第九話
******
「こっちだよ、マリア。疲れてない?」
マリアの、新雪のように白い手をとって、木々の間を縫って歩く。
今日のマリアは、まさに深窓の令嬢といった出で立ち。真っ白い柔らかな素材の帽子に、マリアの純真さを映し出すかのような白のワンピースだ。
マリアは、わたしに手を引かれているのを嬉しげにしつつ、歩を合わせてくれていた。
家を出てから数時間。勇者のわたしがダッシュで行けば、城跡もあっという間だけれど、マリアは一般女性だ。彼女に合わせてピクニック気分で林道を歩んでいた。マリアが疲れていたら、おんぶしてあげるつもりだけどね。
辺りは、木々の合間から陽光が差し込んでいて、麗らかで安らげる空間になっていた。先に続く林を抜ければ、間もなく城跡である。
マリアは遠出しているにもかかわらず、疲労の色は出ていない。にこにことしっぱなしだ。体力あるなあ、って関心してみたけれど、よくよく考えてみたら、えっちだって長時間できるし、彼女のスタミナはばっちりだった。
「エステルったら、はしゃいじゃって。可愛いんですから♡」
はしゃいでいるのはマリアのほうでしょ、って突っ込みたくなった。
でもね、わたしだってマリアとお出かけは大好きだ。家にいるほうが好きといえば好きだけど。気分転換のデートというのも、楽しいからね。マリアと一緒にいて、はしゃがないはずがない。
「もー、マリアだって楽しそうじゃん。で、もうちょっとで着くんだけど、大丈夫? わたしがお姫様抱っこしてあげようか?」
聞いてみると、マリアはこの上なく頬を緩ませた。
「まあ、とっても良い提案ですね♡ でも、今日はエステルに手を引かれていたいです。帰りに、疲れてしまったらお願いしますね♡」
マリアの声は、まるで雲の上を歩いているかのようにふわふわと弾んでいる。わたしのお姫様抱っこ、心待ちにしているようだ。可愛いなあ、マリア。
「わたしはいつでもいいからね、遠慮せずに言ってよね。にしても、お腹減ってきちゃったし、マリアのお昼ごはん楽しみだなあ」
「うふふ、エステルは食べ盛りですねぇ♡」
マリアの手には、バスケットが提げられている。中身はお手製のサンドイッチやらの昼食セットだ。無論、リリウェルたちの分も用意してある。魔族がサンドイッチを頬張るかは不明だけど。いらないんだったら、わたしが全部食べるので平気。
天候も爽やか、気温も快適。まさにデート日よりである。
林を抜けると、目先に広がるのは青空広がる廃墟の風景。
崩れ果てたお城というのも、絵になるものだ。ビニールシートでも広げて、さっそくお昼にしたいところ。
その前に、リリウェルたちを呼びにいかないとね。
「えっとね、こっちの方に地下への隠し道があるんだよ」
「エステルったら、頼もしいですね♡」
マリアが口を開けると、すぐにわたしの褒め言葉が飛んでくる。むず痒くなっちゃうけど、素直に嬉しい。
わたしは、先日発見した隠し階段の周辺にまで歩を進めてから、念の為に周囲をキョロキョロと見渡した。
さすがに人間は人っ子一人いないだろうけれど、万が一、誰かに見られた場合は厄介事になるからね。
そもそもの事の発端はハーピーが目撃されたから、らしいから、人間が誰もいない、とは言い切れない。しかし、人はおろか、生物の気配すら感じ取れなかった。
わたしはほっと一息ついてから、石の床をずらして階段を出現させる。
地面に続く暗い空間を目にしたマリアは、若干、表情を曇らせた。
マリア、おばけは苦手らしいからね。明かりのない場所は忌避感があるのだろう。
だからわたしは、右手に炎を灯して、目一杯に光源を作ってあげる。左手は、マリアが恐れないように、恋人繋ぎでぎゅっと握った。マリアも、わたしへの愛を表現するように、強く強く指を絡めてくれた。
わたしとマリアは顔を見合わせて、頷き合う。
そして、彼女をエスコートするようにして階段を降りていった。今日はずうっと、マリアを先導してあげている。わたし、頼りになる伴侶になれたみたいで、誇らしげになった。
