第1話「落ちこぼれは学校に行きたくない」
初めての学園ラブコメです。
どうぞ読んでやってください。
いつもと変わらない晴天の空、そして今日から始まる高校生活。
この俺、霜月陽登は今度こそ平和な日々を送れると思っていた。中学までの俺は成績も悪く運動音痴で、ずっと学校屈指のいじめられっ子だった。正直に言えば、高校なんて全く行きたくなかった。
身長も体重も見た目も全部平均的で青い短髪のボサボサ頭でパッとしない俺だけど、またあんな頭の悪い人間動物園に行かされるのかと思うと吐き気すらする。
もう二度といじめなんて受けたくない。もしクラスに俺のことをずっと守ってくれるような、優しくて強くて頼りになる人でもいたらどんなに平和か。
はぁ~、そんな奴……いねえよなぁ~。
「あっ、あいつ見てみろよ。ドジで間抜けでのろまな霜月じゃん」
いきなり斜め後ろから俺をせせら笑う声が聞こえた。俺を含めみんなグレーを基調としたブレザーの制服を着ていた。
げっ! 前の中学で一緒だった連中じゃねえかっ!
俺は早歩きで新しい学び舎へと急いだ。声だけで誰なのかが分かる。テストの点数は悪いのにこんなくだらないことだけは覚えている自分が情けねえ。
すると、俺の右肩にポンッと何かが落ちてきたような感触を覚えた――。
後ろを振り返ってみると、そこには隣町で有名なガキ大将の姿があった。まるでゴリラのように柄が悪く長身で腕っぷしも強い凶悪な男だ。そのそばには2人の下っ端がいる。
「おい、俺の前を横切ろうなんていい度胸だな」
「あっ、ごめんなさい。道に慣れてなくて――」
ガキ大将は俺の胸ぐらをグイッと掴み、類人猿のように威嚇を飛ばしてきた。
「ああん! てめえなめた口利いてんじゃねえぞっ!」
俺を思いっきり殴ろうと大きく腕を振りかぶった。
ひいっ! 殴られるっ!
そう思った時だった。俺が目を瞑った途端、パシッとキャッチャーミットにボールが収まったかのような音が聞こえ、恐る恐る防御の構えのままゆっくりと目を開けてみた。
すると、俺の目の前には背中に届くくらいの長くサラサラとした銀髪の女子が後姿のままガキ大将のパンチを涼しい顔で軽々と受け止めている。
「こっ、この女、兄貴のパンチを片手で受け止めやがった!」
「お前、一体何もんだぁ?」
「貴様らに名乗る名前などない。さっさと立ち去れ。でなければ容赦はしない」
「はぁ! 指図してんじゃねえぞ! このあまぁ!」
2人の下っ端が一斉に銀髪の女に襲いかかった。
しかし、大方の予想を覆すように彼女は下っ端の攻撃をのらりくらりとかわし、目にも留まらぬ素早い動きで相手の体に拳や脚から繰り出される強打を浴びせた。
「ぐはっ!」
「ぐほっ!」
下っ端2人が口を開けたまま白目をむいて地面に倒れ気絶する。だがその直後にガキ大将が銀髪の女子との距離を詰めてきた。
「こんにゃろう!」
しかし、それにも怯むことなく彼女はあっさりとパンチをかわし、ガキ大将のみぞおちに強烈な拳を食らわせた。
「がああああっ!」
その場にガキ大将がバタッと倒れると、彼女は死体のように道端に倒れている3人を放置したままクールな目をした可愛らしい小顔をこちらへと向けた。
「久しぶりだな、陽登。怪我はなかったか?」
さっきまでの淡々とした声とは打って変わり、優しく包み込むような声で俺に微笑みかけた。
背丈は俺と同じくらいか。その目は凛々しくも力強さがあり、美人と呼ぶには十分すぎるほど整った容姿だ。まさにクールビューティーのお手本と言っていい姿である。そのスレンダーなくびれを持つ腰回りに加え、スラッとした足に思わずうっとりしてしまった。そして何より……でかい。
あの豊満で形も良く張りも艶もある理想的なおっぱい。何度目を逸らしてもつい見てしまうっ!
