ダンジョン経営1
城壁に囲まれた街を出てから、馬車で20分。
広葉樹の木々が繁る森に、きこりだとか商業キャラバンだとかが勝手に作った道から、少し入った所。
こんもりとふくらんだ、3mくらいの土の小山が見えてきた。
その一部に豪奢な観音扉が取り付けてあるだけの、もはや建物とすら言えないような、これが私のお家。
「ありがとう、いま開けますね」
中に人がいないのを確認すると、私は呪文を唱え始める。
──ご主人様のお帰りよ
おサボりさんも飛び起きて
お出迎えの準備して──
『開門』
《オープンドア》の魔法で、ダンジョンの鍵を開ける。
御者は慣れた手付きで、生け捕りにしたコボルト4体を運び込むと、こちらに合図した。
それに合わせて今度は別の呪文を唱える私。
──ご主人様のお出掛けだ
見送り終われば自由時間
みんなでゆっくりお昼寝だ──
『閉門』
《クローズドア》の魔法をかける。
いちいちの呪文は面倒だけど、家の鍵をかけたり外したりするのと同じ感覚かなって感じ。
「ほいじゃ、私は帰りますんで」
最後まで見届けることなく、御者は軽くなった荷台で颯爽と帰っていった。
「さて、ここからどうするかなぁ……ゆっくり悩もうっと」
もう一度『開門』を行い、中に入ると『閉門』で閉じる。
ダンジョンの地面を見ると、さっきまでコボルトを縛っていたロープだけが落ちてて、コボルトはどこにも見当たらない。
ダンジョンが食べたんだね。
一仕事を終えて、ふぅとため息をつきながら管理人用の部屋の中に入る。
玄関と言ってもそこは小さな脱衣所のような作りになっている、2m四方の部屋。
壁にはいくつか金具が取り付けてあり、そこに脱いだマントを引っ掛けた。
草木に隠れてモンスターをやり過ごせるよう、お洒落とか度外視したくすんだ茶色のやつ。
他にもウエストポーチ、ベルトにつける根付けつきの小袋などを取り外すと、上着も脱いでいく。
小物は藤で編んだ籠に放り込み、あれよあれよと私は下着だけになった。
いつもならこのままその下着も脱いでしまうところなんだけど、この後の仕事を考えるとまた穿くのも面倒な気がして、今回はそのまま奥の扉を開く。
軋む音ひとつもなく開かれたドアは、その奥に広がった私の癒し空間へと繋がってる。
地面にはフワフワの白い毛皮の絨毯。アルミラージというウサギの毛皮を繋ぎ合わせて作られていて、毛足は短いが凄く手触りが良い。
脱衣所で裸足になっていた私はその絨毯に倒れ混むとゴロゴロと転がる。
そのまま部屋の奥まで転がって行き、これもまた高級な「良き棒」と呼ばれるクッション。
女郎蜘蛛の糸で編んだ布は伸縮性があり。
それを円柱形に縫製したあと、中に小さくちぎった綿を詰めたもので、座っても良し、抱いて寝るも良しの一品!
私の癒しのひとつは、ちょっと贅沢なこの自室。
外の汚れを中に入れたくないから、入る前に服は玄関部屋で全部脱ぐんだけど。
この部屋には来客が有るわけでもないし、私が招かない限りここに入れる人間も居ないし。
100%私だけの空間、私の理想の部屋なの。
だけど今日はまだお仕事が終わってない。
ずっとここで寝ている訳にはいかないので、渋々だけど起き上がり、一つ奥の部屋に向かった。
そこは先程の部屋とは違って狭く、ツルッとした石の壁になっている。
目の前には作業机、入って左には暖炉のような装置が口を開けていた。
ここは作業部屋。
私がダンジョン経営をするために必要なものを揃えてる──
《ダンジョン》
ってのは、人が魔法で作った迷宮や修練場の事ね。
ストレンジャー達に利用して貰うことで生計を立てているって感じ。
《ストレンジャー》ってのは、それぞれの町のギルドに所属している冒険者みたいなものだけど、その方向性は多岐にわたっていて、一言で表すのは難しいかも。
簡単にいうと。
ギルドが提供するサービスを受けることの出来る証明書を持った人ってところかな?
モンスターを運んでくれるサービスや、わりと簡単に他の町へ入ることが出来たり。
大きな町だと定期便の馬車に無料で乗れるサービスまで利用できるって言うんだから、持っておいて損はないでしょ?
だけどその代わり、有事の際には召集されたり、悪いことをしたら厳しく罰せられたり、過去の犯罪歴が残ったりするのね。
まぁ殆ど自己責任って事だから、悪いことさえしなければ、色々恩恵は受けるってワケ。




