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鬼/6 おわり

 ぱさりと俺に落ちて当たったぼろ屑は、どうやら絵本か何かの一部のようで。

 見れば、そこには見たことがあるような記憶に引っかかる話らしい。

 その一部。


 青い鬼は帰ってこなかった。


 そういう場面。

 それをいったんじっと見て、湧き出るように生じた感情。

 特大の恥ずかしさと、場違いかもしれない共感。


 人と仲良くなりたい鬼に。

 マッチポンプのような事をしたその友人を名乗る鬼。

 人と仲良くなりたかった鬼はそれで仲良くなりました。

 優しい友人のおかけで、人と仲良くなりたかった鬼は人と仲良くなれました。


 何故、彼は帰ってこなかったのだろうか。

 その一つの答えとして、俺のように、今の俺のように、恥を知ったのではないか。

 そう思った。


 助けに来たのだ。

 助けたかった。


 そのつもりだったのだ。


 ――けれど、本当にそうだろうか。


 そうする己でいた証明をしたかっただけではないか。


 あぁ、なんとも。

 それはなんとも恥知らずではないか。

 友の為といっておきながら、それは徹頭徹尾自分のためでしかないのだ。


 だって、例えば友人の鬼はその相談をしていなく。

 失敗の可能性もあったのだ。


 でも失敗しても『君のためにやったことなんだ』と。


『――』


 子供の親を見る。

 能力で完全にもう一度気絶させておく。


 止めを刺すことは、やっぱりできそうにない。


 『助ける』という感情が独りよがりでも、きっと、俺の中身はそうしておいた方がいいんじゃないか、とか。

 怒るべき行為をしているのだ、とか。


 そういうのもあるのに。


 さっき、感じた人間の証明であるようなものを感じに来たと認めたように。


 俺はきっと、『助けにきた自分』を認めた時点でどうにも満足してしまっていたのだろう。


 そんな化け物を利用して()友人(家族)になりたかった子供を見る。

 なんともやはり、お似合いだったのだ。


 鬼も、人間も、かわりはしない。

 姿かたちだけが違っても、その心根は。


 何かおかしくなってきて、本当に笑いたい感情が湧いてきた。


 最後に、やれることだけはやっておこうと思った。


 有無を言わさず子供に手を向けて、繋がりから意識を遮断する。

 ――もういいだろう。

 承認欲求を満たすためのような観客は、もう。


 抱えて、ゆっくり外に出た。


 気配から知ってはいたが、そこは野次馬だらけ。

 人の群れ。


 誰も、助け気もしなかった見に来ただけの人の群れだ。


 ぐるりと見渡す。


 あぁ――なんて。

 本当に、俺という存在はなんて愚かだったのだろうか。


 子供だからだろうか。

 大人になれないままだったからなのだろうか。

 向こうに行った高校生のまま、俺が止まっているという証明なのだろうか。


 鬼になった。化け物になった。子供だった。大人になれなかった。

 だから、人間というものに憧れ過ぎていたのだろうか。


 大人になっていたなら。

 もっと、この程度でしかないのだということを知っていて、化け物らしく開き直りもできたのだろうか。


 事ここに至っても、助けようというどころか、誰も子供の心配を本気ではしていない。

 自分たちからよってきたくせに、いざ俺という化け物がでてきたら好奇心と興奮と保身。

 それだけしかない人の群れ。


 人間さを感じられなかったあちらの人のほうが、まだ同種に対しての感情があったと思う。


 さっきまでの俺の事を思い出す。

 やはり、違いなどないし、人であることは特別でも何でもなかった。


 人であることは、きっと簡単なのだ。

 人でありつづけようとすることが、きっと難しい。


 一人の警官が目に入る。

 その警官は、どこか今ここにいる事さえ他人事のような目をしている。

 それは、ここにいるほとんどの人間と何ら変わりない姿。


 しかし、ちょうどいい。若いのもいい。

 隙があるならそれでいい。


 もう、深く考える時間もないのだ。

 せめて、人であり、化け物でもある中途半端な俺をやりきるべきだろう。


 ゆっくりとそちらに歩いていく。

 道は勝手に空いていく。

 そいつだけ逃げないように、力で縛る。


 そして、たどり着き、若いその人間に子供を渡した。

 子供を最後に見る。

 もう二度と会う事はない子供を。


 撫でるように頭にふれる。


 そして、力を流し込んだ。


 よく馴染むだろう。

 きっと。

 減少するように見えて、取り込む方が多かったような子供だ。


 それはきっと俺よりも鬼らしい、鬼に向いているという証拠だろう。


 この世界は異物を嫌った。

 だが、この世界の人間(モノ)を通してならどうだろう。

 

 人間でありながら、鬼の力を受けたもの。

 それはなんになるだろうか。


 きっと生きていけるだろう。

 生きて生きて、完全に吸収しきった時――何になるだろうか。

 それでも世界が力だけ拒絶して人のままでいられるか。

 鬼となって世界から拒絶されるか。

 それともこの世界の新しい鬼となるか。

 人に混じる鬼となるか、人に仇なす鬼になるか。


 どれでもいい。

 どれでもいいと思う。


 これは勝手な八つ当たりであり、証明であるから。

 怒りであり、身勝手な友情であり、最後の執着でもあり、諦めでもある。


 内部がぼろぼろになっていくのがわかる。

 力を使いすぎているのだ。

 加速度的に壊れていく。

 もう、ほどなく死んでおかしくない。


 最後に、渡した若い人間に少し頭を下げて目を合わせるようにしてから力を発動する。

 『洗脳』に近いものだ。

 消耗が激しいうえ大きく力量差がなければ成功しないという、向こうではあまり使えない力だったが、こちらでは関係ない。


 子供を助ける事が正しい事。正しさに従う事。

 庇護者がいないと困る年齢の間、やる気がなくなることはなく、不正などをして転ばないように性格をいじる。

 殺せはしないのに、死にかけて開き直っているとはいえこのようなことはできるのだと考えるとまたおかしくなってきながら、完了させた。


 それが止めか、内部だけでなく、ガチガチに硬いはずの外の部分までぼろぼろ崩れ出したのがわかる。

 痛みで己があふれている。


 それでも、おかしかった。


 もうすぐ死ぬことがわかっても、おかしかった。


 学生まで生きて、意味の分からない事故のように連れていかれて死んで、化け物になって、帰ってきて。

 ただ、なんか色々失敗しながら死ぬ。


 訪れたことはどこかの主人公にも負けてないくらいなのに、やれたこととかやったこととか。

 影響を与えた人数とかなんとかは、きっと大したことがない。


 人間だとか、化け物だとか、きっとその程度でしかなかった。


 必要なのは、そこにこだわりを持って苦しみ続けることではなかったのだ。

 ただ認めればよかったのだとと思う。


 そんなことに、死ぬ間際にならないと気付けないことが、なによりおかしかった。


 飛ぶ。

 飛ぶ。

 崩れる。

 痛む。


 いつまでもつかもうわからない。

 最後に、生まれ育った場所に行こうと思った。

 気にすることはない。

 ただ、拒否されるとも受け入れられるとも、俺が逢いたいだけだから。

 子供なんだから、きっと我儘して終わってもいいだろう。


 最初から、何も考えずそうしておけばよかったと、頭の中でもう一つ笑った。

おしまい。

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