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第二話

「どうやら、シーニャの言っていることは本当らしいな。あ、やっぱカップ麺って最高だわ」


 15年ぶりのどん●衛を味わい、俺は思わず笑顔になる。

 残念なことに、目の前にいるのはキツネのケモ耳っ娘ではなく、年齢不詳のポンコツロリっ娘だが。


「私はこのカップ●ードルというやつが気に入ったかな。これはどんなモンスターを倒せば手に入るの?」


「金さえあれば手に入る。モンスターを倒す必要はない」


「なっ!?これだけ体に活力を与える食物がモンスターを倒さずして手に入るの!?」


「ああ。それも格安でな」


「……うぅ。地球は恐ろしい」


「問題なのは金をどう稼ぐかなんだがな」


 15年前の俺は、コンビニのバイトで暮らしていた。

 独り身ならそれで何とかなったが、今回はシーニャがいる。

 カップラーメンすら知らない彼女を日本に放りだすわけにはいかない。

 しばらくは養ってやらなければいけないのだが、コンビニのバイトでは2人分の生活費は稼げないだろう。


「それなら心配はいらない。ダンジョンを攻略して稼げばいいんだよ」


「ま、それもありなんだけどな」


 ざっと調べただけだが、この日本においてもダンジョン攻略のシステムが完成しているらしい。

 スキルを持つ者たちが探索者となってダンジョンを攻略し、中にある財宝やモンスターのドロップ素材を売ったり、国からの報酬を受け取ったりして生計を立てているらしい。


 だがしかし、正直に言ってダンジョンを攻略するのは飽きた。

 それに俺は長年にわたる戦いを終えたばかり。

 またすぐに戦いの最前線へ身を投じるのはごめんだ。


 かといって、仕事をせずにゴロゴロしているわけにもいかない。


「とりあえず街を歩いてみるか……」


 まずは、自らの目で現状を把握する必要がある。

 ダンジョンやスキルがどんな影響を当てているのか。

 しっかりと調査してから行動するのは、異世界で学んだ基本中の基本だ。


「シーニャ、外に行くぞ」


 2つ目のカップ●ードルに手を伸ばそうとしているシーニャを押さえ、俺は着替えを始めた。


 ※ ※ ※ ※


 街の風景は、俺が召喚される前とさして変わらない。

 バイト先のコンビニも普通に営業している。

 しかし、ところどころで武装した人たちを見つけた。

 彼らが探索者たちだろう。


「不思議な建物ばかりだね~」


 物珍しそうにあたりをきょろきょろ見回すシーニャ。

 確かに異世界民からすれば不思議な風景だろう。

 俺はアニメや漫画のおかげで異世界に違和感を感じなかったけど。


 取りあえず、召喚前と帰還後で世界が180度変わってしまったということはなさそうだ。

 もちろんダンジョンやスキルは圧倒的な変化だが、自然に生活へ溶け込んでいる。


「やっぱり無難にバイトの掛け持ちか……いや就職か?出来たら苦労しねえって」


 外に出たはいいものの、なかなか有効な現状打破の策は思い浮かばない。

 金が尽きて「眠いよ……。シーニャ……」などというフランダースエンドはごめんだ。


「あ、ハルト。ダンジョンって書いてあるよ」


「ん?どれだ?」


 シーニャが渡してきたのは一枚のチラシ。

 そこには「天駆あまがけダンジョン学園職員募集」と記されている。


「何だこのダンジョン学園て」


「私が知ってるわけなくない?調べて見なよ。何だっけ……巣箱だっけ?」


「スマホな。何を飼うつもりだお前は」


「そうそう。スマホスマホ」


 こっちに来て初めて覚えた日本語がカップ●ードル。次がスマホ。

 着々と廃人への道を歩んでいるシーニャであった。


 何はともあれスマホを取り出し、「ダンジョン学園」で検索をかける。

 すぐにホームページが出てきた。

 キャッチコピーは「世界に誇れる探索者を育てる学園」で、セールスポイントは「優先的に使用可能なダンジョンを複数所持」か。

