入団試験編 3
sideミーシャ
(ミーシャのせいで)混沌極まれりといったCブロックの試験説明も、ブロンド眼鏡が司会に何か囁いたことで再開された。やっぱり彼が、一番上の立場らしい。
一応受験者たちも、前に向き直った。蹴り倒された男は、流石にもう騒ごうとはしなかったものの、ミーシャを一睨みして前を向いた。
「そ、それではこれより、王国魔法騎士団入団試験を始めます」
司会の言葉に、受験者全員の空気が変わる。
(殺気立ってるな〜)
だからこそ、気づかないのか。
(一対一なのか、全員混戦のバトルロイヤルなのか、説明されていない。例年通り…ってことなのか?それとも、試験が始まれば誰でもわかるようになっているのか)
仮に例年通りなら、王都のイニシエーションさえ知らないミーシャが、ルールに拘束されて出遅れるのは目に見えている。
何か質問でもしようか、と思った瞬間、会場の床に、巨大な魔法陣が展開された。
会場は、先程の混乱以上のカオスとなった。誰もが魔法陣に驚愕する中で、唯一違う反応を示した者がいた。
「す、ごいな。こんな広範囲の転移魔法なんて、初めて見た。この大きさだと、上級レベルだ!」
周りの混乱をよそに、ミーシャは魔法陣を分析し、その高度さと精密さに歓声を上げた。根っからの魔法馬鹿のミーシャにとって、高度な魔法は自分の力を高める上での観察対象でしかない。
隅々まで魔力が行き渡った魔法陣が光を放つ。
誰もがその光に目を瞑り、再び開いた瞬間。
「な…なんだこれ」
目の前には、木々が生い茂っていた。
目の前の光景に一瞬呆然としたものの、すぐにミーシャは考えを巡らせた。
(…転移魔法で、トばされたんだから、今は試験中なのは間違いない。ボクだけじゃなく、他の受験者たちも同様にトばされたんだろうけど…)
目を瞑り、ざっと周囲の魔力反応を探る。
(…5人、くらいが近くにいるな。となると、試験内容は)
「このジャングル全てがフィールドのバトルロイヤル」
そう確信して、ミーシャは魔法を錬成する準備を始めた。自分の体内に巡る魔力を集中させ、手元に集める。
魔法使いにとっては基本の『魔力創造』。
魔法使いにとっての核から作られる魔力を、自分の思い描いた脳内の魔法陣に注ぎ込み、魔法を展開する『魔法錬成』。
これらの作業を先行したものが、対魔法使い戦闘においては有利に立つことができる。どちらも魔力量で速さが決定されるわけではない。地味な反復練習でもって、徐々にスピードを上げることができる。
ただし
(錬成中は魔法使いが一番無防備になる瞬間。だからこそ、早めに錬成を終えた者が有利だし、同時にその最中だけは最も不利でもある…だったよね)
わかってるよししょー、とミーシャは記憶の中の男に呼びかけた。
その間にも、気配はどんどん近づいてくる。しかし、ミーシャに焦りはない。
「…さて、それじゃあ、戦闘開始だ」
ミーシャの言葉と同時に、木々の隙間から3人が飛び出してきた。
それぞれの手には、剣が握られている。
「初級魔法光の矢」
ミーシャから展開された魔法陣から出現した光の矢で、3人はズタズタに貫かれた。しかし、急所は綺麗に外されている。
3人の姿を確認するミーシャの背後では、別の受験生がミーシャに魔法を放つ。
「初級魔法緑の触手!!」
繰り出されるイバラによる攻撃。ウネウネと拘束しようとする無数のイバラを、ミーシャは身体能力だけで全て避ける。
「このフィールドでその攻撃は確かに有効だけど、魔力不足でイバラの動きにキレがない」
飛び上がってイバラを避け、イバラを足場に敵の後ろに周り、回し蹴りでダウンさせる。
四人の敵を倒すそのタイムは、3分もかからなかっただろう。
「…さて、と」
ミーシャはジャングルに向けて指を突き出す。
「中級魔法光の刃」
上空に展開された魔法陣から出現した光の刃は、ジャングルに向けて放たれた。それぞれが寸分の狂いもなく、受験者たちを襲う。当然それは、近くで気配を殺していた、5人のうちの残りの一人も貫いた。
ミーシャは近くに隠れていた一人を見て声を上げた。
「あーあ、君だったの」
それは、先程会場でミーシャが蹴り倒した大男だった。
「作戦はまあ悪くないよ。3人を囮に一人を後ろに配置して、その一人を倒して安心したところを奇襲する。意外と策略家なんだなぁ。でも、最初に気配を探られちゃダメだよ。5人いるってバレてんだから、警戒するに決まってる」
あ、もう聞こえてないかな?と、ミーシャは気絶した男に投げかける。
自分の光の刃で、受験者の三分の一がダウンしたことを察知しながら。