階下まで辿り着き、昨日と変わらぬ地下室がお目見えになる。ま、たかが一日で景色が変わるわけはないと思うけど、もしもリリたちが人間に見つかっていたら、荒れていたりはするかもだしね。
わたしは、先日リリが寝ていた部屋の扉を思い出して、そこをノックしてみた。昨日はこの時間寝ていたし、もしかしたら魔族というだけあって夜行性なのかな。魔族イコール夜行性、っていうのも単純だけど、イメージ的に闇に潜むみたいなところあるし。
しかし、わたしの予想を裏切って、室内からは「どーぞ」っていう、あっけらかんとした声が飛んできた。わたしが来たの、予想できたのだろうか。もしも訪れてきたのが、まったくの別人だったらどうしてたんだ。
という想いは胸の内に仕舞って、わたしは扉を開けた。
「やほやほ、勇者ちゃん」
部屋にいたのは、ベッドの縁に座って足をぶらぶらさせているリリウェルと、その隣でくつろいでいるハーピーだ。
彼女たちは、突然明かりにさらされたからか、手をかざして眩しそうにする。
マリアはわたしの背の影から、窺うように彼女たちを覗いていた。
リリウェルは相変わらず、よれよれのシャツと短パンのラフな格好。同じくハーピーも、体毛が鳥のようではいるが、上半身は衣類と呼んでいいのかわからないけど布切れを纏っている。服装としては類似していた。
マリアは、そんな二人? 二匹? をしげしげと眺めていた。リリウェルはともかく、あからさまに魔族であるハーピーをその目で見て、少なからず驚いているようだ。
「約束通り、マリアを連れて来たよ。こっちがわたしのお嫁さんのマリアね……」
わたしは、自慢の嫁を前面に押し出して、マリアをひけらかした。気分が浮つく。一体リリウェルがどれだけ羨ましがるか、そわそわしてしまう。
おずおずと一歩踏み出したマリアは、丁寧にお辞儀をする。マリアは清楚だし、たおやかだし、礼儀も知っている、できたお嫁さんだからね。
「エステルからお話は伺っております。マリアと申します、よろしくお願いしますね」
う~ん、挨拶ですら、祝詞を聞いているかのように感じる。何もかもが完璧な女性だなあ。
しかし、マリアのパーフェクトな自己紹介を受けたというのに、返ってくるのは沈黙だ。まさか、魔族にはマリアの美しさがわからないというのだろうか?
わたしは訝しんで、リリの反応を観察してみた。
リリウェルは――口を半開きにして、硬直していた。
それはまるで、突如、神と邂逅してしまったかのような驚愕。どうやら、マリアがあまりにも美人すぎて、口も聞けなかったようだ。うんうん。わかるよ。そうだよね。
「え!? マリアちゃん……予想以上に美人すぎない!?」
間を置いてから、リリの怯えたような台詞が発せられた。驚きや羨望を通り過ぎて、畏怖を抱いたらしい。ま、それも同感できる。なまじ、性別が同じ女の子として、マリアの美しさは信じ難いものがあるからだ。
「まあ、お上手ですね。魔族さん方も、とっても可愛らしいですよ♪」
マリアは社交辞令も会得しているのか、おっとりとした口調で褒め散らかす。だが、わたしはマリアとは対照的に、彼女の言葉にムッとした。
「マリア。わたし以外のことも可愛いって思ってるんだ?」
「エステルったら。やきもちですか? うふふ。大丈夫ですよ、エステルが一番可愛いですから♡」
って言われて頭をナデナデされたが、わたしは唇を尖らせたままだ。例え社交辞令だったとしても、可愛いと思うのはわたしだけにして欲しいところだよ。まったく。頭を撫でたくらいで機嫌が取れると思ったら大間違いだぞ。
ってゆーわたしの気持ちなんて、マリアには手にとるように把握されてしまっているのか、マリアはナデナデをやめようとしない。リリウェルたちの前だというのに、家にいる気分になってきた。
「君たち……人目気にしなすぎね……。想像以上のバカップルだったわ」
わたしたちの間に割って入ったのは、リリの辟易とした呟きだった。
