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Vorwort  作者: 仁森あお
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入団試験編 2




騎士団入団試験の受付場に入ると、すでに多くの人たちが受付を済ませるために並んでいる。


ミーシャとルーカスもその列に並んだ。待ちきれないのか、まだかまだかと背伸びしながら前の状況を伺うミーシャと、そんなミーシャの姿を、まるで愛しいものでも見るかのような目で見ているルーカスは、かなり浮いていた。



受け付け書類には、名前、出身地などの項目があった。


(ルーカス・アヴァロン、っと)


最後に名前を書いたルーカスは、ふと疑問に思い、隣で記入しているミーシャを見た。



(そういえば、ミーちゃんは姓をなんて書くんだろう。先生は「俺の姓は使うな誤解を招く」って言ってたし…)



まあもっとも、誰のを使おうと、使ったらその姓の主に問い詰めるつもりのルーカスではあるが。


考えている間に、「よしっ、と」とミーシャは書類を書き終えた。








受付場から会場に入ると、AからZまでの看板と、その看板の前に並ぶ大勢の人がいた。並んでいない人は、職員と思われる人たちに名前を呼ばれ、そこで列に並んでいる。




「はぁ、なるほど。26グループに分けて試験をするのか」


「選ばれるアルファベットはランダムか、もしくはイニシャルか。試験内容は、バトルロイヤルか、技を見せ合うだけか…どう思う?ミーちゃん」


「試験内容はともかく、イニシャルだと偏りがでるから、多分ランダムだよ。今のところ列の人数はどれもほぼ同数だし…」


「アヴァロンさん、ルーカス・アヴァロンさん」



職員がルーカスの名前を呼んだ。




「ブロックBにお進みください」


「ああ、はい」



ありがとうございます、と人好きする優しい笑顔で礼をしたものの、ルーカスはミーシャの隣から動かない。ルーカスの笑顔に見惚れた職員は、それを咎めることもなく頬を染めている。



「ルー、並ばないと」


「ミーちゃんが呼ばれるまでね」


ルーカスはにっこりにっこり笑う。その笑顔は職員に向けたものとは比べ物にならないほど愛情がこめられている。



「それよりミーちゃん。あれフルネームが必要だったけど…」


「マクレーンさん。ミーシャ・マクレーンさん。Cブロックにお進みください」



なんて書いたの?というルーカスの言葉を遮って、ミーシャの名前が呼ばれた。


職員の発した名前にルーカスは驚いてミーシャに問いかけるような目を向けた。しかし、すぐに気遣うような目に変わった。



「え…ミーちゃん…。いいの…?あの名前って」


「いいのいいの。許可はもらってないけど、一応は保護者だし」


「そうだけど…いや」



でも、そんな、というルーカスをBブロックまで引っ張った後、ミーシャはCブロックに進んだ。




その後何人かが呼ばれ並んだ後、ブロックごとに別ブースに移った。


ブースに入る寸前までルーカスは、ミーシャのことを見つめていた。














sideミーシャ




(ああ、始まる)



何人かの男性が前に進んだ。全員、青色のローブを着ている、いかにも魔法使いっぽい格好だ。中央に立つブロンド色の髪を七三分けにした眼鏡をかけた男は、黒のピアスをつけている。



(真ん中のブロンド眼鏡が一番偉そうだな)


などと考えていると、横に立つ司会と思しきローブ男が話し始めた。



「本日はご足労いただき、ありがとうございます。これから、第204回、王国魔法騎士団入団試験の説明をさせていただきます」


司会が淀みなく説明をしていく。




1、この試験はA〜Zのブロックごとに行われる予選であること。


2、トーナメントで、上位二名のみが決勝ステージに進めること。


3、決勝ステージに進めなかったからといって、騎士団に入団できないわけではない。あくまで実力を測るだけであること。


4、3のことは決勝ステージに進んだものたちにも言えること。


5、この試験は魔法や物理的攻撃全てが有効であること。


6、この予選、決勝において、相手を死亡、又は後遺症の残る怪我を負わせた時点で失格、かつ諮問機関預かりになること。



などが淡々と説明されていく。





(つまり、ルール上魔法なしで殴る蹴るも、魔法攻撃と同列に評価されるけど、相手を気絶以上に痛めつけた場合は失格、ってことか)



