気遣いと罪悪感
「というわけでして、私の住んでいたところでは戦いは身近なものではなくてですね。魔王と戦う前に一度、戦闘を経験しておきたいのです」
俺は今日ミルグリア王と面会していた。理由は種族異能を手に入れるために外出を打診したかったからだ。
「ふむ、魔物討伐か…確かに瘴気領域の深くまで潜らなければそれほど危険な魔物は出ないが…」
大陸の中央部には魔王の居城があり、魔王から放たれた瘴気が放射状に土地を覆っている。この瘴気に覆われている土地を瘴気領域と呼んでいる。
「王都から瘴気領域までは馬車で三日かかる。勇者殿の貴族へのお披露目が五日後にあるゆえ、その後にしてもらえぬか?その間に騎士団長に稽古を付けさせよう。」
「そうしていただけるとありがたいです。この世界の魔物がどれくらい強いのか判断できなかったものですから、騎士団長程の人物であればお詳しいでしょうし」
「では騎士団長の明日からの予定を空けさせておく。」
俺は自室に戻り、魔本から魔術の知識を吸収する作業を再開した。すると
「勇者様、エカテリーナ様がお呼びです」
「うお!?バルトロさんか、いつからそこにいたんだ?」
全然気配を感じなかった。
「お返事がなかったものですから、勇者様が心配になりまして。扉を開けて確認させていただきました。おや、何を読んでおられるので?」
集中しすぎてたか。それにしてもマズいな、魔本のことバレたか?
「これか?書庫で見つけたんだが開くと魔術について文字が浮かび上がるんだ、不思議だろ?」
「何か書いてあるようには見えませんが、魔導書の類いですかね?それにしても書庫にこんな本は無かった筈ですが…もしそうなら勇者様はこの本に選ばれたことになりますな。」
なに?俺以外には見えていないのか。バルトロが「そういえば…」と切り出す
「大昔の賢者の中に魔導書に選ばれたという記録を残していた方がいたような、確かその方は自身の持っている魔導書を暴食の魔本と呼んでいたようです」
暴食か…単純に考えるならば七つの大罪を冠した魔導書ということになるな、ということは魔本は全てで7冊あるのか、俺の持っている魔本はどの大罪なのかが気になるところだ。
そうこう考えているとバルトロは人好きのする笑顔でこう言った。
「そちらはお持ちいただいて構いませんよ。王国が管理していなかった物ですから。」
「助かるよ、これは便利だからね」
危ない、なんとか切り抜けられた。それにしてもバルトロは書庫にある蔵書を全て把握しているような口ぶりだったが、気のせいだよな?
俺は本棚にぎっしりと詰め込まれた本と書庫の広さを思い出し身震いする。これ、バルトロが把握している本だったら本当に危なかったな。
「それで、エカテリーナ様が呼んでるんだっけ」
「えぇ、中庭でお待ちです」
王宮の中庭には多種多様な花々が咲き誇っており、本来は同じ季節には咲かない花が魔道具の力で自身の美しさを競い合っている。
その花園の中心には憩いの場となっている白いテーブルと椅子が置かれている。そこにエカテリーナ王女はいた。
「ミナト様!」
俺に気が付いたエカテリーナ王女がこちらに手を振ってくる。
フリフリと言う感じではなくブンブンという擬音が聞こえてきそうだが、王女のマナー的には大丈夫なのだろうか?
隣のバルトロを見ると頭を抱えていた。どうやら淑女としてアウトなようだ。
「こんにちはエカテリーナ様、本日はどうされたのですか?」
「ミナト様は頑張りすぎですわ、昨日もきちんと寝ていないのではなくて?勇者として責任を感じるのも悪いことではありませんが適度に休まないと体が持ちませんわよ?」
エカテリーナ王女の心配そうな表情を見て俺はフッと自嘲する様に笑う。
「…エカテリーナ様のご忠告痛み入ります。」
「それでは…バルトロ!紅茶を入れなさい!」
「畏まりました、勇者様は何がよろしいですか?」
「ミルクティーで頼めるかな?」
それからエカテリーナ王女と世間話をした。王宮での生活はどうだとか、地球はどういうところなのかとか。こちらから話を振らなくてもエカテリーナ王女が興味津々で聞いてくるので話しやすかった。
それから粗方、話題も尽きたところでお開きとなった。
《結芽ちゃんからのお願い》
どくしゃさん!よんでくれてありがとうございます!さくひんのひょうかとぶっくまーくをおねがいします!