マリアははっとなって我に返り、照れたように、わたしの背に隠れる。
だが、マリアはわたしのご機嫌をとることに余念はなく、後ろから密着してきて、おっぱいを押し付けてきている。
こ、こんなんで尻尾を振るほど、わたしはちょろくはないけどね。マリアのおっぱいは柔らかいから、背中に当たっていると嬉しいけど。
「あっちの小さいのがリリウェルっていって、えっとハーピーのほうが……」
わたしはむすっとしたまま、マリアに向かってリリたちを紹介する。
すると、リリは呆れ顔を維持しつつベッドから降り立ち、ハーピーもその隣に立った。
「この子はサフランね。あたしがリリウェル。よろしくね、おっぱいの大きいマリアちゃん♡」
リリはセクハラ言葉を発しつつも、下卑た表情はおくびにも出さず、むしろギャルっぽい無邪気な笑みを浮かべて近づいてきた。どうやら、握手を交わしたいようだ。
だけど、マリアに外敵が寄ってきていると認識したわたしは、マリアを庇うようにして、立ちはだかった。
「マリアにいやらしい目を向けるな! それと、わたしの許可なしにマリアに触ることは禁止だから!」
瞬間、リリはぎょっとして立ち止まった。彼女は、まるで危険生物の縄張りに足を踏み入れてしまったかのように、身を竦める。
「勇者ちゃん、怖っ! 目がマジすぎるでしょ……」
ドン引きされた。
だけど裏を返せば、わたしはそれだけマリアを守ることには本気ということでもある。
なんせ、わたしは物心つく頃からマリアを守護する騎士だったんだから。威嚇だけで敵を寄せ付けないのには、自信がある。
マリアもマリアで、失礼な態度をとっているわたしのことを咎めることはしないし、むしろ守ってもらえていることを喜んでくれるのだ。マリアは後ろからわたしを強くハグしてきて、そっと耳打ちしてきた。
「エステル、格好良いですよ♡ あと、さっきのことはごめんなさい。今後気をつけますから。だから、今晩はエステルの罰をしっかり受けますからね♡」
って囁いてもらって、わたしはようやく溜飲が下がる。夜が楽しみすぎて、身体中が元気になってしまうほどだった。
「いや。だからさ。あんたら、人前なのにイチャつきすぎでしょ……」
やるせないリリの突っ込みだけが、室内に宙ぶらりんする。
わたしとマリアは見つめ合って頷き、今にもキスをしそうだ。いや。実際、キスするつもりだった。たぶん、お互いに。
けれど、かろうじて残った理性が、わたしたちを押し留める。
怒りが収まって落ち着いたわたしは、一呼吸入れてから地上を指さした。
「マリアがみんなの分のご飯も用意したからさ、上で食べようよ」
「まあ、いいけどさ……。あんたら、お似合いだわ……」
あまりにもわたしたちがマイペースだからか、リリはやつれた顔をして了承する。陽気でギャルギャルしいリリが疲弊しているのだから、わたしとマリアふーふは、よほどバカップルみたい。ま、わたしとマリアの間には誰も入ることのできない絆があるのだから、とーぜんだよね。
リリたちは地下を好んでいるというわけではないらしく、地上で食べることに対して拒否することもなかった。
わたしたちは揃って階段を昇り、昼食がてら今後の話をすることになった。
******
「こんな美味しい食事、久しぶりだわー。マリアちゃんはなんでもできるのねー」
瓦礫に囲まれた廃城の一角。
わたしたち四人は、ビニールシートの上でランチをとっていた。空気は和気あいあいとしており、傍から見れば、魔族と人間と勇者が入り混じっているなんて思う人は誰もいないだろう。
「とーぜんでしょ。マリアのご飯をわけてもらえること、光栄に思ってよね」
わたしは、自分が昼食を作ったかのように振る舞う。でもでも、事実を述べているだけだしね。
マリアは軽食屋の娘だけあって、料理は格段に上手だ。まあ、マリアは家事全般得意なので、完全完璧な女性なんだけどね。
「勇者ちゃんってば、奥さんの前だとはりきっちゃうのね。昨日と全然別人♡」
