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Vorwort  作者: 仁森あお
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入団試験編 8




(どうしてこうなったんだろ…)


病院のベッドの上に座って、リンゴを剥きながら、ミーシャは数時間前の出来事を回想していた。











ハフギール消滅とバリア崩壊が完全に理解され、騎士たちは他の受験生の保護のために迷路に入った。



しばらくの捜索後、二名の受験生が迷路内で保護された。



どうやらミーシャの倒したケモノには出会さず、ただ歪んだ空間に入っていただけらしい。



ミーシャが空間ごと破壊した後は、ハフギールに怯えて迷路内でうずくまっていたそうな。





怪我人は出たが、死者はゼロ。貴族や王族に被害は皆無。



はい、万事解決…とは、ならないようだった。
















「まず、今回の試験の結果ですが…」








改めて受験生全員が集められ、受験の結果が説明された。





ミーシャは怪我をしていたため病院に行くかを勧められた。断ったがしつこく言ってくるので、「説明終わったら行く」と、半ば強引に切り上げた。





決勝の途中までの結果を参考にして、優勝者が決まるという。





「第204回王国魔法騎士団入団試験の優勝者は、ルーカス・アヴァロン!」




受験生の一部がどよめく。観客たちも、驚きの声をあげる。





「ま、待ってください!」





受験生の一人が声を上げた。






「た、確かに彼は予選を突破したかもしれませんが、決勝でゴールしたのは、黒髪の少女だったはずです!」





ああ、とミーシャは納得した。どこかで見た顔だと思ったら、迷路で最初の方だけ一緒にいた受験生だ。





ブロンド眼鏡はその言葉に眉を寄せ、答えた。






「確かにそうですね。ですが、ルールとは、守られるために存在するものなのですよ」





一見関係なさそうな話題に、受験者は困惑する。しかし、ミーシャとルーカスは、言葉の真意に気付いた。




(あ、バレたか)




ブロンド眼鏡はミーシャを一瞥し、声を上げる。






「そこのミーシャ・マクレーンは、アカデミー卒業資格を取得していません。ですから、そもそもの話、受験はできないはずなのです」





一瞬の静寂の後、会場内は驚愕の声で溢れた。




嘘だ、信じられない、と言う声が次々に上がる。





何人もの視線がミーシャに突き刺さる。


そんな状況下にも、ミーシャはマイペースだ。





(ボクが失格で、ルーカスが合格?ボクの受付書だけ見てたのかな?これが例年のことなら、なおさらこの王国の試験制度は不合理だなぁ)





いやそもそも、アカデミー卒業資格がない者が受験したところで、すぐに負けるのが関の山なので、いちいち確認しないという常識は、王国のことをほとんど知らないミーシャには通じない。




驚愕に包まれた受験生と観客と、王国へ再び失望するミーシャと、笑顔が怖いルーカスをよそに、淡々と説明会は勧められ、「以上」というブロンド眼鏡の言葉で、有無を言わさず終了した。





「それでは、何か質問はありますか」





疑問系ではあるが、質問を挟む余地すらない口調で尋ねられれば、受験生は首を横に振るしかない。





しかし、観客席から、空気を読まず手を上げる男がいた。





「質問ではないが、いいだろうか」






金髪碧眼の長身の男は、口元に微笑みは携えて首をかじけた。



とても様になっている姿だったが、彼の声だけで、受験生の一部は驚きで声をなくした。






嫌そうな顔でブロンド眼鏡は、金髪碧眼の方へ向き直った。





「…なんでしょう?ハインリヒ殿下」





殿下、の言葉に、やっぱりー!と会場は興奮に包まれた。






(殿下?現王の息子ってことか?なんでこんなところにいるんだ)





もちろん、王国のことを何も知らないミーシャの頭は疑問符だらけだ。








「ここからだが、彼女の実力は実感できた。予選での圧巻の活躍も、魔獣討伐での素晴らしい働きも。なのに、それらを評価しないというのは、流石にどうかと思うよ?」




彼の言葉に、一部は大きく頷いた。




図星だったのか、ブロンド眼鏡も眉を顰めて否定をしない。




それに笑みを深くし、さらに金髪碧眼は話を進める。






「だから、ね。君がルールを大事にするんだったら、僕は王命をもって、彼女を王国魔法騎士に推薦しよう。王命が、この国で最も遵守されるべきルールっていうのは、君ならわかるよね?」







穏やかな口調だが、ブロンド眼鏡以上に有無を言わさない言葉を挟ませない言葉。




ブロンド眼鏡は小さく何事か呟いた後、大きなため息をついた。





そして、跪き頭を垂れた。





「…王国魔法騎士団第二部隊隊長の名において、その王命承りました。ミーシャ・マクレーンの処遇を、貴方様の望むままに」





忠誠を誓うポーズでもっての宣言は、会場内全員に周知された。




観客や受験生の歓喜、困惑、嫉妬などの渦巻く様子からして、すぐに国中に広まるだろう。






これが狙いだったかと歯軋りするブロンド眼鏡に対し、終始笑顔で受験生に手を振る金髪碧眼。









高揚する会場の雰囲気をどこか他人事のように眺めながら、説明は終わったのだからと、ミーシャは担架に乗せられ、王立の病院に担ぎ込まれ、今に至る。













(途中意識が朦朧としてたから、あんまり詳しくは覚えていないなぁ)





ルーカスが持ってきたリンゴを剥き終えついでに回想もし終えたミーシャは、状況を整理しようと思考を巡らせる。





(会場から出る前に、落ち着いたら後でまた説明に伺いますって、青ローブの誰かが言ってたから、ボクが騎士団に入れるっていうのは確定してるんだろうけど)




一つ二つとリンゴを口にする。病室には、しゃくしゃくという音が響く。





(多分、ルーも騎士団に入ることになる。それは嬉しいんだけど…)





ミーシャは隣に座るルーカスを見る。










診察が終わり病室に運ばれて、ミーシャはルーカスと数分ぶりの再会をした。



というか、病室で待機していたらしい。



ミーシャが病室に一歩踏み入れた途端に、機敏な動きで側に寄り、診察の結果や後遺症の有無を尋ねてきた。



命に関わる怪我はなく、打撲や擦り傷だけ。念のため3日ほどは入院が必要だが、後遺症の心配はゼロ。



それを伝えると、心底安心したような顔でルーカスが笑うので、ミーシャは背伸びして頭を撫でてしまった。




赤い顔でナイフを逆手に持ってリンゴを剥こうとするルーカスからリンゴとナイフを回収し、不満そうなルーカスに「いてくれるだけで嬉しい」と伝えてからは、ずっとニコニコとミーシャを眺めている。






「ルー、君のところに騎士団から連絡あった?」



「まだないよ」



「そういえば、ボクのところにいたら連絡が滞るんじゃないの?」



「ミーちゃんのところに行くって第二部隊の人に伝えてきたから、心配しないでいいよ」





そっか、ならいいやと、ミーシャはルーカスの口元にうさぎリンゴを差し出す。



少し頰を染め口を大きく開けて食べるルーカスを見ながら、うん可愛いと、ミーシャは心の中で微笑んだ。





そんなミーシャを本当に愛おしく思いながら、ルーカスは己の口には少し大きいうさぎ(?)リンゴを噛み砕くことに少しだけ意識を向けた。




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