第二十六話
******
「マリアー? 立てる? それとも、やっぱり明日にする?」
深夜の1時過ぎ。
ひたすらにえっちをしたわたしとマリアは、全身汗でびっしょりだった。いやまあ。汗といわず、様々な体液でまみれているんだけど。
さすがに身体を洗ってから寝たほうがいいかなー、って思って、泥のように眠ってしまう前にお風呂へ行こうと思ったのだ。
一応、ホテルの個室にもバスルームは立派なものが用意されているんだけど。
せっかくなので、最上階の大浴場を利用することにした。
マリア、疲れちゃっているから、移動もしんどいかもだけど。こういう時間帯でもなければ、大浴場なんて使えないからね。
だって、マリアの裸ってば、完全完璧で。どんな芸術作品よりも理想的な肉体をしているから、男女関係無しに注目の的になる。つまり、女風呂であろうと、大浴場なんて訪れた日には、マリアの裸がガン見されてしまうのである。
マリアの超巨大おっぱいはもちろんのこと、お股も見ていいのはわたしだけなので、女風呂でさえ入れさせたくなかった。
だけど、今は深夜過ぎ。お風呂に入っている人なんていないはずだから、せっかくなので大浴場でのんびりと汗を流したかったのである。聞いた話によると、豪華なジャグジーがあったりで、気持ちいいらしいのだ。
わたしも、獣のようなえっちのせいで倦怠感に包まれていたけれど、熱いお風呂でリフレッシュしたい気分だった。
マリアはどうにかラフなシャツとズボンを履いて、立ち上がる。
汗でしっとりとしたマリアの金髪ヘアからは、えっちの残滓が香りとなって漂っている。色気たっぷりすぎてやばい。ちょっとお外に出すのも危険な状態のマリアだが、わたしがついているし平気だよね。
マリアの手を引いて、部屋の外に出る。
えっちな空気で籠もりっきりだった室内から一歩出ると、爽やかな気分になった。わたしたち、多分、他の人から見たら匂いすごそうだな。誰にも会わないうちにお風呂済ませないとね。
右手にはマリアの手、左手にはお着替えセットを持って、階段を登っていく。
深夜帯なので、大きめのホテルといえどもひっそりとしていた。大浴場に辿り着くまで、無事、誰ともすれ違わないですんだ。
そしてわたしの予想通り、浴場の利用者もいないっぽかった。脱衣所は閑散としていて、物寂しい空気を醸し出している。浴槽のほうからも、物音一つ立っていなかった。
「マリア、誰もいないよ。二人でゆっくり楽しんじゃおう」
わたしは、さっそく汗で湿ったシャツを脱ぎ捨てていく。のんびりしているならマリアも脱がしちゃおうかな、って横目で見ると、マリアはなんかそわそわしていた。
む。まさか、マリア、ここでもえっちをするつもりなのか!?
