家族への報告8
「おや? 家族に対して離れろですか?」
その光景にティアマットが嫌味ったらしく言う。
片方の口の端しをあげてなんとも嫌らしい。
「これはその、躾と言うかなんというか」
家族は大切だと言った手前、さすがにごにょってしまうわけで。
「家族へのハグに躾が必要ですかね?」
冷たくあしらっているように見えても、やっぱり兄弟を蔑ろにされるのが嫌だったのかな。
「いや、愛情表現なら別に良いんだけどごにょごにょ」
目を逸らし、さらにごにょる私。
「ほう、愛情表現なら良いのですね」
その言葉と同時に、優しくティアマットの腕が私を包み込む。
「えっ、へぇっ!?」
変な声を出しながらも私はどうして良いのかわからない、この流れで抱き付くなんて思わないじゃん!
しかもこれでまたマスターオーダー使っちゃったら、さっき私が熱弁してたこと否定するみたいな流れになっちゃってるし。
私は行く宛の無い手をワキワキさせながら、落ち着けと自分に唱えるが、動転していた気が落ち着けば落ち着くほど、他の感覚が現在の状況をより生々しく突きつけてくる。
右頬に、ティアマットのサラサラした髪が触れている。
どこかちょっと汗臭いのとはまた違う、熱気のような香りに当てられる気分。
バジリスクと違って、私を労るように体重もかけず、全体で包み込むような包容。
そして、彼が息を吸うのを耳元で感じた。
「私達は家族という鎖に縛られていたんだ」
きっと、私の耳元に口がなければ聞こえないくらいの小さな呟きに、耳たぶがくすぐったくなるような感覚がした。
「生まれたときから悪魔崇拝者として生きる運命を、呪わなかった日はないよ」
私は家族という言葉が彼に与えるイメージまでは把握していなかった事を反省した。
私自身「家族」に良いイメージは無いんだよね。
だからこそ自分が作る家族はそんな風にしたくないって思って使ってた言葉。
ティアマットはどう受け取ったんだろう。
その答えは、彼が口にすると思わなかった言葉に込められていた。
「受け入れてくれてありがとう」
その言葉を全く同じ意味で返したいと思った。
彼らは今までのしがらみを捨て、ちょっと変わった私の家族になることを決めてくれたんだって。
「私こそ、家族……グエッ!!!」
「ティアだけずるいぞぉ!」
わりとシリアスな場面の二人目掛けて、バシリスクが飛びかかってきたよ。
私とティアは変な声を出しながらもなんとか耐えたんだけど、ぎゅうぎゅうと二人一緒に締め付けられて。
「離れろぉ!」
本日二度目の管理者権限を使ったワケで。