この女、桜月凛花は俺の幼馴染だ。
顔を見た瞬間思い出した。小さい頃に見た顔の面影がかすかに残っている。
あの長い時間でここまで変わるもんだな。
「さ、桜月、何でお前がここに? ていうかさっきの武術みたいなの何? こいつら大丈夫なの?」
「久しぶりに再会したばかりだというのに質問が多いな。まあいい……私はここに引っ越してきた。さっきのは護身術で、こいつらは気絶しているだけだから心配するな。手加減しておいた」
「……ありがとう。助かったよ」
「ふふっ、例には及ばん。私はお前のボディガードだからな」
「は?」
思わず口を開けたままポカーンとしてしまった。
何を言っているのか全く分からない。ボディガードなんて雇った覚えは全くないし、どう考えても幼馴染のジョークとしか思えないが、さっきの戦闘を見る限りだと満更ジョークとも思えないから判断に困る。
「桜月、ボディガードって何?」
「昔みたいに凛花と呼べ。幼馴染だろ?」
「それはそうだけど」
「それより早く行かないと遅刻するぞ。今日から高校生だろ?」
「! そうだった。わりい、もう行かないと。じゃあな」
そのまま目の前にあった高校の校舎まで走っていった。
彼女は校門の外側から手を振っていた。どこまでついてくるつもりだよ。制服は着ていなかったからここの生徒じゃないみたいだけど、何だかとても動きやすそうな服装だったな。
灰色と黒を基調とした全身タイツのように身軽な服だったが、あれは一体何なんだ?
入学式が終わり、新しい教室に案内されると、決められた席に座りながらのんびりと欠伸をしながらくつろいでいた。テキトーに自己紹介を済ませ、担任と全員の自己紹介が終わった。その後は色々と説明を受けたところで早めにこの日の学校が終わり、終礼を終えた俺は帰宅しようとしていた。
「よお、お前隣の席の奴だろ?」
同じ教室にいた同級生が気さくに話しかけてくる。
「そうだけど、何か用か?」
「さっきからあの女が木の枝の上からずっとお前ばっか見てるぜ」
「えっ――」
同級生の1人が指差した方向へ誘導されるように窓の外を見ると、そこには学校の木の枝によじ登り、双眼鏡でこっそりと俺を監視するように見張っている凛花の姿があった。
「ぎえーーーーっ!」
思わず奇声を発してしまった。周囲の生徒は強張った顔で俺を見つめている。
嘘だろっ! いくら何でも怪しすぎだろっ!
ていうか警備員何してんだよ!? こういう時のための警備員だろうがっ! ていうかあいつ何やってんだよっ!
早くあいつに注意しないと! ったく入学早々こんなにドタバタするとか先が思いやられる。
「おいっ! そこで何やってんだよっ!?」
ショルダーバッグを背負ったまま校舎の外から木に登っている凛花に声をかけると、声に反応した彼女がそこからスタッと俺の前に飛び降りてきた。
「何って、もちろんお前を見張っていたに決まっている」
「堂々とストーカー宣言かよっ!」
「ストーカーではない。私はお前のボディガードだ。さっきも言っただろ」
「その服は何なんだよ?」
「あー、これか。これは私専用のボディスーツだ。壁をよじ登ったり周囲の景色にとけ込むことができる優れものだ」
「とけ込めてねえよ! そりゃよーく見ねぇと気づかねえくらいにはとけ込んでたけど、あんな所から監視されてたら落ち着かねえんだよ!」
「そうは言ってもな、ボディガードたるもの、いつお前の身に危機が迫ってもいいようにそばで見守る必要がある」
言ってることは正しいけど別の意味で間違ってるっつーの!
「俺はボディガードなんていらねえよ」
「お前は昔っからいじめられっ子だっただろ。どうしても放っておけない」
「あっそう。でもあんな真似は二度としないでくれ」
「何故だ?」
「こっちが恥ずかしいんだよ!」
「照れたか」
「そーゆー問題じゃねえ!」
やれやれ、この女のせいで早くも平和な入学が台無しだ。
これが、俺の幼馴染にして超万能なボディガードである凛花との再会だった。
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