一向にシャツを脱ごうとしないマリア。それどころか、辺りをキョロキョロと見回していて落ち着きがない。誰もいない、って言ってるのに、なにかに警戒しているような様子だ。やっぱり、えっちする気なんじゃないのか。
「エステル? 先にお風呂に入っていてくれませんか?」
「え!? いやだよ。一緒に入ろうよ。わたしの前で脱ぐの、恥ずかしいってわけじゃないでしょ? さっきなんて見せつけるように脱いでたのに」
ケダモノ化していた先程のマリアは、自分の服なんて破り捨てるように荒々しく脱いでいたのに。やば。思い出してきちゃったじゃん。
しかしマリアは、それを否定したいのか、眉根を寄せて首を横に振るう。やっぱり、どこかおかしい。
「あのですね。ちょっとお手洗いに行ってから……/// すぐに戻りますから、エステルは先に、ね?」
「えぇ~? ダメダメ、おトイレも一緒に行くって決めてるじゃん。ほらほらっ」
わたしは、マリアが挙動不審だった理由に納得すると、早速彼女の袖を引っ張る。
マリアと一時も離れたくないわたしは、普段だっておトイレにもついてくし。マリアってば、今に限ってどうして拒否してくるんだろう。
「もうっ。察してください、エステルっ」
「あ、はい」
マリアが余りにも困り果てていたので、今日は仕方なくトイレは別行動ということで。
お腹が痛いみたいだけど、顔色が悪いとかではないから、一人にさせていても問題はなさそうだし。
マリアの言う通り、先に浴槽に向かっちゃおう。わたし、もう全裸になっちゃってるしね。
マリアもすぐ来てくれる、って言ってたし。
ガラス戸を開けると、湯気が立ち込めていた。
まるで雲の中の世界に踏み入れてしまったかのような、もくもくとした空間。お湯が流れる音と、あったかい空気。それから、真っ白い高級そうな壁と床がわたしを出迎えてくれた。
うん。快適そうなお風呂だ。みんながおすすめしていた理由も頷ける。
わたしは、まずはシャワーを浴びることにした。
めいっぱい蛇口を捻って、全身に熱湯を浴びる。あ~。極楽だなあ。浄化されているような気分になるよ。
すると、カラカラッ、とガラス戸が開く音が耳に忍び込んできた。
マリア、来るの早すぎない!? そんなに時間がかからないなら、トイレにお供させてくれてもよかったのに。
って不満に思いながら、マリアが隣にやってくるのを待つ。
どうせだから、裸をガン見してやろうと思って、うっすらと目を開けた。
シャワーが顔面を打ち付け、周囲は湯気だらけなので、恐ろしく視界が悪い。
が。
シルエットだけでも、マリアの肉体はパーフェクトなのである。
スイカ玉よりもおっきいおっぱい。細いくびれ。そして、かじりつきたくなるような曲線を描くお尻。やっぱり、影だけでも美しいよ。マリア。興奮しそう。
マリアはおずおずと、わたしに忍び寄ってきていた。気づいてないとでも思ってるのかな。
それとも、わたしを焦らしたいのだろうか。
マリアはわたしの隣のシャワーを選択せずに、一つ離れた位置で蛇口を捻ろうとしていた。
むむ。距離まで置いちゃって、おくゆかしいんだから。
不満を覚えたわたしは、マリアに思う存分構ってもらうべく、急に飛びついてやった。まるで、わたしの足元に発射台があったのかと思うほどの抱きつきっぷりで、マリアに襲いかかる。誰であろうと回避不能なトップスピードだ。
そして、一目散におっぱいにかぶりつく。マリアを堪能するなら、やっぱりおっぱいだからね。
無我夢中でおっぱいの先っぽを口に含む。ちゅぱちゅぱってしてから、歯で噛んでみる。歯ごたえ抜群なのが、マリアの乳頭だからである。
……あれ。なんか、いつもより弾力が強いな。
そこで、わたしはとてつもない過ちを犯したのではないか、と察した。
だって。
なんか、乳首の噛み心地が、マリアのモノじゃないんだもん。
しかも、匂いも別物。
挙句の果てには。
「きゃあっ……! い、痛いっ!」
マリアとはまったく別の声が、悲鳴をあげたのだ。
わたし、マリアじゃない人のおっぱい噛んじゃったみたい!
でもでも。だって。しかたなくない?
マリアと瓜二つのシルエットなんて、ありえないじゃん。こんなプロポーション抜群の女性が、世に二人といるわけないじゃん。しかもしかも、誰もいない時間帯だっていうのに。
わたしがビクビクっとしながら顔をあげると――。
見知った人物が、頬を染めてわたしを見下ろしていた。
「勇者さまっ……/// い、いけませんわ……あなたには奥さまが……」
なんと、わたしが噛んじゃったおっぱいの持ち主は、聖女さまだったのだ。
いやさあ。確かに聖女さまとマリアはそっくりだけども。まさか、シルエットで間違えちゃうなんて。自分に自信がなくなりそうだった。
このわたしが、マリアを判別できないなんて……。
しかも。おっぱいだって、もはやマリアの複製かと思うくらいそっくりだし。さすがに、口に含んだときの感触は別物だったけど。
だってさだってさあ!
