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スチル=ベルブラスその1

他作品【エンジェルフェザー】の世界観

アナザーでありオリジナルでもある作品で

この世界を楽しんでみてください!

 緑深い森の中、化け物の叫び声と人間の怒声が響く。

 生臭い血の匂いが、そこで生殺与奪の攻防が繰り広げられていることを、否応なしに突きつけてくる。


 その声と匂いに、小さな生き物は葉の裏に隠れ、危険が去るのをただ待っている事しかできない。

 そして私も、そんな小さな森のお友達のように、茂みで息を殺しながら一部始終を見ていた────。


 光に当たると淡く緑色に透ける髪の毛が、草木に隠れるのに適しているようで、コボルトは私には全く気づいていないみたい。

 体はくすんだ茶色のマントで覆っているし、きっと大丈夫だよね。

 そうは思ってもやっぱり動のは怖いからね。

 全体的には子供演劇の「木」の役のような感じかもって思って、少し失笑しそうになったり。


「行ったぞ、後ろだ!」


 私の視線の先にいたのは、金属を皮で止めただけの、わりと動きやすそうな鎧を着ている剣士。

 彼は素早く振り向くと、仲間に指示を送りながら近くの敵に斬り付ける。


 倒れた敵はコボルトと呼ばれていて、犬みたいな見た目なのに二足歩行をしてる。簡素だけど服も着ていて、手には武器まで持ってる。

 手はどうなってるんだろうって観察したら、手だけはちゃんと人間みたいに物が持てるようになっててちょっと可愛さ半減。


 そんな観察をしている間にも、隙を突かれて後ろに回られた魔法使いを、盾を持った別の男性が守ってた。

 こっちはさらにガチガチにプレートアーマーを着込んでいて、その盾も背丈ほどある大きいもの。

 コボルトの棍棒を盾で逸らしながら、押し返すように距離を取らせている。


──あなたに水を あなたに光を

   大きくなって私を助けて──


『バインドウィップ』


 女の子の魔法使いが詠唱を終えると、2体のコボルトが地面から生えてきた蔦にからめとられて、身動きが出来なくなった。


「残り一匹だよ! 岩壁爆砕(がんぺきばくさい)ッ!」


 《シールドバッシュ》のスキルを発動した男が、残ったコボルトの頭を盾で殴り付けると。最後のコボルトは脳を揺らされてそのまま気絶したみたい。


 一瞬静まり返るなか、リーダーの剣士は追従の魔物が居ないかを警戒し、頭をあちこちに向けている。

 その場には金属鎧が掠れる音と、蔦を抜けようと必死なコボルトのうめき声だけしか聞こえない。


 まだ砂埃が落ち着いてはいないけど、歴戦の剣士は「ふぅ」と一仕事を終えたため息を付いて、こちらへ向き直った。


「スチルちゃん、生け捕りは4匹でいいのか?」


 そう問いかけられて、私はあわてふためきながら茂みから顔を出す。


「えっ、あっ、うん」


 7匹いたコボルトは3匹殺害され、4匹を生け捕りにしているみたいで。

 剣士が話している間にも、盾を持っていたパラディンは、魔法使いが蔦で抑えている敵の手足を、手際よく縛ってその辺に転がすと、気絶している他の二匹も同じように縛り上げてしまう。


「じゃぁ任務達成だな」


 リーダー格の剣士がそう言って、空に向かって腕の装置を高く掲げる。

 そこからはピューっという音と共に、緑色の光が、同じく緑の煙を発生させながら高く打ち上げられる。

 すぐにそれに応じるかのように、笛の音を響かせる信号弾が、森の奥から空に舞い上がるのが見えた。

 ギルドの回収班が近くにいたみたい。


「あの、報酬はギルドを通してお渡ししますので……」

 私は取り敢えず事務的に必要なことを告げる。


「ああ、ご贔屓(ひいき)にしてくれてありがとな」


 剣士は頭を下げると、盾使いと魔法使いを労いに現場に戻っていった。


 

 さっき放った信号弾は「ノロシリング」と言って、打ち上げる色によってその意味が違っていて。

 助けてだったり、集まってだったりするんだけど。

 緑色はギルドと取引のある回収業者を呼ぶ色。

 この合図でモンスターの死体とかを、町まで運んでもらえるようになってる。


 ものの5分と待たずにギルドの回収班がやってきた。

 こちらも手慣れたもので、あっというまに生け捕りも死体も一緒に荷車に乗せてしまう。


 私はその荷車に乗って町へ帰るつもりなので、これから別の任務をこなす予定があるパーティとは、ここでお別れになった。


 背の高い荷車の車輪の中木(なかぎ)に足を引っ掻けると、よいしょと荷台に手をのばすが、足りない。


 私はこの低い身長を恨めしく思いながら、御者の方を見た。

 それに気づいた御者が反対の手を引いてくれたので、なんとか上にたどり着くことができた。

 未だに踠いている生け捕りのコボルトに「諦めなさいよ」って目線を送りながら出発を待っていると、パーティーの魔法使いが寄ってきて挨拶してくれた。

「じゃぁ私たちはこれで……またお願いします」

 頭を下げ、水色の美しい髪が揺れるのを見ながら。


「うん、またお願いします」

 私はあっさりとそれだけを言う。

 冷たいと思われたかな、とちょっと思うけれど、これは私の性分みたいなもの。

 彼らとはビジネスパートナーの関係、深く馴れ合うつもりはないんだ。


 だって、関係が深くなれば私の難しい注文を無理して受けてくれるかもしれないけど、それって彼らの身を危険に晒すことになるんだよね。

 気軽に依頼して、気軽に断れるような関係じゃないと、仕事に支障が出てしまうから。


「んじゃ、行きますよ」


 御者が無感情にそういうと、荷車が牛のようなモンスターに引かれて動き出し、ゆっくりと街までの帰り道を進んでいった。

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