開始
男は椅子に座ると、暖かいコーヒーと朝食の残りのサンドイッチをほおばりながら満足げに言った。
「ここのところちゃんとした食事をとれてなかったからごちそうにありつけてうれしいよ。お前の料理の腕も変わってないな」
クリスティーヌはこの奇妙な訪問者が非常に気になってはいたが、あまりにも男がよく食べるので台所に残りのサンドイッチを取りに向かった。
マルタはしばらく考え込むように男の向かいに座っていたが、男がついに最後のサンドイッチをコーヒーで流し込むのを見てようやく話し始めた。
「ここになにしにきたの、オーウェン?」
「挨拶と、ちょっと相談ってとこだな」男が答えた。
マルタはそれを聞いて怪訝な顔をすると、クリスティーヌに目をやり、そしてまた彼に尋ねた。
「それは彼女に関係があることなの?」
「大ありだな。というより彼女の話だよ、この先のな」また男が答えた。
それを聞いてマルタはクリスティーヌに隣に座るように言うと、彼女の疑問に答えるように言った。
「クリスティーヌ、この男はオーウェンよ。」それを聞いて男は彼女に向って会釈をしたが、それ以上何も言わないマルタに対してしびれを切らしたように言った。
「おいおい、それだけじゃ何もわからないだろう!もっと詳しくいったらどうなんだ?例えば俺とお前の関係とかな」
男が言った言葉にクリスティーヌは内心ひどく同意した。まさにそれが今、彼女にとって一番気になることだった。しかしそんなことをおくびにも出せばマルタの機嫌を損ねることはわかっていたので彼女はあえてそれを隠した。マルタが自分自身について深入りされるのを嫌うことをクリスティーヌはよく理解していた。
その様子を見ていたオーウェンは悟ったようにマルタに向かうと、続けていった。
「お前その様子だと自分のことも今までのことも一切彼女に話してないだろう?」
「仕方がないじゃない。クリスティーヌにとってすべてを知ることが最善ではないと私が判断したまでよ」
「お前が言わないなら俺が言うぞ。俺が持ってきた話はそれを知らずには理解できないからな」
マルタはそれを聞くと慌てて話しだそうとしたオーウェンを遮り、クリスティーヌに二階に行くように指示した。
「その話、まず私に聞かせて頂戴。彼女にも聞かせるかは私が決めるわ」