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第11話 剣士からの依頼が王子を助けろ?

「クルーセイム殿下とヴァイレール殿下が、俺のところに来た理由はアズヴァール公爵は誰につくのかという確認をされたのだ」


 これは予想の範囲内。第二王子と第三王子は仲が悪く、何かと張り合っていると噂に流れている。その仲裁に入るのが、今は戦場に出ている王太子なのだ。王太子が王都に居ないため、二人の王子の行動を止める者がいないと思われる。


「昨日の話では、まだ公爵の地位についていないと聞いたが?」


 剣士の言う通り、アレン大叔父様がアズヴァール公爵を名乗っているので、クロードの立場としては、アズヴァール公爵家に養子に入っただけにすぎない。

 王位争奪戦の後ろ立てになるかどうかの判断はするべきじゃない。


「ああ、間違いはない。だから面倒になって戻ってきたのだ」


 これは王の命がそれほど長くないと、王族共が王位を得るために動き出したということか。


 いや、それ普通じゃないから。


「普通に王太子の王子でいいじゃない」

「魔女殿。王太子を飛ばしている」

「剣士殿。王太子の先も長くはないよ。黒橡(くろつるばみ)の魔女が言葉にするのだから、間違いはない」


 恐らく王族の中でまともな人物は王太子だけだと思う。だから、王族の中でも一人だけ戦場に立っているのだろう。

 王族としての責務として。


「だったら、王子なんて王弟に殺されて終いだろう!」


 ……剣士に言われるまで、そのような考えが無かった。言われてみれば、王太子という存在を失った、王子は狼の群れの中に放り込まれた子羊同然。

 しかし……


黒橡(くろつるばみ)の魔女の宣告は、理不尽な死に対しての慟哭の叫びを、世界から受け取るって感じだから、王太子の子供の死はわからないなぁ。直接見れば、死をまとっているかは見分けつくのだけど……私が直接手を出すわけにはいかないんだよね」


 私が手を出せば、この島に囚われてしまう。王位を受け継ぐ者としては、それはいただけない。


「俺の家族を逃がしてくれただろう? 王子も王弟の魔の手から逃がすことはできるだろう?」

「やけに親身になって王太子の子のことを心配するんだね」


 何か焦った感じが剣士からは窺える。

 剣士が王弟に殺された後(死んではいないけれど……)、人質に囚われていた家族も殺されるはずだったのだ。それを私は助け出し、転移で国外に連れ出した。

 因みに剣士の家族を助け出したのは、剣士からの頼みであり、対価をもらったので、黒橡(くろつるばみ)の魔女としては動いてはいない。だから、剣士の家族は島に囚われるに値しない。


 恐らく、王太子の子を自分の家族と重ねてしまっているのかもしれない。そう、人質として囚われていた、剣士の弟は見せしめとして、剣士の前で殺されたらしい。


「生きてくれていれば、なんとでもなる」


 まぁ、正当な王位は王太子に受け継がれるべきてあり、王太子に何かあれば、その子供に王位が受け継がれるのだ。王太子の子が生きてさえいれば、盤上の駒はひっくり返すことが可能だと。


「魔女殿。俺から依頼をしたい。王太子の王子を安全な場所に移して欲しい」

「剣士殿には関係ないことだと思うけど?」

「確かに俺には関係はない。ただのエゴだ。今までの俺はあの時死んだとお思っている。死を見せつけられたときにだ」


 剣士からは弟の死は今まで口の端に上ることは無かった。それを聞いたのは剣士の家族からだ。


 剣士は未だに弟の死に囚われているのだろう。だから、弟のような死を受けるものを増やしたくないということか。


「対価は……魔女の家の建て替えを手伝おう」

「は?」


 ちょっと待て! なぜその言葉が剣士から出てくるんだ? これは今朝じじぃがふと漏らしただけで、私は反対して終わったはずだ。


「建て替えないし!」

「サイファ殿が少し前にきて、木の加工を手伝えと言って去っていたが? もちろん、俺は否定したのだが、対価として手伝おう」


 サイファ! 私は肉の確保をしてくるように言ったはずだ! なぜそれが、建築素材の確保に変わってしまっているんだ!


「私はこの家のままでいい!」


 長椅子から立ち上がって私は叫ぶ。

 今からサイファを捕まえて無駄な伐採を取りやめさせなければ!


