森の中の出会い2
彼の名前はハイオク。
もちろん私が考えた。なんだかそのまんまだなぁとは思ったけど、本人は気に入っているみたいだからまぁ良いかって。
モンスターがこの世界の公用語であるEF語……つまり、エンジェルフロンティア語を話すなんて聞いたことはなかったんだけど。
会話が通じるというだけでどこかホッとした。
「どうしてこんなところに居るの?」
彼の優しげな表情に私の恐怖は薄れ、むしろ突然の異文化交流に興味津々になっていった。
「俺 ずっと ここ住んでる」
話を聞けばこの森は昔、ダンジョンという施設があって、結構人が訪れる場所だったらしい。
「主人 いなくなった ダンジョン 壊れた」
そしてその持ち主が居なくなったことで、ダンジョンの外に出てきたって事みたい。
「じゃぁいまは一人なの?」
「他の 仲間 みんな出ていった ここ悲しい」
「悲しい?」
「楽しい 終わった だから悲しい」
ハイオクの言葉は端的だったけど、その感情は起伏があって、だいたいのニュアンスで理解できてるっぽい。
眉尻も下がっていて強面のおじさんが困ってるみたいで、私もなんだかほっこりしちゃう。
こんな風に表情だっていっぱいあって、身振り手振りだけでも会話が出来そうなくらい。
「じゃぁ、お父さんみたいな人が居なくなっちゃったから、みんな出て行っちゃったの?」
「そう」
「じゃぁ、私と遊んでよ、悲しいとか寂しいとかばっかり言ってても、楽しくないでしょ?」
それからは、毎日のようにこの森でハイオクと遊んだ。
彼がなぜEF語を話せたかってのいうは。
ハイオクのダンジョンマスターは随分変わり者だったみたいで、彼と会話したいがために何年も教え続けたかららしい。
そんなことをしなくても、一方的とはいえダンジョン内では彼等に命令できる筈なんだけど。
言葉を知れば、考え方も知れるという信条のもと、ハイオクのあまり良くない頭に叩き込んだって。
私も勉強は好きじゃなかったから。「無理矢理教えるなんて酷い」と同調してみたんだけど。
ハイオクは苦笑いして
「それでも、彼が構ってくれるのが嬉しかった」というような事を言っていた。
この時、人間とモンスターは共存することができるって私はそう思った。
それは19歳になった今でも同じ気持ちだし、そのためにダンジョンマスターの資格もとったんだ。
──と。
昔の事を思い出していたら、急にランプが点滅した。
ストレンジャーが、ダンジョンを利用するみたい。
私は立ち上がって、奥の部屋の机に手をかざすと、ダンジョン内のモンスターに指示を出す。
「お客様がいらっしゃいました、みんな稼ぎ時ですよ!」
そう言うが早いか、ダンジョンの扉が開き、数人のストレンジャーが入ってくるのだった。