双子
その夜は冷たい風が窓を叩く、厳しい寒さの晩であった。
王宮の離れにある一室では3人の男女が寝台を囲んでいた。
薄暗い部屋の内では美しい女が苦悶の声をあげている。
そしてその声が止み、ふと沈黙が訪れた後に2つの力強い産声が響き渡った。
生まれてきた子供は2人。双子だった。
女は子供たちを柔らかな表情で慈しむように見つめ、幸せそうに微笑んだ。しかし体の弱い彼女にとって出産による負担は大きかった。
出産の数分後、女は安らかに息を引き取った。
「奥様、、」
泣き崩れるメイドの横で使用人と医師は残された子供たちに目をやった。
「よりにもよって双子とは。妹の方はどうするべきか、、」
医者の懸念はもっとものことであった。忌み子である双子の子供が社会からどのような仕打ちを受けるかは容易に想像できる。ましてや何よりも体裁を慮る王宮に置いて、側妃の産んだ双子が歓迎されるわけもないのは明らかであった。
「孤児院に預けるか、、しかしこの子どもの未来を考えるともうこの場で殺してしまったほうが幸せなのかもしれん」
腕に双子の妹を抱いて執事が言った。側妃の子供は男児であっても冷遇される。女児であるならばなおさらだ。このままそれぞれを別の場所で育てたところで将来女児の双子であることが発覚すれば、、
執事がそう考えるのも無理はなかった。
しかし幼いころから側妃に仕えていたメイドにとってそれは耐えられないことであった。
「奥様亡き今、この子どもたちは私の子供同然です。あなたが何と言おうと妹のほうは私が育てます。奥様についていた唯一のメイドが消えたところで王宮は何の不利益も被らないでしょうし、この不幸な子供を一人にすることはできません。ましてや殺してしまうだなんて!」
そしてこの日のうちに夜の闇に紛れて王宮から一匹の馬が消えた。腕に赤ん坊を抱えた女を乗せて。
医師と執事はメイドと子供が去ったのを見届けると、もう一人の子供を抱えて部屋に戻った。
そして一連の流れを見ていた影がもう一人。その影は音もなく身をひるがえすと同様に王宮に入っていった。
王は自室で影を待っていた。そしてすべてを聞いて切に願った。二人の子供の幸せと、その人生が光で満ちあふれることを。
「クリスティーヌ、あなたの行く先に幸あらんことを」
かくしてクリスティーヌ・ロセッティはこの世に生を受けた。対の姉妹、ジェニファー・ロセッティの片割れとして。
そして彼女の数奇な人生はこの日から始まったのであった。