「魔女様」


 リサが少し困ったような顔を私に向けてきた。


「賢者様から既にそちらの魔術師長様との婚姻届が受理されたと伺っています」

「いや、国王のサインはされてあったけど、教主のサインはまだなかったからね」


 受理はされていないはずだ。なぜなら、あの日の教主は、国王が騒ぎ立て王城に呼び出されたからだ。婚姻の書類にサインする暇なんてなかったはずだ。


「アズヴァール公爵家の執事に婚姻届を渡したから、あのあと直ぐに教会に持っていって教主のサインを受けたはず。それがアズヴァール公爵の指示だったしな」


 アレン大叔父様! そこまでの指示を出さなくても良かったはずです!


 そしてなぜ、私の手を引っ張って、長椅子に座らせるんだ? クロード。

 私は今からサイファのところに行かないといけないのだ!


「魔女様。島の皆さんは不安なのですよ。公爵夫人となると、王都の方に住まいを移して、こちらに戻って来ないようになるのではと。だから、ラクスも何かと言っていますが、魔女様がこの島に居てくださるのなら、家の一つや二つ建てるのを手伝うと言っているのです」


 ……これが剣士が物置小屋を作るのを手伝った理由か! クロードがここに居れば、公爵夫人の肩書がある私は島から離れないだろうと。


 これは島中がグルだと言っていないか?


「はぁ。私は元からアズヴァール公爵家の部屋から出ないと言っているし、公爵夫人として国王主催の夜会以外はでなくていいと言われている。だから、私が島から出ていくことはない」

「魔女様のお考えはそうでも、目に見える形にしたほうが、皆さんも安心すると思うのです。私もこのような状況ですし」


 リサはそう言って、大きくなってきたお腹を撫ぜる。リサの不安もわかる。出産は命がけだから。


「これは俺がここに居るのが島の者たちに認められているってことだな」

「ちっ!」


 にこやかな笑顔を私に向けて言っていくるクロードに思わず舌打ちが出てしまった。これでは、私ひとりがわがままを言って駄々をこねているようではないか。


「木を運んできたぞ!」


 外からサイファの大声が聞こえてきた。もしかして、今から作業に入るのか? 確かにこの島は基本的に天気はいい。今日も空と海との境界がわからない風景が家の窓から見ることができる。

 だからと言って、行動が早すぎるだろう!


「トカゲの。早かったのぅ。さて、木を乾燥させるかのぅ」


 サイファの大声で、じじぃが召喚されてしまった。これは魔術で木を乾燥させて、加工してもいい状況にもっていこうとしている?


「賢者様。その魔術を見学してもいいですか」


 隣にいるクロードは、じじぃの魔術に興味津々のように、外に出ていった。じじぃの魔術は今の主流の簡易的な魔術とは違い。エルフ特有の古代魔術を使ったりする。こんなどうでもいい生木を乾燥させるのに、仰々しいほどの陣形魔術を使ったりするのだ。

 確かにその仰々しい魔術の方が、詠唱術式よりも乾燥後の木の歪みは少ないのは事実だ。


「賢者様の魔術。久しぶりに見られるのですね」


 リサも今はほとんど使われていない陣形術式に興味があるのだろう。クロードの後を追うように、木の床に重い音を響かせながら外に出ていった。


 ということはだ。ここに残っているのは必然的に私と剣士だけとなる。いや、リサの後をついていきなよ。


「魔女殿。一つ聞きたいのだが」


 ああ、剣士がこの場に残ったのは私に聞きたいことがあったらしい。それもリサには聞かれたくないことなのだろう。


「生まれてくる子も、この島から出ることはできないのか?」


 リサと剣士の子供が、(つい)の島に囚われてしまうかということか。この島で生まれている急喚鳥(きゅうかんちょう)は私が王都に居ても飛んでくるということは、島に囚われてはいないと解釈される。が、魔女の島の生き物として影響を受けている。生物的な変化が起こらなければ、島の出入りは自由ということだろう。結局、死を改変した者たちが島に囚われているということだ。


