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ジョロモの街へ2

 穀倉地帯を通り抜けると街道も数本重なって、私の真横を荷車や馬車が通り始める。

 随分賑やかになってきたなぁ。


 そんなことを考えていると、急に声をかけられた。


「おっ? スチルじゃないか……乗っていけよ」


 私の名前を知っている人なんて珍しいので、ぎょっとしたんだけど。

 今日の昼に別れた冒険者が、東の森でワイルドボアを討伐したらしく、その亡骸をギルドの荷車に載せて帰還してきたところだった。


 私は止まらずに進む荷車に向かって、大きく両手をあげる。

 左手を剣士、右手をパラディンの男性に掴んでもらって、一気に体が荷台に浮き上がった。


「助かります、ありがとう」


 私は取り急ぎお礼を言ったが、少し息切れをしていた。

 お約束の時間に間に合うように早足で歩いていたし、なんやかんやあの騒動は、精神的疲労も中々のものだったみたい。


 そんな私に、魔法使いの女の子もニコッと微笑みかけてくれて、このパーティーが私に好意的に接してくれているのがわかる。


 ようやく息が整ったところで、私は疑問を投げ掛ける。


「今日は調査のクエストだったんじゃないんですか?」


 私の依頼は個人的なものだったので、彼らはギルドから平行して別の依頼を受けていたんだって。行き掛けにその話をしていたので、聞いてみたんだけど。


「ああ、そうだよ。あの森最近物騒でな……まだランク

2とはいえ、実力のあるパーティーが二人を残して行方不明になったとかで……捜索隊とは別に原因究明のクエストがあったからね」


「原因究明できたんですか?」


「いや、全くだよ。でも、大きめのコロニーができていたり、集団行動をするようになったモンスターもいたし……もしかしたらスタンピートの前触れかもしれないぜ?」


 最後はわざと声を落とし、子供を怖がらせるように両手を上げてこちらに迫るが……まぁなんの冗談なのだろうという風に目を細めて対処した。

 さっき私それより怖いモンスター見たんで。


 リーダー剣士はそれが不発に終わった上に、魔法使いから杖で頭をこづかれるわ、パラディンに軽く蹴られるわで。良い気味だ。


「っと、取り敢えずだ、まだ調査中だけど、スチルも今は森を彷徨くときは誰か居ないと危ないかもしれないぜ」


 バツが悪そうにそういうリーダーに、本気で心配そうなパラディンが付け加える。


「ジョロモの街でも、不完全とはいえ呪竜が出たって話だろ。天災は来るかもと思って備えておいて損はないからね」


 パラディンをやっている男性、戦闘中は頭まで隠す鋼の鎧を着ていたため顔が見えなかったが、短く刈り込んだ金髪に、まるっこいほっぺたが、優しそうな印象を見せる。


 こと戦闘においても、自分の安全より仲間の安全を優先する一面もあって、きっと性格にあってるんだろうなって思う。


「ありがとう、パラディンさん」


 その心遣いに、自然と感謝の言葉が溢れたが。

 受け取ったパラディンの男性は、きょとんという顔をしている。


「スチルちゃん、もしかしてこいつの名前覚えてねえの?」


 それに気付いた剣士が、可笑しそうに腹を抱えて笑い始めたので、パラディンも一足遅く残念そうな顔をしている。


 ビジネスライクの関係のまま深入りをするまいと思っていたのは私だけだったようで、彼らはとても気さくでその辺の垣根を越えて来るタイプらしい。


「俺、ラルフ……ラルフ=ズイーガーだよ」


 ため息を付きながらの自己紹介に戸惑ったが、流石にこれで覚えないと失礼だと頭に刻み込む事にした。


 本来だったら運良く帰宅時間が重なるって事はまずないんだけど、人の「縁」ってこういうもので、会う人には会うようになっていたりするんだよね。

 私も腹を括ろうかな。



 ラルフの自己紹介を終えても、リーダーである剣士はまだツボに入ってるらしく笑いが収まらない。

 流石のラルフも、その温厚そうな顔をひきつらせ始めたので、このちょっと無礼な振る舞いのリーダに声をかけた。


「で、こっちの剣士の名前は?」


 さっきと一転、表情をひきつらせて凍りつく剣士とは対照的に、今度はラルフが笑い始める。

 といっても顔を背け耳を真っ赤にしながら口を押さえている。

あからさまに指差して笑ってた剣士とは違って、性格は良さそうだけど……我慢できずにだいぶ空気漏れてたりする。



 そんなふうに、わいわいと賑やかにしながら、私達は街の東門までの道のりを過ごしたワケで。

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