入団試験編 5
Cブロックでは、ミーシャが光の刃を降らせ、三分の一をダウンさせたことで、ミーシャへの危険性を全員が周知した。
ミーシャに一人では敵わない。魔法は言わずもがな、説明会での蹴りを見ても、体術で相手取ることも難しい。
ミーシャが普通の思考回路を持っているならば、ミーシャと結託して他を相手取ることが最善であっただろう。勝者が二人となっている以上、ミーシャと結託した者が勝つのは目に見えている。
しかし、説明会での様子を見て、ミーシャに常識が通用すると思えるわけがない。
「手を組む?は、寝言は寝て言え」
と、にべもなく断られ殴られるのがオチだと、全員が確信していた。
となれば受験者たちの取る行動は、受験者同士で結託し、強敵ミーシャを速やかに排除する他ない。
自然と受験者たちは、ジャングルの中央に集まった。
考えることは皆同じで、皆が付かず離れずの距離を取りながらも、各々の高い魔法を言い合い作戦を立てる。
ミーシャの体術を鑑みて、接近戦は不利。
かと言って遠距離でも、先程のような魔法で一網打尽にされる。
え、これ無理でしょというくらい絶望的だったが、なんとか話はまとまった。
まず、遠距離からの初級魔法火の弾ファイヤーブレッドでミーシャの逃げ道を塞ぐ。
次に、初級魔法土人間にミーシャと戦わせる。これは勝つつもりはない。ミーシャの体力を減らすためだ。
そして、ミーシャが動けなくなったところを、初級魔法緑の触手で拘束し、各々の得意魔法を叩き込む。
作戦会議が終わる頃には、皆の結束が高まり、よっしゃこれで勝つる!!というムードになっていた。
「よし、みんな行くぞ!」
「そうですね、逝ってください」
リーダー(流れで決まった)の掛け声への返答が、上空から聞こえた。
皆がバッと上を見ると、巨大な魔法陣を背にしたミーシャが空に浮かんでいた。
「なっ!!?」
「い、いつからそこに…っ」
「火の弾で足止め〜のあたりからです」
「は!?そんな馬鹿な!!」
「人間って、一つのことに集中しすぎると、その他のことが疎かになる。君たちの目的は、自分以外の敵を倒す、ということだったはずです。だから、ボク一人が標的となったことで、周りを警戒する必要がなくなった、と勝手に勘違いしてしまった」
それが、君たちの敗因ですかねと、ミーシャは指を銃口の形にして、受験者たちに向けた。
「は!?飛んだまま魔法だと!?」
「中級魔法光の大砲」
一人の驚愕の声は、直後の光の大砲にかき消された。
「光魔法は殺傷性が低いですが、生きてますよねー?」
降りてきたミーシャが、受験者の胸ぐらを掴んで起こし、息を確認する。
どうやら全員気を失っているだけのようだ。
「まあ、ボクも加減しましたし、死にはしないでしょう」
立ち上がって、ミーシャは魔力反応を探った。
「はい、全滅っと。この場合、勝者はボク一人ってことになるのかなぁ?」
ミーシャが呟いた瞬間、目の前に扉が出現した。
「ああ、これを開ければいいのかな」
そう言って、ミーシャは扉を開けた。
扉の先には、数人の受験者がいた。二人組が多いようだ。
「ミーちゃん!!」
奥からは、ルーカスが満面の笑みで走ってきた。
「ルー、ここは?」
「予選突破したらトばされる部屋。ここにいるのは、予選を突破した人だけだね」
「ああ、だから二人組が多いのか」
ミーシャはルーカスが来た方をみるが、ルーカスのそばには誰もいないようだ。
周りを見ても、ルーカスと共に突破したと見られる受験者はいない。
「あ、ルーもボクと同じで、一人でクリアしたの?」
「うん。広範囲魔法を叩き込んだら皆気絶しちゃって。一人くらいいないかなーって思ったんだけどね。軟弱だよまったく!」
「割と作戦はしっかりしてたのがいたよ、こっちには。本当の戦場で使えるかって言うと、微妙だけど」
「へー…」
ミーシャが他人を評価(?)するのを聞いて空気を冷たくするルーカス。そんなルーカスに構わず、ミーシャは言葉を続けようとする。