「恐らく、出入りはできる。じじぃやクロードが島の出入りが自由なようにだ」


 私の言葉に剣士は安堵のため息を吐き出す。ここは住心地のいい場所ではあるけれど、孤立した島でしかない。子供には未来を自分自身で決めて欲しいのだろう。

 世界は小さな島ではなく、もっと広いのだと。


「ただし、一度島から出ると、戻ることはできない」

「は? なぜだ?」


 なぜと言われても、ここが海の上に浮かぶ島だからという理由以外ないのだけど。


「私は運搬屋はしないよ。一度島から出ると、それは今生の別れになるだろうね」

「しかし、賢者殿と魔術師長殿は行き来して……」

「二人共転移を使えるからだね。はっきり言って、リサと剣士殿との子では、転移を使えるほどにはなれないよ」


 これは事実だ。亜麻色の髪のリサは基本的な魔術が使える程度。いわゆる魔術師にはなれないけれど、仕事には活かせて重宝されるぐらいだ。

 そのお陰で、リサの畑の野菜は生き生きとして元気がいいというのもある。


 そして銀髪の剣士だ。彼は特化型だ。身体強化のみに特化しているため、火を出したり、水を出したりする魔術は使えない。


 この二人から生まれる子供は絶対に魔術師はなれない。

 魔力保有量は生まれてくるときには既に決まっており、それ以上の魔力を保有することはできないのだ。


 いや、鍛錬すれば、増やすこともできるが、転移できるほどにはなれないだろう。


「まだまだ先のことだけど、考えておくといいよ。まぁ、リサと剣士の子だから、この島を出ていくと私は思っている。その時に剣士の両親への手紙でも託せばいい。私は連絡屋はしないからね」


 そう言って、私は長椅子から立ち上がって玄関に向かっていく。

 私は生まれてきた子供に、この島に居ていいとも、出ていけとも言わない。私が言葉にすればそれは、魔女の言葉でその子を縛ってしまうことになる。


 この島は楽園と言っていいほど、住心地がいい。それは私が、私の手を取った者たちに生きることに後悔してほしくないからだ。それをこの島が反映しているのだと思っている。

 だから、この島を出て行く者は帰りたいと望むことがあるだろう。しかし、私は手を差し伸べることはしない。戻りたければ自力で戻れと突っぱねる。

 もし、帰ってきて(つい)の島に執着してしまえば、きっとその者も島に囚われてしまうことになるだろうから。


「魔女殿。偽りのない言葉に感謝する」


 背後から剣士の言葉が聞こえてきたけど、私はその言葉には返事はしない。結局のところ、子どもの未来はその子に決めさせろと言っているに過ぎないのだから。



 さて、私は私が反対しているにも関わらず、私の家を建て直そうとしているバカどもを止めるか。


「私は勝手に話を進めるなと言っただろう!」


 いつの間にか丸太の山が築かれている一角に叫びながら進んでいく。


「ほれ、これが間取り図じゃ」


 じじぃが家の間取り図を私に見せてきた。

 いい感じじゃないか。ほとんど変わっていないが、二階建てになって……違うだろう!


「クソエルフ! 強引に話を進める理由はなんだ!」


 はっきり言って、じじぃが元凶だ。じじぃが言い出さなければ、何事も無かったことが多かったと思うのは私の気の所為ではないはず!


「弟子にはわしの遺産を引き継いでもらわんといけないじゃろう?」

「……じじぃの方が絶対に長生きするだろうが!」


 そもそも種族が違うだろう!人族なんて精々百年生きれば御の字だ。エルフ族は千年ほどと言うが、ハイエルフだと一万年とか馬鹿げた年月を生きるって言われている。

 私が思うにじじぃはハイエルフだ。絶対にじじぃの方が長生きする。きっと私よりも長生きすると思う……魔女の寿命は魔女自身の魔力量によって変わるから、よくわからないけど。


「魔女さんや。年寄りにはもっと優しくせんといけないのぅ」


 何、ニヤニヤしながら、家の間取り図を指しているんだ?……何? この部屋?


「じじぃ! なぜこの図面にじじぃの部屋が入っているんだ!」

「最近は移動が苦痛なのじゃ」


 転移で家まで来ているヤツに言われたくない! ただ単に、ご飯までの移動距離を短くする機会を探っていただけだろう!

 自分の本に埋もれた部屋と、食事の移動距離がまどろっこしくなっていたと。



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