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Vorwort  作者: 仁森あお
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入団試験編 1



「ここが王都か〜」






高くそびえたつ門を見上げながら、一人の少女は感嘆の声を上げた。









壮大で細かな細工のなされた豪華絢爛な門は、誰が見てもその先に暮らす人々の身分の高さを示す。さすが、王族の住まう都市と言ったところだ。






門の前には二人の子供がいた。一人は先ほど声を上げた10代前半と見られる、黒髪に目の下のクマが特徴的な少女。もう一人は少女より少し年上と思われる水色の髪の少年。どちらも、古めかしい外套を纏っている。門を観察しながら、二人の会話が続く。





「門番はいないのか?」



「意外だね。でもまあ王都と言っても一つの都市だから、いちいち管理してたらキリがないんじゃないかな?流石に王城付近にはいるんだろうけど」



「ふーん」




少女は目を細め、唇を少し尖らせる。しかし、すぐにの興味を無くしたのか無表情に戻り、門へと歩き始めた。少女に続き、少年も門をくぐった。















門の先には、活気ある市場が広がっていた。果物や服、小物など、多種多様な品物が、賑やかな声と共に売買されている。それらを、一目で高価だとわかる装いの男女が歩きながら品定めしている。





「うわ、人がゴミのようだ」



「流石に多いね。あの村とは大違いだ。逸れないように手を繋ごう」



「それ、もっと歩きにくくなるんじゃない?」





人の多さにげんなりしつつ、少女は人ごみをかき分けながらズンズン進んでいこうとする。しかしすぐに足を止め、少年の方へ振り返った。


 






「ねぇルー。ボクらこれからどこにいけばいいの?」



「とりあえず、騎士団に行けばいいと思うよ。紹介状があればなんとかなるって、先生も言ってたし」





ルーと呼ばれた少年は、少女の問いに微笑みながら答えた。

少女は「そっか」と返事をしたが、今度はある店の前で立ち止まった。しばらく何かを見つめる素振りをして、ついにはしゃがみこんだ。





「どうしたの?」




少女の奇行に困惑しながら尋ねる少年に、少女は少し輝いた目で、少年の顔を覗き込み、さらに目を輝かせた。



 



「見て見てルー。このネックレス、この宝石の色。ルーの瞳にそっくりじゃない?」



少女はミントグリーンのヘッドに、金色のチェーンの、シンプルなネックレスを指差した。確かに少年の瞳にそっくりな色だ。




ネックレスを綺麗だ綺麗だと連呼する少女の姿に照れたのか、少年は視線を逸らした。ネックレスのことを言っているとはわかっているが、それでも少女の言葉は少年の胸を強く締め付けた。





「それを言うならこのブローチ、このアメジスト、ミーちゃんの瞳にそっくりで、とっても綺麗だよ」







そう言って、少年はブローチを手に取った。















「それにしても騎士団はどこだろう。思った以上に人も多いし広いから探せない」






先程露店で購入したばかりのミントグリーンのブローチをつけた少女、ミーシャはキョロキョロあたりを見回した。なんとなく広い敷地でそれっぽい建物を探せばいいと考えていたが、王都自体が広くさらに人が多いとあっては、探すことが難しかったのだ。




「人伝に聞いて行った方がいいね」




同じく新品のネックレスを触りながら少年、ルーカスは少女に並んだ。









二人が言う騎士団とは、王国魔法騎士団。魔法が使えることを前提とした、国家公認の機関である。その任務は、王国内の警備、対魔獣戦闘、魔法開発など多岐にわたる。





二人は一見旅人に見える装いだが、旅の途中でもなく、観光に来たわけでもない。彼らは、この時代にはそう珍しくはない魔法を使う人間、すなわち魔法使いであり、王国魔法騎士団に入団しにやってきたのだ。









………資格もなく。

















「何でダメなの?」




ミーシャは激怒した。口調は至って平調だが、付き合いの長いルーカスには少女がかなり激怒しているのがわかった。




「紹介状見せましたよね。それがあれば入団できるって聞いたんですけど」



「そうは言ってもなあお嬢ちゃん。あんた、アカデミー卒業資格も、屋外魔法行使資格も持ってないんだろ?それじゃあ王国騎士団に入るなんて、無理だぜ?ていうかそもそもの話、アンタら卒業年齢にすら達してないだろ?」




これ、常識だぜ?とでも言いたげに、衛兵は肩をすくめた。












人伝に聞いて回りなんとかたどり着いた騎士団を前にして門前払いをくらったミーシャは、まだ気が治らないのか、むっつりとした顔で先程の衛兵を睨んでいる。しかし衛兵は、まるで小動物を相手にしているかのような生温かい視線を寄越されるだけで、とても堪えているとは思えなかった。







「なんだよ、なんだよ。ししょーは紹介状があればイケるって言ってたじゃないか」



「紹介状渡したけど、結局返ってこなかったしね。まあ、今にして思えば、先生が王都から遠い辺境の地に住んでる時点で、王都のイニシエーションについて知ってるかってのも怪しかったね」



「資格ってなに。魔法が使えるんだからいいんじゃないの」



「うーん…。最低限の技量を図るための資格じゃないかな?一人一人細かく試験してたらキリないから、ある一定の能力の基準を、資格という目に見えるものであらわしているんだよ」




ルーカスが理に通ったことを言うが、そんなことはミーシャにもわかっている。ただ気に食わないのは、年齢を理由に追い払われたことだ。

















ミーシャたちのいる王国、アールズランド王国は国民の魔法育成に力を入れており、国内の各地にアカデミーと呼ばれる魔法教育機関が存在する。アカデミーを卒業できるのは17歳。しかし、卒業試験に合格できなければ、資格を取れないまま卒業らしい。




ミーシャとルーカスのいた村にはアカデミーがなく、二人の"師匠"が、魔法を教えていた。




そして二人とも15歳。なるほど、卒業資格も屋外魔法行使資格もなければ、卒業年齢にも達していない、というわけだ。






ただそんな理屈も常識も道理も、決めたことには一直線のミーシャの前では些事であり、ミーシャにはそれらをぶち壊すほどの魔法力と運の良さがあった。






「どーしよう、ルー。このままじゃ、騎士団に入れない」



「んー…。別に騎士団じゃなくても、王都で手に職をつけるって手もあるよ?僕ら器用だしさ。何も騎士団にこだわらなくても」



「何言ってんの。騎士団に入るために、ボクら王都に来たんじゃないか」 





頑ななミーシャにルーカスは眉を下げる。




「僕は、ミーちゃんと一緒なら何だっていいんだけど…」



「見て見てルー!」





ハッと何かを見つけたミーシャは、何か言いかけたルーカスを遮って声を上げた。ミーシャの指差す先には、「王国魔法騎士団入団試験」と書かれた看板があった。

ルーカスは眩暈がするようだった。そう、ミーシャには不可能を可能にするだけの運と。




「これは受けるしかないね」





その運を確実に掴む行動力があったことを失念していたからだ。




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