ルールを分析するミーシャは気づかなかったが、説明が進むにつれ、周りはざわめきはどんどん大きくなった。

しまいには耐えきれなくなったのか、ミーシャの前に立つ男が声を上げた。



「おい!ここの職員は俺たちに対して椅子も出さないばかりか、説明書すら配らないのか!?」



突然の叫びに、ざわめきはぴたりと止まる。流石のミーシャも、近距離からの大声に、思考を中止させられた。




(なんだ?なに吠えてるんだこの男)


しかし、司会はその男の声など聞こえていないように、説明を続ける。



周りも唖然としていたが、司会の態度に腹が立ったのか、男に同調するように何人かが頷いている。




それに男は気を良くし、ペラペラ話し始めた。



曰く、自分たちは貴族である、騎士団は貴族からの税金で成り立っている、だから貴族が騎士団の雇い主と言っても過言じゃないなどなど。


よくもまあそれだけこじつけられるものだと言わんばかりの内容だった。





(…うるさ)



ミーシャは、司会の話に集中したいのに、ことごとく邪魔をする男に、苛立ちを増した。




(何を言ってるのか知らないけど、静かにしてくれないかな)




元来気は長い方ではなく、常識や理屈という言葉が大嫌いなミーシャに、我慢するとか、小声で「静かにしてください」と言うとかの一般的な選択肢は存在していない。



ミーシャの解答は、男を物理的に黙らせることだ。







つまり、男の足を蹴り倒したのだ。



「!?」




ガスン!!!という、大凡人体から出ていい音じゃないような異音と、バタン!という倒れる音が会場に響き渡った。



男は思いっきり倒れた。蹴り倒された男だけじゃなく、会場全体が静まり返った。司会でさえ、ポカンと目を見開いている。



誰もが状況を理解できなかった。いや、理解はしたが、飲み込むことができなかった。




180cmに近く筋骨隆々の男を、150cm半ばほどかつ華奢な会場の誰よりも小柄な少女が、己より縦にも横にも大きい男を、その細い足で蹴り倒しただなんて。





会場は混沌に陥ったが、ミーシャはやっと静かになったと、しれっとしている。




周囲と当事者との間の温度差に気づけたのは、眼鏡をキラリと光らせる偉そうなブロンド髪の男だけだった。
















sideルーカス



(…ミーちゃんがなにかした気がする)





Bブロックで静かに普通に説明を聞いていたルーカスは、己の半身とも呼べるほど愛している少女に想いを馳せた。


ちなみに、説明は途中だが、大体はすでに理解している。




(ミーちゃんに流されて受験してるけど、これって明らかに違法だよなぁ)



一瞬懸念がよぎったものの、脳裏に「そんなん知るか」と言うミーシャが浮かんで、ルーカスはにっこり笑ってその懸念を打ち消した。





(ま、何かあっても、僕ら相手にどうこうできる強さのやつなんて、そうそういないんだろうけど)



少なくともこのBブロックの中では、ルーカスは自身が一番強いことを確信している。それは自惚れではなく、単なる事実として。そして、そのルーカスが自分より強いと確信しているミーシャが、そうそう負けるはずがないことも、また事実である。








(…ミーちゃんたら、こんな奴らと一緒に騎士なんかやるつもりなのかな。本当に、なにを考えているんだろう)



かれこれ10年近い付き合いになるが、ルーカスは、ミーシャの思考を読むどころか、理解することすらできなかった。常識という言葉を嫌うのがミーシャなのだから、そもそも常識で考えて理解できるはずもないが。



まあそんなところも好きだけど、と思いながらも、ルーカスは一方で不満な部分もあった。



(…あいつの姓を使うなんて、なにを考えてんだよ)





自分の姓を使えとまでは(まだ)言わないが、ミーシャの名乗った姓の持ち主を、ルーカスは許すことができない。




(…何が保護者だ。あんな人でなし、くたばればいいのに)





ルーカスは拳を握りしめた。ミーシャのことは、自分が必ず守ると心に決めて。









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