街でやること1
私の住むダンジョンは、森の中にある。
夜中のモンスターは3割り増しで狂暴だから、この時間からダンジョンへ帰るのは難しいだろう。
実際、傾きかけていたお日様は、しっかり沈んでおり。それとは逆に街は賑やかに明るく照らされている。
そんなものに目もくれず、私は宿に急いだ。
慣れた道を歩き、時々ふらついて来る酔っぱらいを避けながら、馴染みの店の前に。
「あら、スーちゃんじゃないの」
カウンターから、老婆の声。
「お久し振りです。今日もいきなりだけど泊めてくれませんか?」
そこは宿に見えない、通常の家屋のような佇まいだったけど、一応は泊まることができる店だった。
このおばぁちゃんは昔息子さんとここに住んでいたのだけど、ストレンジャーだった息子さんを任務で失くしてから、余った部屋を人に貸しているらしい。
「ご飯は作るかい?」
「いい、食べてきたから」
私はそう言うと30エン相当のお金である、大天使の羽を3枚、しわしわの手に握らせた。
そのまま案内も無しに二階の部屋へと上がっていく。
その部屋は他と違って少し不思議な作りで。
他の家が大抵は石造りなのに対して、殆どが木で出来ている。
そして床に敷き詰められていたのは、草で編んだ硬い絨毯だ。
なんでも、東の方の一部の地域に伝わる伝統的な絨毯で《タタミ》というらしい。
毎日ふわふわの絨毯で寝る私は硬い場所では寝れないのだけど、このタタミという絨毯はほんの少しいい匂いがして、嫌いじゃないんだよね。
と、全身でタタミを感じているうちに、うとうとしていたらしい。
疲れてたのかな……絶対あれだ。あいつらのせいだ。