錬銀術師3
「ホアキンさん、すみませんギリギリで」
そう言う私の方に、作業台の間の狭い通路をこちらに向かってくるホアキン。
店内は薄暗く、人影程度しか分からないが、彼がいつも腰につけているホルスターには、沢山の試験管等が装着されていて、カチャカチャと音を鳴らすのでわかりやすいんだよね。
スキンヘッド男は、歩いてくるホアキンの邪魔にならないように横に避けたけど、そこを抜ける際何やら指示を聞いている。
お店はせまいし、あちこちに使い方も分からない、完成してるかどうかも怪しい物体が置いてある。
机はあるのに、その上にこんなに物を置いちゃったら使えないよね。
「コンゴ。彼女に例の商品を」
通り抜けざまにそう命令すると、コンゴは頭を下げて部屋の奥に向かっていった。
「お久し振りです、スチルさん」
そう言いながら下げた頭を戻すと、うっすらとした光にメガネの縁が光る。
ついその光景にティアマットが重なるが、私は頭を振って消した。忌々しい。
どうしたのかと不思議そうに見られたんだけど、私は話題を無理やり変えることにした。
「それにしても暗いですよ、もっと強く光らないんですか? 魔力の供給を増やすとか」
私の言葉に、ニヤリと片方だけ口のはしを曲げたホアキンは、なにやら嬉しそうだ。
「これに魔力は一切使用していませんよ」
私は驚いた、火も使わず、魔力でも無い光りなんて、そんなもの聞いたこと無い。
だがホアキンはその驚いた顔に対して更に得意気に話し出した。
「あなたは蛍という生き物を知っていますか? あれは炎でもなく、魔力でも無い、全く別の機構で光っているのですよ」
少し早口で捲し立てるように説明するホアキン。
蛍が自然に出来た川で発生する昆虫だということは知っているんだけど……実際に見たことはない。
だけど、これがもしかしたら新しい発見なのかもしれないということだけはわかった。
「ホアキン様、これですか」
私の動揺に、更に気を良くしたホアキンは話を続けようとしたけど、帰ってきたコンゴに水を注されてしまい、ちらっと彼を睨んでいる。
でも、気を取り直してすぐに私の注文した道具について説明をはじめた。
「注文の捕縛網です」
腕に取り付けておいて、迫る相手めがけて発射すれば。
網が一気に広がって相手にまとわりつく。
これで逃げるもよし、弱い敵なら捕獲もよし、仲間が居ればサポートも出来るかもしれない。
「アラクネの縦糸を縒り合わせて使っている、ランク3程度のモンスターであれば殆どがこれから抜け出るのは不可能だよ」
未だにランク1の魔物しかダンジョンに居ない私にはかなり助かる道具になりそう。
「もちろん予算さえ増やしてくれれば、もっと強固な糸も使えるから、その時は言ってくれ」
そう言いながら、細かな使い方や、回収の方法、再セットの仕方などをレクチャーしてくれた。
おまけに壊れたり失くした場合の予備も3つ持たせてくれた。
とても親切丁寧なお店だっていつも思う。
だけど、問題はこれから……
そう思うとちょっと憂鬱な気分になっちゃうワケで。