 要は探索者の育成を目的とした学園な訳だ。


「……ありじゃね?」


 きっとこれほど大きな学園なら、給料も高いはずだ。

 しかも俺は異世界の勇者。スキルが引き継がれていることは【スティール】で証明済み。

 上手くいけば、教師として好待遇での採用なんてことも……。

 教師ならダンジョンを攻略する回数は少なく済むだろう。

 本当はダンジョンと何ら関係ない仕事がいいのだが、そう贅沢も言っていられない。

 持てる手札はガンガン使っていくべきだ。


「パトラッシュ」


「ん?誰?」


「間違えた。シーニャ、フランダースエンドは回避できそうだぞ」


「フランダースエンドは何?」


 きょとんとするシーニャを置いてけぼりにして、俺はニヤリと笑った。


「このダンジョン学園で金を儲けてやる」


「金……。カップラーメンが食べられる!?」


「好きなだけな」


 俺はこの日本でのシーニャの扱い方がよく分かった。

 鼻先にカップ●ードルをぶら下げればいいのだ。


 ※ ※ ※ ※


 翌日、俺はダンジョン学園の応接室にいた。


「え~っと?倉木春斗くん。年齢は19歳。探索者としての経歴はなしと」


 面接を担当する初老の職員が、眼鏡越しに俺をジロジロ見回した。

 確かに探索者としての経歴はないが、異世界を救った勇者です……とは言えない。

 頭のおかしい奴だと思われて追い出されるのがオチだ。


「で?君は清掃職員としての応募でよかったのかな?」


「清掃職員の時給ではダメなんです。教師採用でお願いします」


「なめてるのか?君は。探索者としての実績もない君を、いきなり教師として採用する訳がないだろう」


「まあそう言わずに。俺としては、実績はなくとも実力はあると思うんですよ」


「ほお。で、その実力とやらはどれほどのものなんだ?」


「そうですね……【空気の鎖】」


 俺は面接官に向かって手を伸ばし、拘束のスキルを発動した。

【空気の鎖】は拘束スキルの中でも初歩の初歩。

 面接官は、所詮その程度かと薄ら笑っている。

 ……が


「【空気の鎖】とは大笑いだな。その程度で実力があるとは。こんな初歩スキルで拘束などしてもすぐに……すぐに……す、すぐに……」


 面接官の顔色がだんだん悪くなっていく。

 それもそのはず。

 こちとらえげつない努力をしてきた身だ。

 拘束スキルの熟練度が違う。

 いくら初歩スキルとはいえ、面接官程度の実力では抜け出せない。

 ちなみに彼が逃げられないことは、部屋に入った段階で【鑑定】を使い確認済みだ。


「なぜだ……動けない……」


「どうだろう?俺を雇ってはくれませんか?」


 面接官は観念したように言った。


「ふっ。そこまで言うのならいいだろう。どんな汚い手を使ったのかは知らないが、私を拘束するとはなかなかだ。特別に採用試験を受けさせてやる」


「そりゃどうも」


 俺は【空気の鎖】を解除する。

 面接官に自由が戻った。


「ついてこい。試験会場に案内する」


「了解です」


 彼に連れられ、俺は試験会場の前にやってきた。

 見間違うはずがない。

 もう何度も見てきたダンジョンの入口だ。


「……んと?」


「採用試験はこのダンジョンをクリアして最深部にいるモンスターのドロップ素材を持ち帰ることだ。どうした?怖気づいたならやめてもいいぞ?」


 誰が怖気づくか。

 俺が異世界でダンジョンマスターの異名を取っていたことを知らないな?まあ、知ってる方が怖いんだけど。


「それでは行ってきます」


「あ、おい、まだこのダンジョンにいるモンスターの説明が……」


「問題ありませんよ」


 まさか日本でダンジョンを攻略するとは。

 ただこれさえクリアすれば、探索者よりも楽して金が稼げる……はず。

 俺は久しぶりにかび臭いダンジョンの中へと足を踏み入れた。

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