夢ではなかった
「おはようございます旦那様」
朝目が覚め声をかけられ
昨日のことが夢ではないと改めた
「旦那様、朝餉ができますのもう少々お待ちください」
割烹着姿の稲荷の狐様
誰かが朝食を作ってくれるなんて こんな幸せなことがあるだろうか? そういえばとふと思い出す 昨日は風呂で体を洗われたり 着替えも手伝ってもらったり……
「あああ……」
思い出して悶絶する
「旦那様いかがなされました?」
朝食をテーブルに並べながら困った顔をする椿
「いや、なんでもないよ、というかハッカクはどこいった?」
「朝早くから出かけて行きました」
「そうなのか?まあ、いいやとりあえず食べよう」
「はい!」
今日の朝食はご飯と味噌汁それに焼き魚だ。
うん普通だな。
「いただきます」
早速箸を持って食べようと思ったが
家に魚なんかあったかと思い椿さんに聞いた
「そういえば魚って買ってきたの?」
「はい、黄泉の川から狩って来ましたお口に合えばよろしいのですが」
ん?今なんて言った? 聞き間違いかな
「えっと・・・ごめんもう一回言ってくれる?」
「はい、黄泉の川で狩りをしてきました。」
やっぱり聞き間違えじゃなかった!
「黄泉ってよくあの世とか聞く所だよね、そんなところで魚取れるんだ」
「お口に合えば良いのですが」
照れながらくねくねする椿さん可愛いなぁとか思うが
食べて大丈夫だよな
いやいやせっかく狩って来てまで作ってくれたんだ
意を決し食べたが
「うま、、、」
自然と声が出た美味しいとかそういう次元じゃないくらいに美味しかった 今まで食ってきた魚のどれよりも美味しく感じた
「良かったです!」
そう言って満面の笑みを浮かべる椿さんを見て
あぁなんか良いと思った
「今帰りました」
ハッカクがそこにはいた玄関からではなく窓から帰ってきたようだ
ハッカクは帰ってくると一緒に食事をとり始めた
「ハッカクはどこいってたん?」
「、、、、」
ねぇ無視、無視なん?俺君の主よ
「ハッカク、、どこ行ってたん?」
めげずに聞いた
「、、」
えっ何その反応 ちょっと怖いんだがキャラ変わりすぎじゃない
「ハッカク!旦那様に失礼です!」
椿さんがハッカクを咎めた
「少しこの辺り散歩してただけです」
「申し訳ありません旦那様、ハッカクは昼と夜で2面生がありまして」
椿さんの言葉で何となくわかった
「そうなんだ、ハッカクの新しい1面だな」
頭を撫でようとしたら
かみつかれた、悲しい
食事を終え仕事をすることに
椿さんは洗濯をすると言ってどこかに、、、、
深く詮索はしないでおこう
パソコンに向かい仕事を始めた
暫くしていつの間にか椿さんが帰っていたようでお茶を持ってきてくれた
「ありがとう」
椿さんは嬉しそうに笑う
「旦那様のお仕事は何をなさっているですか?」
椿さんから初めての質問
「あぁう〜んなんて言うかアクセサリーデザイナー兼職人みたいなことかな」
阿部の仕事は依頼を受けその人にあったアクセサリーなど作る半個人の職人のようなものであった
その界隈では少しは有名でそれ1本で何とか食べていけるほどではある
せっかく結婚したのだし指輪のひとつでも作るかな
と言っても指のサイズ聞いたらあからさまだし
ここはひとつ
「椿さん指細いですね」
お茶を片付ける時に何気なく言った
「そうでしょうか?普通ぐらいだと思うのですが」
そう言って指を見る椿さん
今だ、今まで培って来た俺の目よ
6.5か7、4号か5号
「そんなに見られると恥ずかしゅうございます」
椿さんが視線に気が付き照れた
これもまたよし
「あぁごめん、綺麗だなぁって思って」
顔を赤くしお茶のオカワリ持ってくると急いで出ていった椿さん
「さて、やるか」
道具入れから土台の指輪を出し、作業に取り掛かる
「旦那様、お昼のご用意が出来ました」
椿さんに言われ我に返る
あれから結構時間が経っていたようだ
そしていつの間にかハッカクが背中にひっつ寝ていた
昼食も食べ終わり指輪作成に勤しんでいると良くアクセサリを卸している店から電話が来た
『お世話になってますジュエル ランド、木崎です』
おネェっぽい口調のバリトンボイス
自分が個人でチマチマアクセサリー作って売ってた時からのお得意さん
『どうも、お世話になっております阿部です、なにかありましたか?』
『キヨちゃんのアクセサリーなんだけど』
なんか不備あったか、、、よぎる不安
『今度都内のアクセサリー展に出したいの』
ふぁ、、?
『えっ?』
『結構人気なのよキヨちゃんのアクセ、だからどうかなと思って』