聖女さまのおっぱいが、こんなデカメロンだとは思わないじゃん!
普段はローブっていうゆったりとした服装だったから、爆乳なのわからなかったんだよ!
わたしは、はっとなって、聖女さまの身体から離れた。硬直していたので、ずっと彼女に抱きついていたのだ。いやあ、柔らかい肉体とおっぱいだった。マリアに勝るとも劣らない代物だ。名残惜しいな。って。わたしはマリア一筋だから!
しかし、聖女さまも、わたしを突き飛ばさないなんて。
それどころか、顔を茹でダコのようにしちゃって、満更でもなさそうだ。"聖女"っていう割に、えっちなことに興味もあるのだろうか。可愛い人だな。
「ご、ごめんなさいっ。えっとね、これはね、わざとじゃなくって……」
わたしのほうがむしろ慌てて弁明する。
万が一、マリアにこの事実を知られたら、破局ものだ。いや。別れはしないだろうけど。マリア、絶対いじけるぞ。
「お話に聞いていた通り……勇者さまは、そ、その……えっちな女の子なんですね」
聖女さまは、リリに吹き込まれたことを真に受けていたのか、わたしのことを誤解していた。
いや。まあ。えっちではあるし、誤解じゃあないんだけどさ……。さすがに、見境なしに他人のおっぱいには吸い付かないってば。
聖女さまは、噛みつかれたおっぱいの箇所に熱でも孕んでしまったのか、胸元を押さえながら、にっこりと微笑んでいる。もっとしてもいいですよ、って促されているような気にさえなった。
「マリアと似すぎてるんだよ、聖女さま……」
「えっと……勇者さまは、いつも奥さまに、このようなことを?」
「えっ。ま、まあ。うん……」
意外と大胆な質問をしてくるな、聖女さま。
聖女さまは口元を手で覆い、なにやら妄想に耽ってしまっていた。わたしとマリアのセックスでも思い浮かべているのだろうか。
あの。聖女さま。それだとおっぱいとかお股が丸見えなんですけど。
わたしは聖女さまの裸をガン見してしまっていた。仔細に眺めると、マリアとはだいぶ違いがある。毛の部分とか。乳輪の形とか。ふーん。なるほどなるほど。
聖女さまも、相手が子どもの女の子だからか、裸体を隠そうともしない。わたし、意識されているのかいないのか、どっちなんだ。
わたしがあまりにもガン見していたからか、ようやく視線に気づいた聖女さまは、背を向けてしまう。うう、もっと見たかった……。
「勇者さまが未婚でしたら、いくらでもよろしかったのに……」
ぼそり、と呟く声は、シャワーの音にかき消されて、不明瞭だった。
けれど、わたしの耳にはしっかりと行き届いている。
わたし、まじで浮気者みたいになっちゃうじゃん。やばいやばい。
そこに。
またもや浴場のガラス戸が開かれ、第三の入浴者が訪れてきた。
今度こそ、マリアのはず。
マリアは、わたし以外の人の影を発見すると同時、足をぴたりと止めていた。
「え、エステル!? この時間なら誰もいないって……」
マリアは驚愕に叫び、大慌てでタオルを全身に巻き付けていた。まだ、相手が聖女さまだとは気づいていないようである。
「ふーふ水入らずのところ、邪魔をしてしまい申し訳ありません。わたくし、お仕事で入浴が遅れてしまいまして……」
聖女さまは、マリアに場所を譲るようにして、遠く離れようとする。
マリアは、わたしと聖女さまの間に流れる微妙な空気に感づいたのか、顔を見比べていた。
「でしたら、一緒に、ゆっくりお風呂しましょう? エステルも、聖女さまなら文句ありませんよね?」
「え? いや、文句とかはないけど……」
まさか、マリアが他人とお風呂に入るの、積極的なんて。珍しいな。まあ聖女さまって清廉潔白、純真な乙女そのものみたいなもんだし。マリアも聖女さまを認め、信頼しているってことなんだろう。わたしとしては、両手に華みたいで、嬉しいけど。こんなところリリに見つかったらブチギレられそうだな。
