表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/66

第9話 成り上がり者パーティの末路(Ⅰ)


 とある地方の都市の、他よりも大きな建物の中で宴会が行われていた。


 ここは国中に展開されているギルドの支部。中でも優秀とされるAランクのパーティが誕生したばかりだった。


「ぷはあああぁっ。へへっ、昼から飲む酒は最高だなぁおい」


 当の本人達は、併設された酒場で気持ちよさそうに仲間と談笑していた。

 酒瓶を置くデニスはの顔は真っ赤だ。


「そうだね。それにようやく疫病神がいなくなって、せいせいしたよ」

「ああ。奴を追い出してから、何もかもうまくいき始めている」


 同じく集まったメンバーの三人も、その言葉に同調するようにうなずく。

 アリアネが、甲斐甲斐しくデニスの口元の泡を布で拭った。


 五人のパーティ『赤蛇の牙』が集ったテーブルには、大量の酒と食べ切れないほどの料理が置かれていた。

 大きな袋の中は、金貨と銀貨が大量に詰まっている。


「それにしても、領主様は気前がよいのう。前金でこれほどの額を頂けるとは思っていなかったわい」


 散らばったその中の一枚の金貨を、重戦士のマティアスが手に取った。

 デニスは両手を広げて、嘲るように笑ってみせる。


「俺たちの実力を考えれば当然さ。だが貴族様が依頼をかけてくるなんて、『赤蛇の牙』も有名になったもんだ」

「ええ。それは全てデニス様のお力があってのことです」


 新人として加入した魔法使いのペーターも、デニスを褒めちぎった。

 デニスは機嫌よさそうに笑いながら、内心で暗い考えを抱く。


(この街で手に入る金も名誉も、何もかもが俺のものになったわけだ)


