのかと思っていたら、その基準は信頼度ってことか」

「いや、そんな変な基準はない」


 クロードのよくわからない解釈を否定する。特に意味なんてない。


「ということですので、クロード様はレイラ様にはそれなりに、認められておりますよ」

「いや、だからそんな変な基準はない」


 どうでもいい、くだらない話をしていたら、馬車がガタンと揺れて止まった。

 おい! 結局何がどうなって、王弟を仕留めるのか作戦は聞いていない!

 あ……いや、聞かなくてもいいから、王子の王都殲滅作戦をどうにかしないと大変なことになると思う。


 何故に二人して生暖かい視線を私に向けてくるのだ。





 私はクロードにエスコートされ、聖堂内を進んでいく。その前には教会の関係者だろうか。白く長い修道士の衣服を身に着けた者が私達を先導してくれている。

 どうも貴族の地位によって、立ち位置が異なっているらしい。


 まぁそうだろう。


 私とクロードはかなり前方に連れて行かれている。国葬が始まる時間にはまだ早いはずだが、すでに多くの貴族が参列していた。そして、凄く奇異な目で見られている気がする。

 私がというより、クロードがだ。何かおかしなことでもあるのか?


 国王と王太子の(ひつぎ)が置かれている、最前列の席に案内された。


 隣のおっさんは誰か知らないけど、高い地位にいる人なのだろう。クロードが小声で魔術師長モードで挨拶をしていた。おっさんが私に視線だけ向けてきたので、軽く膝を曲げて無言で挨拶をする。誰か知らないけれど……。

 因みに私は黒いベールを被っているので、相手からは顔は見えないようになっている。

 きっとお前は誰だ状態は、お互い様だ。


 暫し待つと王族の方々らしき人たちが棺の近くに並びだした。それも異様にキラキラした装飾品や勲章なのか? よくわからないが、そんなものを付けたが人たちが入って来たのだ。

 何か場違いのような気もするが、ざわめきも起こらないから普通のことなのだろう。そして、聖堂の鐘が鳴り、厳かに国葬が始まった。


 はっきり言って、この国の宗教観には興味が無かったので、お祖父様に時々近くの教会に連れて行ってもらった記憶しかない。


 神として崇めるのは初代国王だ。これを聞いただけで、興味は無くなった。初代国王って凄いんだぜ洗脳だと思ったね。

 ん? ということは建国時からいる賢者のじじぃは、生き神扱いされていてもいいのでは? 

 いや、それはそれで怖いな。献上物は肉しか受け取らないことは目に見えている。



 そんなバカのことを考えていると、出棺するためか、何やら真っ白な軍服を身に着けた者たちが、前方に出てきて整列しだした。


 それにしては数が多いな。五十人ぐらいいるのではないのだろうか。いや国王と王太子の棺があるからそれぐらい必要か。


 そして、二つの棺の前に並んだ白い軍服を着た者たちの前に、金髪の五十歳ぐらいの偉そうな男性が出てきて、参列者の方に顔を向けてきた。

 絶対に油取りすぎだよねっ言う感じの大柄で、顔がテカっている人物が王弟カルム……オ……なんとかだ。


「兄王はこの国を護るために、そして人々を護るために、強国を目指していましたが、志半ばで初代国王の元に向かうことになってしまわれた。これほどの深い悲しみはないでしょう」


 何か突然しゃべり出したな。しかし、その横で第二王子と第三王子が何か焦っている雰囲気を出している。

 もしかしてシナリオにないことを、王弟はしているのか?


「ですから私が兄王の意志を継ぎ、この国を世界に轟かすほどの強国にしましょう」


 言葉が薄っぺらいな。


 すると第二王子と第三王子が動き出した。


「叔父上! この場ではその様なことを言う場ではありません!」

「貴方には国を治める能はない! その者たちと共に立ち去っていただきたい!」


 第二王子と第三王子が王弟をこの場から退場させようと、後方に向かって王弟を捕まえろと言っているが、その王子二人の動きに、白い軍服を着た人たちが動いた。いや、一番中央にいる白い軍服の人物が腰に佩いている剣を抜き、第二王子の首を突き刺し、跳ね飛ばした。

 次いで、直ぐ側にいた第三王子の胸を一突き、第二王子に気を取られていた第三王子は悲鳴も上げることもなく、冷たい石の床に倒れていった。


「なんと嘆かわしい。この国を強国に導こうとした兄王の葬儀にクルーセイム第二王子殿下とヴァイレール第三王子殿下が言い争い、お互いで殺し合いをしてしまったとは」


 は? いや、白軍服が殺したの見ていたし! こんな嘘が受け入れられると思っているわけ?


 しかし前方で見ていた人たちから動揺する声は上がることはなく、絶対にこの惨劇を見ることが出来なかったであろう後方からざわめきが聞こえてきた。


 これはもしかして、この前列に並んでいる方々にとって、王弟の行動は予想できることだったってこと?

 うわぁ……この国もう終わっていない? こんなことが、まかり通るって最悪。


 王弟は二人の王子の亡骸をニヤニヤとした顔で眺めていたのだった。


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