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悪役令嬢もの短篇集

これだから陽キャは困る

作者: ran.Dee

私は男爵家の令嬢だが転生者でもある。


前世は女子高生で普通に交通事故で死んだ。

美人でもなく酷いブスでもなく成績もいたって普通。

たまに二言三言話す程度の友人ともいえない知り合いが数人いて、カレシはもちろん無し。

ぶっちゃけ陰キャの、クラスではまったく目立たないモブであった。

そんな私の唯一の趣味は乙女ゲームをすることだった。


この転生後の世界はいちばんにハマった乙女ゲームの世界!

そして私はヒロイン!

そう、すんごい美少女に生まれ変わったんだから!

これから学園に入学してシナリオを正しく進めれば私は王太子妃!

主人公の人生を私は歩む!


入学式の日、同級生になる王太子殿下の前で転倒すると優しげに微笑んで助け起こしてくれた。


「大丈夫かい?走ると危ないよ。気をつけようね。」


すごく優しいが、まるで子どもを諭すみたいに言われて赤面する。


「す、済みません。慌てていたもので。ありがとうございました!」


ゲームではまだ序盤も序盤なので助け起こしてはくれるが「気をつけたまえ」くらいの温度だったはず。

リアル王子サマはひと味違うのだわ。

でも、隣の悪役令嬢も温かい眼差しで微笑んでた気がするのが引っかかる。

まあイキナリ殿下の前で叱りつけるのも高位貴族の令嬢としてダメよね。

ゲームとはちょっと違うけど、リアルを体感出来てイイわ。


同じクラスになった他の攻略対象たちに馴れ馴れしく名前で呼んでしまったり不用意に触れてしまってもゲームみたいに戸惑われたり赤面されることもなくみんな優しく接してくれる。

あのお優しい王太子殿下の側近だもの当然よね。

でも…ちょっと悪役令嬢さん?なんで貴女まで優しいのよ?

イベントが全然進まないじゃない!

やっぱ、しょうがないか。悪役令嬢のフラグをコッチからたてるしかないか。


カフェテリアでは王太子殿下と婚約者の悪役令嬢を中心に側近たちが同席して和やかに昼食をとっていた。

私はトレイを持って悪役令嬢とすれ違いざまに転んでしまう。

このイベントでは王太子殿下たちに馴れ馴れしいヒロインを悪役令嬢が貶めるために足を引っかけて転倒させるが、思いのほか大惨事で料理だったものを頭から被ったヒロインに皆が同情するようになるという地味なようでいて潮目が変わる重要なものだった。

しかし、宙を舞うトレイがまさにひっくり返るところを身体能力の高い騎士団長子息がナイスキャッチ!

ああああ、優しさが仇になるとはこのことね…


「ハイ、私の勝ちね。」


悪役令嬢が勝ち誇ったように王太子殿下に言った。


「ああ俺の負けだ。」


王太子殿下は降参したとばかりに手を挙げた。

まさに悪役令嬢の悪意に怯える演技を始めようとしてたところに、この軽〜いノリ。

出鼻を挫かれてしまってはしようがない。普通に立ち上がると…


「貴女、転生者よね?」

「へ?テテテテンセイシャトハナンノコトデショウ…」


イキナリ過ぎて片言になってしまった。


「大丈夫。私も転生者なのよ。」


ってか、皆さんの前でぶっちゃけ過ぎでは?


「ああ、彼らなら大丈夫。全部話してあるから。」

「え!そういうのって普通隠すよね!?」


思わず素が出てしまった。


「え、なんで?断罪されたら嫌じゃない。

事前に話しておけば濡れ衣着せられることも阻止できるって普通思うよね?」

「いや、そんなの頭おかしいって思われたら…」

「なんで?私たちみんな幼馴染よ?

将来こういうことが起こるかもって話してみんなで考えてもらったのよ。

友だちのもしもの話だから頭おかしいなんて言われないわよ。

で、実際そのとおりに動いてる人が今目の前にいるわけでしょ?」

「友だち…」

「え?貴女友だちいないの?」

「ウッ!地味な私に友だちなんて…」

「地味?それ前世の話よね?今はこんなに美人さんで頭もいいじゃない。

なに前世の陰キャ引きずってんのよ?

そんなに自己評価低いくせに王太子妃狙ったわけ?イミフね。

どうせシナリオが自分を守ってくれるとか思ってたんでしょ。

だいたいシナリオ通りになんていくわけないでしょ。

悪役令嬢の私があらかじめ知ってて動いてるんだから。

攻略対象のトラウマなんて存在しないの。

友だちの不幸の芽は全部潰してきたからね。

だからゲーム通りの好感度上げなんてムリ。

貴女はシナリオを守るんじゃなくてキャラを守るべきだったのよ。

みんなから愛されるキャラであれば薄っぺらいシナリオなんか不要なのよ。

この私みたいにね。」

「ううう…」


唸ることしか出来ない。

完全論破された。陽キャ恐るべし。


「貴女が天然のヒロインなのか、転生者がなぞってるのか賭けをしてたのよ。

機能しない悪役令嬢に焦れて濡れ衣を着せようと仕掛けてきたら転生者確定ってわけ。

今回だけは見逃してあげるわ。賭けに勝たせてもらったからね。」

「…あ、ありがとうございます。」


「入学式の日に君がシナリオ通りに転倒したのを見た時はワクワクしたな。

彼女が書き起こしたゲームシナリオは小さい頃から僕たちの愛読書でね。

そのヒロインがまったく同じ行動をするんだ。少し感動したよ。」


王太子が半笑いでパックリ開いた心の傷に塩を擦り込んでくる。

他の攻略対象たちの生温かい眼差しと微笑みがツラすぎる。


「貴女がシナリオが無いと動けないとかそういう人だったら私の侍女に取り立ててあげてもいいわよ?

たまに前世話が出来るのはありがたいからね。

でも、まだ学園生活もこれからだし、今はちゃんと青春しなさいよ。

今度は攻略ではなく、ちゃんと恋をするのよ?

就職に困った時は相談しなさい。

では、頑張ってね。」


陰キャはそういう無神経な親切心に傷つけられるんだって…

これだから陽キャは困る。

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