 Aランクは地方で得られる、ギルドの中では最高の地位だ。王都ギルドででさえ、そこまで至れるパーティは数少ない。

 今も周囲から受ける羨望の視線を心地よく感じながら、新たに注がれた酒をあおった。


「あいつを追い出しておいてよかったぜ。使えないクズがメンバーだなんて、領主サマに知られたら最悪だからなぁ」

「その前に優秀な魔法使いが見つかってよかったよ。ねえ、ペーター」

「ありがとうございます」


 疫病神と呼んでいるハラルドの代わりに加入した魔法使い、ペーターは頭を下げた。


「ところでギルドの恥さらしと伺っていましたが、どういう意味でしょう……?」


 彼はデニスに対して尋ねる。


「ああ、奴のことは加入の時に話しただろう」

「私から見ると、魔力なしの軟弱な男のようにしか見えませんでした。魔法使いにさえ見えなかったのですが、どのような方だったのですか?」


 煽るような言葉に、アリアネがプッと吹き出しながら答えた。


「あいつはね、他人の魔力を使ってしか魔法が使えない役立たずなのさ」

「……他人の魔力、ですか?」

「ああ。あたしたちの魔力を勝手に使って、おこぼれで魔法を使っていたんだ。泥棒じみた『スキル』の力で成り上がった疫病神なんだよ」

「うむ。自分で魔力を持たない者など、何の価値もないわい」


 魔力を吸われることを嫌っていたマティアスは、腕を組んで拒絶を示している。

 二人の評判にペーターは、ほうと息をこぼす。


「自力で魔法が使えないのですか。随分変わったスキルをお持ちのようですが能力がなかったようだ」


 胡散臭い笑みを深めながら、彼もまた同調するようにくくっと笑う。

 デニスが期待するような言葉を吐いた。


「デニス様の言う通り、冒険者失格というところでしょうか。同じ魔法使いとしても恥ずべき人間です」

「ヒャハハハッ、そうだろう!」

「儂は、奴が二度とギルドに戻ってこないことを祈っておるよ」


 マティアスは何度でも吐き捨てるように言い放った。

 彼らは仲間であったはずの男を徹底的に嫌い抜いていた。


「…………」


 しかしそんな中で一人。

 同じテーブルに座りながら、まったく顔を上げずにいる少女がいた。


「なあ、お前はどう考えているんだよ。リザ!」


 デニスに振られて顔をあげたのは『赤蛇の牙』所属、青髪の少女リザだ。

 僧侶の錫杖を磨いていた彼女は顔をあげて、ぽつりと一言だけ返す。


「……どうでもいい」

「ああ?」


 そっけない反応だけを返して、再び錫杖磨きに集中し始める。

 デニスは怪訝な声をあげた。

 

「何だぁ、無関係ですって面しやがって。奴に一度も魔力を吸われたことがないからって、すました顔してるんじゃねえぞ」

「…………」

「おい。聞いてんのか!?」

「ちょ、やめてあげなよ、デニス」


 自分の話に同調しない相手に対して、機嫌が悪くなっていく。

 そんな様子に慌てたのはアリアネだ。胸を寄せながら近づいて、おだてて宥めた。


「リザはあたしたちに必要な仲間だろう」

「…………」

「もうあの疫病神は追い出したんだ、二度とギルドに顔は出すことはないよ。だからリザも興味がないんだろう」

「ケッ……まあ、いいさ」


 言葉を飲み込んで、忌々しげに床に唾を吐き捨てる。

 僧侶は神の力を借りて魔法を使うことのできる、魔法使い以上に貴重な役職だ。

 ここで失っていい人材ではない。


 リーダーが納得した様子を見せたことに、アリアネ、マティアス、それにペーターも息をついた。


「だがこれでもう俺たちの障害になるものは何もねえ」


 デニスはそう言って、口角を吊り上げる。

 

「このまま駆け上る。俺たちは王都で、Sランク冒険者になるぞ」

「ああ、そうだね」

「うむ」

「お任せください。一度は王都で活躍していた身。解散してしまった前のパーティに変わって、お役に立って見せましょう」


 リーダーの所信表明に対して、ペーターは自身のギルドカードを見せつけた。

 王都ギルドの印が刻まれている。

 彼が王都ギルド冒険者であった証だ。

 デニスは、確実に目的に近づいていることを実感した。


(貴族サマの依頼をこなせば、もっと金が手に入る。王都で仕事を受けるだけの"格"も十分。そうなりゃ金も女も選び放題だ……!)


 幼い頃からこの古臭い街が嫌いだった。

 実力がある自分はもっと上にいける。

 田舎に骨を埋める気はない。最上位冒険者として羨望を得て、王族のように意のままに振る舞うことが、夢だ。


 その前に、酒瓶を机に荒っぽく叩きつけた。


「その前にハラルド。てめぇを地獄の底に落としてから、王都に行ってやるよ」


 デニスにとって、ハラルドは不快な人間だった。

 自分のおこぼれで成り上がっただけの存在であり、スキルがなければ、絶対に仲間に加えることはなかっただろう。

 我慢していたのはAランクパーティになるのに使える存在で、金儲けができたからだ。


 しかし、もうその必要はない。

 疫病神のハラルドを更に破滅させる光景を思い浮かべて、いやらしく笑った。





「面白かった!」

「続きが気になる、読みたい!」

と思っていただけたら、☆☆☆☆☆とブックマークから、作品への応援お願いします!

正直な気持ちで、好きな数をつけていただいて大丈夫です!


次話もよろしくお願いいたします!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] あーなんとなく末路見えた… 多分、火力不足で依頼失敗しますねぇ もしくは儲からないか 魔法使えないメンバーの魔力使うなら 大量の魔石持ってるのと同じなので
[一言] 推しモブからですー。 これで序章明け、になるのでしょうかね、 主人公のスペック詳細判明、たのしみです。 借りた相手の魔力によって行使できる魔法の種類や威力がわかるというなら、秘められた才能…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