リリは意味ありげに、ニヤニヤとする。
わたしは内心で冷や汗をかいた。昨日の、えっちになりそうだったこと、マリアにバラされないか焦ったのだ。
一方でマリアは、その話題に興味津々。身を乗り出していた。
「エステルは、私がいないとどんな感じなんですか? 私の知らないエステルがいると思うと……ソワソワしちゃいますね」
マリアも、わたしへの独占欲はかなり強い。自分の知らない愛する人の姿がある、っていう真実に心がざわつくのは必然である。もしもそれをマリアに当てはめたとしたら、わたしは気が狂ってしまうかもしれないしね。
「えーっとね、勇者ちゃんね、かなりえっち……」
「わーわー、わたしのことなんて、どーでもいいでしょ! わたしはいつでもどこでも、マリアのことを愛しているだけだよ!」
いきなり、とんでもないことを口走ろうとしたリリウェル。
わたしは唐突に立ち上がり、早朝の鳥よりもうるさく喚いた。
マリアはわたしを不審げに見上げている。もしかしたら、昨日の出来事に感づいたのかもしれない。
「ん。それもあるにはあったよ。奥さんのこと、大事にしてるんだろーなー、ってのは素直に伝わってきてたしね」
リリは、わたしの弱みを握ったことにしたり顔をしている。が、わたしを虐めたいわけではないらしく、きちんとフォローもしてくれた。リリのペースで話が進んでいることに、わたしは歯噛みする。
マリアは、わたしがいつでもどこでもマリアを愛していることを受けて、急激に頬を赤くしていた。わたしへの嫌疑は晴れて、愛だけが残ったようだ。よかったよかった。
「そ、それよりさ。マリア、どう? 魔族の国、行ってみていいよね?」
わたしは、そそくさと話題を移行させる。不自然さを感じさせないスムーズな話題の変遷だ。
「ええ、私はエステルと一緒なら、どこまでも付いていきますよ♡ それに、魔族さんも楽しそうな方たちですので、心配事もないですね」
隙あらば、わたしへの愛を示すマリア。その都度、リリウェルは口に苦いものでも含んだように、顔をしかめる。
わたしは、マリアにサンドイッチを口に運んでもらいつつ、うんうんと首を縦に振った。
「だよねだよね、魔族の国も楽しそうだよね。で、いつから行く? リリたちに案内してもらわないとだし、長旅になるらしいからね」
「歩いて行くと、かなり遠いからね~。さすがにサフランも、三人は乗せられないし」
リリはハーピーを横目で見やり、悩む素振りを見せる。
わたしは、長旅もありかな、と思っていた。これまでの人生で、遠出したことなんてないし、むしろワクワクする。
「わたしは、遠くても平気。マリアだって疲れないように、わたしが抱っこしてあげられるし。荷物だって持つよ! 勇者を舐めないでよね」
勇者の力を雑用に行使していることなど歯牙にもかけずに、わたしは胸を誇らせる。
マリアはわたしのことを、ぱちぱちと手を叩いて褒め称え、リリは興味なさげにふーんとだけ息をついていた。この温度差である。
「ま、大丈夫ならいいけど。あたしたちは、明日からでもいーよ。あんたらで日程決めちゃってよ」
リリは、わたしを国に歓迎したいのか投げやりなのか、どっちかよくわからない。よほど、わたしとマリアの仲が良いの、呆れているみたいだ。でもね、しょうがないよね。わたしとマリアは十年以上の付き合い。恋仲になったのは最近だけど、昔っから両片思い、みたいなところはあったし。年季が違うんだよ。
「マリア、どーする? いつから行く? わたしも明日からでいいけど」
「そうですね、エステルにお任せしますよ。ただ、ちょっと準備とかしないとですから、一日は待って欲しいです」
「わかった。じゃあ、明日は買い出し必要だったら、お買い物デートだね」
「はい♡ エステルとのお買い物はいつでも楽しいですからね♡」
もはや、わたしとマリアは自宅でくつろいでいるのと違いはなかった。
二人で旅行の計画を立てるのって、めちゃめちゃに楽しい!