「うふふ。エステルったら、珍しいですね。お風呂に私以外の人がいると、すぐ怒り出すのに」
「まあ、聖女さまならお姉ちゃんみたいなもんだし、いいかな、って……」
なんだかわかんないけど、聖女さまならマリアの裸を見ちゃっても許せそうかなあ、とか思うのだった。さすがに、触られたりガン見されたりは嫌だけど……。
お風呂くらいなら、いいかも。わたしが聖女さまのおっぱいを吸っちゃったことによって親密度が上がり、許容範囲が拡大してしまったのかもしれない。
聖女さまは、聖域の寮を引き払っている途中なので、ホテルを利用していたそうだ。
そんな理由を聞かされた後は、特にギクシャクすることもなく、シャワーを終える。そして、三人で湯船に浸かることになった。
プールよりも広そうな浴場は、三人だと持て余してしまう。わたしは泳ぎたくなるのをぐっとこらえて、マリアと聖女さまの裸体をチラ見していた。
湯船に浮かぶおっぱいは、どちらもメロン玉。食べ比べしちゃいたくなるよね~。
「まあ、おふたりは、そんなに長い間一緒に過ごしていたのですのね」
マリアは、やっぱり私との生い立ちを語りたがる質なのか、聖女さまにマシンガントークで喋りかけていた。聖女さまも、わたしの過去に興味津々っぽくて、どんどんと話を促すものだから、二人のトークは終わりそうもなかった。のぼせちゃっても知らないからな。
「そういえばエステルは、ロゼリアさんと初対面のとき、懐かしそうな目で見ていましたよね? そんなに私に似ていたのかしら」
マリアは聖女さまのことを名前で呼ぶようになっており、一瞬で打ち解けている。二人して温和な性格をしているので、会話はのんびりと進行するし、彼女たちだけ流れている時間が別かのようだ。
「似ていたのもそうだけど、なんかね、どこかで会ったみたいな感じがしたんだよ。あの感覚はなんだったんだろ」
「それでしたら、わたくしも……。女神さまのお力が関係しているのでしょうか?」
どうやら、わたしと聖女さまが抱いた感覚は同じらしく、わたしたちは不可解そうな顔で首を傾げるだけである。
「同じような力を持っているから、家族みたいに認識したのかしら? じゃあロゼリアさんは、本当にエステルのお姉ちゃんみたいなものですね♡」
実際それはありそうなんだけど、マリアが言うとニュアンスがなんか違うんだよな。しかも、マリア、やたら嬉しそうだし。わたしに仲が良いお姉さんが増えても、嫉妬とかはしないんだろうか。それとも、血の繋がった姉妹みたいなものと認識しているから、警戒していないのかな。姉妹とはいえ、おっぱいを吸ってしまった間柄なんだけど。
「勇者さまのような妹でしたら、毎日が楽しいですわね。わたくし、ひとりっこでしたから、姉妹には憧れていましたの」
マリアも聖女さまに同意するように、うふふ、って笑って、聖女さまもつられて微笑む。上品な笑いが一つに重なって、まるで貴婦人の会合に紛れ込んでしまったような気分だよ。
そのままだらだらと雑談会でも始まるかと思ったけれど、マリアがあくびをかいたので流れで解散となる。なんせ、わたしとマリア、ケダモノえっちをした後だからね、これ……。
なんとも変な関係になりそうだな、聖女さまとは。
姉のようでもあり、おっぱい関係でもあり、勇者と聖女の関係でもある。
いやさ、浮気とかじゃないけど、無駄に女性として意識してしまいそうだ。だいたいがおっぱいのせいで。
それからしばらくの期間、深夜、聖女さまとマリアで大浴場を使う時間が増えた。
わたしたちはあっという間に親密度を深めていく――。




