入団試験編 4
sideエイネス
(…なんだあのガキ)
エイネスは一人思考に耽った。
彼は今日、王国魔法騎士団第二部隊隊長として、騎士団入団試験の試験官をしていた。任務ではなく、最近の入団者の実力不足を憂いて、試験が適切に行われているかの視察も兼ねていた。
そこで、彼は奇妙な少女を見つけた。
会場内の誰よりも小柄で、とても17歳以上には見えない黒髪にクマのある少女。彼女は、会場内の誰よりも大柄な男を、身体能力のみで蹴り倒し、あまつさえしれっと説明再開を目で求めてきた。
気にしない方が可笑しいと、彼は少女の書いた受付書を手配し、手元に寄せた。
(ミーシャ・マクレーン?聞いたことのない名前だ。出身地は…アインガング村?なんだ、田舎か?生年月日によると、現在18歳…)
エイネスは目頭を押さえた。明らかに偽造だとわかってしまったからだ。
(…あんな実力者がアカデミーにいるなら、とっくに耳に入っているはずだ。まして去年卒業したなら尚更。こいつ、違法受験者だな…っ)
「クソが…」と漏らしたエイネスに、周りの試験官が悲鳴も漏らす。
ハッとして、顔を引き締め眼鏡を掛け直した。
いずれにしても、彼女は失格だ。ルールも守れない奴を、騎士団にいれるわけにはいかない。
しかし
(…あの方が、気に入りそうなガキだからな。何が起こるか…)
エイネスはため息をついた。
恐らく彼女は予選を突破する。実力不足でなくとも、彼女の実力は現在の騎士団の各隊長レベルに匹敵するほどだ。
決勝は王国の重鎮が集まり観戦する。そうなれば、エイネスが懸念する"あの方"が、彼女を見初め、無理難題をエイネスにふっかけるだろう。あの方の前では、ルールなんて無意味なものだ。
「…なんにしても、ひとまずは予選を監督しますか」
光の刃でCブロックの受験者三分の一をダウンさせてしれっとしているミーシャを睨みながら、エイネスは他ブロックの試験映像にも目を向けた。
「…おや、この少年は」
Bブロックでは早々に勝敗が決まったらしい。
水色の髪の少年が、転移直後に中級魔法広域落雷ワイドサンダーで、受験者を的確に気絶させ、運良く残った数人も、雷光ライトニング・サンダーで気絶させ、ゲームセット。
かなり情け容赦ない攻撃だが、全員息はあるらしい。
「今年は、問題児が極振りしてますねぇ」
エイネスは再びため息をついた。