表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

〔ライト〕な短編シリーズ

沼の魔物、温泉になりすまして人間どもをハメようとする。

作者: ウナム立早


 俺は魔王様に生み出された沼の魔物だ。森の深部に侵入してきた人間どもを沼底に沈めてやるのが、俺に与えられた指名だった。


 だが、ここ最近は森へ出入りする奴らがめっきり減っている。妖精たちの話によると、近くの王国から森への立ち入り禁止令が出ているそうだ。


 これじゃ人間を沈められねえ!


 俺は必死に考えた。そして妙案を思いついた。


 そうだ、人間どもは温泉が大好きだ。だったら温泉に擬態すれば、簡単に誘いこむことができるんじゃないか!?


 さっそく行動を起こした。森の入口近くに引っ越し、炎の魔石をたらふく食って水温を上げ、妖精たちに体をキレイにしてもらい、小悪魔インプに頼んで人の間に温泉の噂を広めさせた。


 これで準備万端。あとはやってくるマヌケを待つだけだ。




 最初の夜、早くも人間がやってきた。若い女のようだ。人気ひとけのないことを確認すると、服を脱ぎ始め、一糸(まと)わぬ姿になった。


 おう、別嬪べっぴんさんじゃねえか。俺が人間なら役得なんだがな。かわいそうだが、あんたは俺の中で溺れてもら……ん!?


 彼女の手に、なにやら光るものが。


 短剣ダガーを持ってるじゃねぇか! 俺の正体が見破られたのか!?


 しかし彼女は警戒する素振そぶりを見せず、そのままゆっくりと俺の中に浸かり、静かにつぶやきはじめた。


「公爵様、もう貴方の心に私はいないのですね」


 そして彼女は手首に短剣ダガーをあてがった。あ、これはイカン。


『馬鹿な真似はよせ!』


 俺は水鉄砲を発射して、短剣ダガーを弾き飛ばす。


「きゃあっ! だ、誰なの!?」


『誰だっていい。なんで自害しようとしたんだ。理由わけを話してみろ』


「は、はい。私はミザリーと申します……」


 結局その時は彼女をなだすかして、故郷くにに帰ってもらった。人間が一人死んだところでどうってことないが、せっかくキレイにした体を血で汚されたらかなわんからな。


 ところがそれ以降、妙な噂が広まっているのか、俺の元には深刻な悩みを抱えた人間ばかりやってくるようになる。俺もそんな奴らに追い打ちをかける気にはなれなかった。


「破産してしまった。死のう……」


『一からやり直せ! 温泉の経営とかどうだ?』


「もうこの子を育てる自信がないわ……」


『森の妖精さんに手伝ってもらえ!』


「婚約者を寝取られた。僕はおしまいだぁ」


『ハールの街にミザリーっていう娘が……』


 俺はいつしか、悩み事をつぶやくと相談に乗ってくれると評判になり、人間どもに『心の湯』と呼ばれ、永く愛されるようになりましたとさ。


 ……どうしてこうなった!?



最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 沼の魔物の善人(善魔物?)ぷりに、心が温まります(^^) 魔王様も、まさかこんな事になるとは、と誤算だったでしょうね(笑) ラストの自分へのツッコミも、ほのぼのします(^^)
[良い点] 温泉に擬態する魔物という発想がすばらしく、それだけでざまあ(予定通り)エンドもハッピー(不本意)エンドもどちらも可能な世界が生まれています。自殺防止からは一本道の定型で、安心して楽しませて…
[一言] 根っからの善人(?)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