第三話
「構造は3層。各層そこまで広くない。想定される攻略時間は3時間というところか……一般人なら」
「あ~あ~。倉木くん、聞こえるか?」
ダンジョンの中に面接官の声が響いた。
よく見ると、ところどころにカメラやスピーカーが取り付けられている。
これで受験者を監視するのだろう。
つまり、ただダンジョンの最深部に行って帰ってきても意味がない。
きちんと戦うところを見せなければ。
「聞こえますよ」
「くれぐれも無理をしないように。採用試験で死人が出たとあっては、当学園にも迷惑がかかるからな。もうこれ以上は無理だと思った時は、転移石で脱出しろ」
「分かってます」
本当は転移石など持っていないが、高位の移動スキル「転移」があるから問題ないだろう。
そもそもこのダンジョンで無理をしないといけないようでは、勇者ハルトの名が泣く。
「では健闘を祈る。私はゆっくり見ているとしよう」
「あ、そうだ。一つお願いが」
「何だね?」
「このレベルのダンジョンなら想定される攻略時間は3時間~4時間程度だと思いますが」
「いや、正確には4時間~5時間程度だ」
ふむ。
異世界の冒険者や騎士たちは3時間でクリアできるはずだ。
探索者たちの能力は、異世界の彼らに比べてやや劣るらしい。
「では1時間で攻略します。それが出来たら、俺の助手としてもう一人雇ってくれませんか?」
「1時間?何を馬鹿なことを。まあいい。もしできるのならやってみろ」
ま、1時間もかからないだろうな。
ダンジョンの中を進んでいくと、10体ほどのゴブリンが登場した。
異世界の定番モンスター、ゴブリン。
スライムに次ぐ雑魚の代名詞で、普通の個体なら大人になっても人間の子供より小さい。
しかし数が集まればそれなりの脅威になり、エルフを襲ってあんなことやこんなことを楽しんだりする。
要は緑のエロガキで、10体集まったところで雑魚は雑魚だ。
「さてと……準備運動にすらならないな」
「キキキキィィィィ!!」
ゴブリンが汚らしい鳴き声を上げる。
騒がしい騒がしい。さっさとやってしまおう。
「【炎の池】」
「ギャァァァァ!!」
あっという間に10体のゴブリンが消し炭になった。
あとに残ったのは、モンスターを倒した際に得られる核晶という鉱石と、数本の小さな剣。
ゴブリンのドロップアイテムなどろくな金にはならないが、一応拾っておく。
今使ったのは炎の範囲攻撃の中で最も初級のスキル、【炎の池】。
それで全滅してしまうのだから、いかにゴブリンが弱いのかよく分かる。
ちなみにこのスキルは【炎の湖】、【炎の海】、【獄炎の大海】とレベルアップしていく。
もちろん俺は【獄炎の大海】をマスターしているが、いきなり自分の全力を見せるのは賢明とは言えない。
出来るだけ手を抜きながら、ここぞという時に切り札を出す。
これが俺の戦闘の基本だ。
「【炎の湖】、いや【炎の海】か?なかなかやるな」
「集中したいので話しかけないでください」
カメラ越しに見ている面接官は、俺の【炎の池】を見て何か勘違いをしたようだ。
確かに並みの【炎の池】とは規模も精度も違うからな。
この日本においても、俺の能力は高い部類に位置するようだ。
※ ※ ※ ※
「【ウォーターボール】」
ファイアスピリットという炎系のモンスターを倒し、俺はとうとうボス部屋の前にたどり着いた。
ゴブリン、ファイアスピリット以外に、ここまででミニゴーレム、サンダーバード、グリーンウルフなどのモンスターが登場している。
この組み合わせを考えるに、ボスはおそらく……
「やっぱお前か」
ドアを開けた先、ボス部屋の中にいたのはキングゴブリン。
エロガキの上位互換、言ってみればエロ親父だ。
でもただのエロ親父ではなく、それなりに腕力も兼ね備えたエロ親父。
ただゴブリンと比べたら強いというだけの話であって、俺からしたら雑魚で変わりない。
「久しぶりだな」
片手を上げてあいさつするが、キングゴブリンは人語を解さない。
無視されこん棒を手に睨まれるだけだ。
こいつも炎スキルやら水スキルやらを使えば素手で倒せるが、武器が使えるというところを見せた方が印象も良くなるだろう。
もちろん本気は出さずに。
「【武器召喚・ガルナ】」
ガルナは俺が召喚初期に使っていた片手剣。
特段すごい能力があるわけではないが、一番手になじむのはこの剣だ。
少しぼろぼろだが、キングゴブリンを斬る伏せるにはこれで十分だろう。
「グガッ!!」
キングゴブリンがこん棒を振りかぶり、こちらへ向かって飛び上がった。
タイミングを合わせて後ろに下がり、軽くガルナを振る。
確かな手ごたえがあり、こん棒の先がごとりと落ちた。
「相変わらずもろい武器を使ってるな」
俺も人のことを言えたたちではないが。
さて、キングゴブリンのこん棒を斬れるだけの腕は見せた。
異世界ではかなりの人数が出来ることだが、日本ではこれくらいやれば十分だろう。
「それじゃあな」
俺は軽く5mほどジャンプすると、キングゴブリンの首をガルナで優しく撫でた。
スキルは、いらない。
「……」
断末魔の悲鳴を上げる間もなく、静かにキングゴブリンの首が落ちた。