「それよりこの試験、あんまり合理的じゃなくないか」
「え?どういうこと?」
「だってこの試験、明らかに有利不利がはっきりわかれている。戦ってみてわかったけど、これ、もし初めから二人組とかで試験を受けていたら、即座に二人で合流して戦うことができた。現に今ここにいる一部の二人組は、雰囲気からして以前から親交があった、顔見知り同士だ」
そう言われて、ルーカスは再度突破者を眺めた。言われてみれば、確かに今日会ったばかりとは思えないほど親しげな二人組がいる。
ミーシャ以外の人間に基本的に興味がないため、気づかなかった。
「…でも、試験のブロックの分け方はランダムだったよね。てことは」
「多分、試験内容を事前に知っていて、なおかつ二人でブロックを同じにしたんだよ。騎士団に内密に要請して」
「…なるほど。転移後に素早く動くのも、あらかじめ試験内容を知っていればできるってわけか」
そういうこと、とミーシャは頷いた。
二人が話している間に、続々と突破者が現れる。中にはミーシャの言うように、親しげな二人組もいる。
そして、最後の二人組が現れた瞬間、再び転移魔法でトばされた。
目を開けると、そこには半数の受験者と、大きな壁に挟まれた道があった。
「なんだ、これ」
誰かの呟きと同時に、脳に直接声が響く。
「決勝の内容を説明します。
同ブロックの突破者を二手に分けて転移させました。今現在、道が見える方がプレイヤー、同ブロックの相手が見える方が司令者です。
プレイヤーは、司令者の命令以外で動くことはできません。しかし、他のブロック同士のプレイヤーと司令者がチーム替えを宣言すれば、宣言通り新たなチームを組むことができますが、宣言されたプレイヤーと司令者は、失格となります。
勝利条件は、プレイヤー側はゴールすること。司令者側はプレイヤーをゴールさせること。以上です」
説明が終わった。質問は受け付けないらしい。
唖然とする受験者の中、しかしミーシャは「ねぇ」と声を上げた。
「二手に分けたって、ボク一人で突破したんだけど。ボクがプレイヤーなら、司令者は誰なわけ?」
ミーシャの質問に、説明が足りなかった、と声は響く。
「君は、Bブロックの突破者が司令者だ」
ふーんなるほど、とミーシャは納得した。
(ま、だろうと思ったけど。これでボクがプレイヤー側だって確信できた。ルーにはボクの様子が見えてるってわけだ)
試しに、ルーカスに伝達魔法を送ってみる。
『ルー、ルー。聞こえてる?』
『ミーちゃん!聞こえてるよ!』
『ならよかった。ところで、この声って試験官側にも届いてるんだよね?』
『そうだね。今魔法の結界によって、ミーちゃんと僕はお互いにしか伝達魔法ができないようになっている。試しに説明の後で試験官側に送ったけど、応答がなかった』
『了解。じゃあまず、これからボクがすべきことは何かな?ボク、今目の前の道しか見えないわけだけど、説明の口ぶり的には、迷路、なのかな?』
『そうだね。僕はミーちゃん視点ではなく、ミーちゃんの真上から迷路の全貌を見られるんだ。だから、右に行って、とか、左に行って、とかを指示して、ミーちゃんをゴールまで進めればいいんだ』
『…なるほど、ね』
ミーシャはチラリと周りを見た。どうやら他の受験者も、片割れと情報交換をしているらしい。
(…やっぱり、あらかじめ二人組だった方が有利、な気がする)
そんな考えがよぎったが、ミーシャはだから糾弾するとかそういうことに興味はない。
今はただ、様子見をしようと思った。
しばらくすると、再び脳に司令が響いた。
「では、決勝開始です」
『じゃあルー。とりあえず指示して』
『わかった!右に進んで』
了解、とミーシャは右に進んだが、ほとんどは左に進んだ。同じように右に来たのは、ほんの数人だった。
『ミーちゃん?どうしたの?』
『…いや、なんでもない』
なんでもないと言い、ミーシャは一抹の不安を隠した。