世界のこと3
私は軽く頭を振ると、話を変えることにする。
「結局、富士子さんが知らなかった事ってなに?」
彼女が熱暴走しちゃったって話題に少し興味を持ったんだよね。
でも、それをもう一度説明しなきゃならないのかと、露骨に面倒臭がるティアマット。
その態度ってどういうこと?
自分を「奴隷」だとか、私を「主」だとか言ってるその口をひん曲げてやりたい。
しかしその口から紡がれる「知らないこと」はこの世界では当たり前すぎて……逆に彼女が「生きていた」時代の話を初めて聞いて、逆に私の口が曲がりそうなほどあんぐり開くことになる。
「彼女は大神災以降の世界の知識がすっぽ抜けて居ました。人間の世界が終わり、天使に支配されて居ることも、通貨という概念もね」
多少の憤りがあるのだろうか、語気が荒い。
しかし、言っていることは判らないでもない。
でもさ、彼はきっとこの1日で、子供の幼少期から成人くらいまでの、この世界の知識を富士子さんに詰め込んだね。
そりゃぁ、頭もオーバーヒートしちゃうわけよね。
私はティアマットの、わりと几帳面そうなその性格を想像して、苦笑いが顔に出る。
「たまにだけど人間は遺跡に入ってきてたシ、人類が衰退してるなんて思わないわヨ」
「結構沢山居るので、衰退しているかは判りませんけど……」
「今って人類全部で何人くらいいるか知ってル?」
「えっ、確認されているだけでも8000万人くらい居る筈ですよ」
人類は年々増加していると聞いている。
他の生き物に比べたらかなり多いはずなんだけど。
「500年前ハ、80億居たのよ、80億!」
あまりの桁の違いに計算が追い付かない。
私まで頭から煙が出そうだ。
「正直、私も驚きましたよ」
ティアマットもここは驚いた案件らしい。
そりゃそうだよね……数字で100倍って言うと簡単だけど、いま4人で居るこの空間に400人入ると考えれば、その数が途方もない事だって私にもわかる。
「うわぁ、海まで溢れ出そうですね」
私、人と関わるの苦手だし、そんなにウヨウヨいたら富士子さんみたいに洞窟にこもっちゃいそう。
って少しだけ共感しちゃったワケで。