リリの溜息が聞こえてくるまで、自分たちの世界に没頭するわたしとマリアだった。
******
「えっと……あれもよし、これもよし……」
自宅にて。
マリアは、床に広げられた荷物の山を一つ一つ、念入りに確認していた。
今日は魔族の国へと旅立つ日だ。
マリアは昨日もえっちの前に荷物のチェックはしていたのに、今朝起きてからもまた確認作業をしている。さすが、しっかりもののお嫁さんだ。
「ああ、エステル? あれはいらないかしら?」
時折、ぱっと顔をあげてはわたしに目線を投げてくる。
マリアはよほど心配性なのか、何度荷物のチェックをしても、あれがいるかこれがいるかと提案してくるのだ。
「今度は何? わたしは別に、マリアがいればそれでいいんだけどね」
「まぁ、エステルったら……♡ でもね、そうもいきませんよ。長旅になるんですから、下着の替えとかは絶対にいりますし」
「わたしは、マリアのぱんつなら、何日履きっぱなしでもよゆーでくんくんできるよ」
「何を言っているのかしら、エステルは……///」
わたしの変態発言を受けてなお、もじもじと恥ずかしそうに顔を赤らめるマリア。こんなんで、リリウェルたちと旅ができるのだろうか? そもそも、わたしたちは、リリたちがいる中で、えっちの時間をどうやって捻出すればいいのか。不安があるとしたら、そこくらいなもんだ。
「それで、マリア。あれってどれのこと?」
「えっと、いつもの枕です。エステルったら、枕が違ったら眠れないんじゃないかと思って」
わたしは床に転倒するかと思った。いったい、何歳児だと思ってるんだ、わたしのこと。さすがに枕が変わったくらいで寝られないとかはないと思う。ま、まあ。隣にマリアがいなかったら、眠れない気はするけれど……。
「枕なんてなんでも大丈夫だよ! いざとなったら、マリアのおっぱい枕があるし」
「はいはい、エステルなら、おっぱい枕、いつでも使ってくれていいですからね♡ でも、一応、本物の枕も入れておきますね」
マリアは余裕たっぷりに微笑んで、またしても荷物袋が膨らむことになった。別に、わたしが持つから、どれだけ重かろうが問題はないんだけどね。
リリの話によると、旅の途中で買い出しできる街もあるので、食事などの心配はないみたい。でも、ある程度北上すると、人里はなくなってしまうらしい。
といっても。ハーピーが狩りやら何やら得意なので、飢え死にすることはないそうだ。ま、わたしも勇者だから、食材の調達くらいは楽勝だろうけどね。
「ほらほら、マリアも準備なんてとっとと終わらせてよね。わたしはいつでも出発できるんだから」
「そう急かさないでください。エステルったら、私がいないと何もできないんですから。いざ、というときのために、準備はしっかりしておかないと」
「もー、いざも何もないよ。わたしは勇者だからね。もしもマリアの体調が崩れちゃったとしても、わたしが超特急でお薬買いに行ってあげられるしね」
「そこのところは、エステルは頼もしいですからね♡ でも、エステルのための可愛いお洋服とか、歯ブラシとか、あれもこれもいりますから……」
結局のところ、マリアは時間ギリギリまで荷物の整理に奮闘した。
わたしの身の回りの世話、けっこう大変なんだろうな……。でもね、マリアがしてくれるから、甘えるの大好きなんだ。




