やったね家族が増えるよ3
「さて、各自ここに居るしかないのは変わらないのですが、それなりに立場を理解して生活しましょうか」
眼鏡をくいっとあげると、議長かなにかみたいに仕切りはじめるティアマット。
私がマスターの筈なのに……完全に主導権持っていかれてるじゃん。
「私達は、ベルブラス嬢の奴隷のようなものです、彼女の言うことは絶対。ここから出ることも彼女を攻撃することも出来ません。それがダンジョンの掟です」
彼はキッパリとそう言いきる。
しかし富士子さんは全く理解が及ばない様子で。
「その、ダンジョンっての何? 私が知ってるのはテレビゲームとかで入っていく洞窟とカ、遺跡のイメージなんだけド?」
掟以前の問題だったみたいで、ダンジョンがわかっていないのか、首をかしげて聞いてくる。
「テレビゲーム……とは?」
ティアマットも彼女の言葉に頭をかしげる。
腕組みをして、向かい合って小首を傾げる図はなかなか奇妙。
お互いに共通認識が違うようだけど、私もそのテレビなんたらってのははじめて聞いたんだよね。
「あ、これ大神災の時に無くなったんだっケ、やだわ……若い人と話合わないのよネ」
「富士子さん大神災の前から生きてるんですか!?」
びっくりしすぎて声が大きくなってしまった。
ってか、若い人ってどのくらいの年齢を指してるつもりなんだろ……。
だって大神災って言えば確かに500年くらい前に、神様と悪魔の親玉が同士討ちしたときに、地球の地形を変えるくらいの大爆発を起こしたっていう……人類史上最悪の事件の事なんだもん。
まさかその時からずっと生きているなんて信じられない……あ、いや死んではいるんだけど。
「まぁ大神災前モ、結構混沌としてたしネ。探せば私みたいな人、何人か居るんじゃなイ?」
大したことじゃないように富士子さんは言うけど、そんな訳がないのは、私やティアマットの顔がひきつっているのを見れば一目瞭然だよね。
「確かに、古代遺跡だと知って入った訳ですが……とんだものを掘り出してしまったようですね」
眼鏡にかかる髪を手で払いながらティアマットが愚痴る。
一方バジリスクは……胡座をかき、腕を穴の空いた胸の前で組んで、頭を捻っている。
いや、分かってないよねこのリアクション。
「まぁそのへんは追々聞くとしましょう、時間だけはいくらでもありますからね」
「ここからは出られないのネ?」
「はい、そこのベルブラス嬢が死ぬまでは、私たちは彼女の奴隷です」
いまだ目を瞑り、なにかを考えているふうのバジリスク以外の4つの目が私を非難するように向けられる。
「ちょっ……ちょっと待って!」
私の制止に、ティアマットがメガネを直し、キラリと光らせる。なんか怖い。
私は気圧されて一歩下がったものの、これだけは伝えておきたいと思ったことを口にしたのだった。