ダンジョン経営2
「さぁて、やりますかっと」
残りのお仕事をしなきゃってことで。
私は石のような材質でできた机の前にある、椅子に腰かけた。
机の天板は水平ではなく、私に向かって見えやすいように斜めになっていて、私が手をかざすと、ぼんやりと光り始める。
「今日入った新入りは、4階に配置して……と」
天板にはこのダンジョンの設計図みたいなものが表示されていて、宙に浮いてる4個のアイコンを、必要な階に移動させることにした。
こうやってモンスターの配置、罠の作成、地形の決定などをやっていくのが私の仕事ってこと。
そして私はこの作業がわりと好きだったりする。
ハンターがここを通れば罠にかかり、それを避ければモンスター、後退すれば罠があるため自然と挟み撃ちになるなぁ、とか。
そんなイヤらしい構造を考えながら、新しいモンスターを仕入れ、そして配置していく。
他人から見ると、ただの性格悪いやつかもだけど……。
仕方ないじゃん、これがダンジョンマスターの仕事だもん。
なあんて言いながらも、嬉々としてやっているのだから……やっぱり性格悪いだけなのかもね。
でも、ストレンジャーもタダではやってこない。
クリアした人には宝箱を用意しているから、それを目当てに来る人もいるし。
ダンジョンでは人は死なないって事で、戦いのトレーニングに使う人もいる。
死ぬ前にダンジョンが彼らを飲み込んで、外へ吐き出すから、多少無理なダンジョンでも安心して挑戦できるんだって。
ただし、負けて倒れた際に手放した武器やアイテムがあれば、落とし物としてダンジョン内に残ったりする。
それが次のストレンジャーへの副収入になることもあるんだよね。
うまく運営して、人気が出たダンジョンなんかには、遠方からはるばるストレンジャーが訪れたり、順番待ちになる事もあるんだって。
「4階はコボルトが得意な、森林フロアにしておこうかな……絶対魔素足りないよね」
私はため息をついてから、右の棚に置いてあるアイテムをごそごそと探り、ドレイクの牙を2本取り出した。
立ち上がって部屋の右手へ進む。
そこにはレンガ石で出来た暖炉のようなものが配置されている。
でもここでは火を焚いたりはしないんだ。
「仕方ない、先行投資だよね……えいっ!」
その四角い空間に先ほどの牙を2本投げ込むと、グニャリと暖炉が曲がり、まるで咀嚼するように動いて飲み込んでしまった。
これはダンジョンの口みたいなもので、魔力のこもったアイテムを飲み込ませることで、ダンジョンの形状を変えたり、階層を増やしたり出来る。
「よし、じゃぁ4階を整えよう」
そう呟くと、コボルトと戦った場所をイメージした。
このイメージが曖昧だったり、素材をケチると、テクスチャーが甘くなっちゃうんだよね。
もちろん簡素に済ませているダンジョンも少なくないけど、私はその辺にも拘りたいと思ってる。
すぐに操作盤の表示が代わり、4階の形状が変化したみたい。
「よし、じゃぁ4階に行って確認してみようかな」
席を立つと、管理人しか入れないドアの向こうへと出ていく。
到着した4階は私のイメージ通り、美しく鬱蒼とした木々が辺りにひしめいていた。
「いい感じ……みんな出ておいでよ!」
その言葉に木々を掻き分け数匹のモンスターが現れるのを、笑顔で迎えた。
緑色の肌で、身長は1m程度の子供のような背格好。耳は尖っていて鼻も高い。
この種族はゴブリンと言って、5匹が揃って顔を出す。
捕まえてきたコボルトも4匹揃って草むらを抜けてきた。
最後に、バレーボールくらいの粘液状の生き物が茂みの下から顔を出すのを見て、私の顔は更に緩んだ。
「スラっち! ここにいたの? 部屋にいないと思ったら……キミって新しいもの好きだよね」
手をさしだすと、草むらから急いで出てきて、手から肩へと駆け上がってきた。
嬉しそうに震えるスライムのスラっちを撫でてから、私は他のモンスターと向き合った。
「さぁてみんな、今日からここが君達の家になるよ!」
ゴブリンは楽しそうに回りを見渡して、軽い歓声を上げる。
コボルトはまだ慣れていないのか、少し困惑気味みたいで、その様子を黙って見ている。
「コボルト君たちは初めてだもんね、まずは名前を付けてあげなくちゃ……」
もともと彼等に名前って概念はないみたいで。
その呼び掛けにも困惑してる。
「じゃぁ覚えやすいように、コボ太郎、コボ次郎、コボ三郎、コボ四郎で良いかな」
ネーミングセンスが無いってのはわかってるよ?
しかもさ、この時気付かなかったんだけど、2匹はメスだったことが後で発覚したりして……まぁ、定着していたのでスルーすることにしたけど。
彼等は未だに困惑して居るみたいで、コボルト同士で顔を見合わせたり、先輩ゴブリンをチラッと見たりしてた。
でも私に対しては敵対心を向けてはこないようになってる。
一度ダンジョンに喰べられて一部になった際に、ダンジョン自体を『母親』のように感じるからって事らしい。
もちろんそれを管理している私も、同じく家族みたいなもので、反抗する気にならないらしい。
もちろん、反抗期っていうか、言うことを聞かないモンスターも居るには居るらしいけど。家族間でも喧嘩があるように、人間(?)関係を形成すればきっと仲良く暮らしていけると思うんだよね。
私はコボルト達に向かってここのルールを伝えることにした。
「いい? ここは君たちの家だけど、お仕事をする場所でもあるの」
私の言葉に耳を傾けるコボルト。
言葉は違えど、意味は通じているみたい。
「他のストレンジャーがこの場所に入ってきたら、やっつけて! 負けるときは痛いかもしれないけど、すぐにダンジョンが飲み込んで回復してくれるから大丈夫」
彼等はとにかく「わかった」と声をあげる。
ゴブリンやコボルトは、そう知恵が回る方ではなく、簡単な命令しか理解できないことが多い。
お仕事が日常的にこなせるようになったら、作戦や隊列なんかを教えてあげればいいかな。
「まずはそれだけ、誰も来ていないときは、この場所でゆっくり過ごしてて良いからね。敵はいないし、狩りもしなくていい。天国みたいなところだよ!」
彼等は野生の生き物だから。
狩りをしなくていいとか、他の生物から命を狙われないってのは、彼等にとって安息の地そのものって言っても過言じゃないのね。
肩に乗るスライムを撫でながら、新しい仲間をみんなで祝福した。




