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異世界へ行きたい僕

作者: ぽん

 今日で僕は17歳になった。だがいつもと変わらずスマホをただ眺めている。この生活は中2で虐められてから3年も続いている。家族とも喋らない、ただひたすらスマホを眺める3年間。同級生は高校で楽しくしているのに僕はどうしてこんなことに......。それも僕を虐めたヤツらが悪いんだ。ヤツらを殺せば生活が変わるんだ。


 僕はカッターを片手に玄関へ辿り着く。今から殺しに行ってやるという意気込みはある。でも足が動かない。僕は3年間この家から出たことがない。しょせんこの程度の人間なのだ。何もできない。アイツがリビングで泣いている声を聞きながら、いつもと同じくカッターを握りしめ部屋に戻った。



 その日の夜、いつものようにアニメを見ていたはずなのに突然思いついた。本当に異世界はあるのではないか?それなら僕は行けるはずだ、なぜならアニメの主人公の前世と同じく僕は不幸だからだ。よし死のう。カッターを首にあてた。ちょっと待て、今の僕が異世界に行って上手くいくのか?いくはずがない。なぜなら異世界へ行くのは僕だからだ。ならどうすれば異世界へ行って成功するのか。異世界へ行ったら最初にどうなるのか......最初に出会うのは女神だと気づいた。しかし誰とも喋らない僕がいきなり女神と話せるのか?無理だ。なら誰かで慣らさないといけない。明日起きたら下にアイツがいるから試そう。


 翌日階段を降りリビングへ行くと、アイツがいた。あれ、こんな顔だったっけ?すごく老けてる。たった3年で?なんて話そうか、特に思いつかない。いきなり現れた僕にアイツは酷く怯えている気がする。お前は俺の母親だろ、俺に怯えるな不安になることはない。不安になることはない?なら何故僕はさっきから一言も喋らない。


 変な汗が出てきているのを感じた。僕は何もできない、喋ることすら出来ない。ただ呼吸の音が聞こえてくるだけだった。


「こうちゃん......」


 悲しそうな笑顔でアイツが話しかけてきた。でも僕は喋れない。急いで部屋に戻った。後ろから僕の名を叫ぶアイツの声が聞こえた。くやしい、なんで喋れない。親にすら喋ることができないのか。でもそれだと死んでも異世界へ行けない、なら繰り返すしかない、異世界で幸せになりたい......僕は部屋で泣くことで今日初めて声を出した。


 それから毎日リビングでアイツと数秒対面するだけの生活を送った。1か月ほど繰り返していると若干アイツの顔が若くなってきている気がした。何か良い事でもあったんだろう。もしかして不倫か?でもアイツがそんなことする時間ないんだよな、ブサイクだしいつも家にいるし。そんなことを考えていると、かなり長く対面していたようだ。ふいにアイツが語りかけてくる。


「無理に喋らなくてもいいんだよ。こうちゃんに会えるだけでこんなに幸せになれたんだから」


 急に視界が濁った。足から力が抜ける。声にならないものが口から出てくる。


「頑張ったね。本当に頑張ったねこうちゃん」


 アイツが抱きしめ語り掛けてくる。頑張ってなんかない、頑張ってたら僕はこんなことになってない。


「ごめんなさい...ごめんなさいいいいい」

 

 僕はただ謝ることしかできなかった。母さんと3年ぶりにした会話だった。




 それから生活は少し変化した。拙いながらも母さんと喋ることができるようになったのだ。父さんが帰ってくる頃には部屋に戻るので今はまだ1人だけだ。でもこれで異世界で女神と喋れるようになれたかもしれない、努力が報われたと思った。次は父さんと喋れるようになればいい。新規クエストだ。

 

 夜になり父が帰ってきたのを確認する。聞き耳を立てると母さんが僕のことを話しているようだ。すごく嬉しそう。やれる、今の僕ならやれる。父さんも僕を見たら喜んでくれるに違いない!意気揚々と階段を降り食事中の父さんと対面した。だが父さんはすごく不機嫌な顔をしていた。いつもこんな顔をしていたっけ?僕が小学生だった頃の父さんはもっと笑っていた気がする。


「......やっと出てきたか」


 ただ怖かった。僕は何も言えず部屋に戻った。まだ大丈夫だ再クエストすればいい。心を落ち着かせるんだ。部屋の前で怒鳴り声がする。


「そうやってすぐ部屋に籠るのか!出てきたと思ったが何も変わってないじゃないか。どれだけ心配させればいいんださっさと部屋から出てこい!」


 父さんの言う通りだ僕は何も変わってなんかいなかった。変わってない僕は部屋にいることしかできないんだ。どうして僕ばっかりこんな目にあうんだ。涙が止まらない。泣き声とドアを叩く音だけが闇夜に響いた。


 結局以前の様に部屋に引きこもる生活に戻る。しかし少し違うところがあった。母さんがドアの前で話しかけてくるのだ。以前は最初こそあったが途中から無くなっていた。でも今回は母さんがまたドアの前で話かけてくれる。この前みたいにリビングには行けないがドアを挟んで話しあうことができたので少し勇気が戻ってくる。


「ぼ僕、い今からリビングに行く行くよ......」

「こうちゃん1人で行ける?もしダメならお母さん一緒に行くけどどうする?ドア開けてもいい?」

「う...うん......か...母さんドアあ...ドア開けって」


 ドアを開けてもらった。しかしまだそこから立ち上がる勇気がない。もし父さんがいたらまた怒鳴られるのか、不安だった。


「今日お父さん帰ってこないから大丈夫よ。お母さんと2人でごはん食べましょう?」


 父さんが今日帰ってこない。申し訳ない気持ちもあったが少しホッとした。ゆっくりと立ち上がりリビングへ行く。それだけでどっと疲れた。母さんは台所で料理をしている。もう6時か、いつもなら父さんが帰っている時間だが本当に帰ってこない。情けない、そう思うと涙がでてきた。でも母さん料理してるから声は出さないようにしようと誓った。


「実はね、お父さん今日から出張で1ヶ月帰ってこないの」


 料理を並べながら母さんが言った。1ヶ月も出張するような仕事だったっけ?と考えながら頷く。あまり気にしないようにしよう。それからは母さんが喋り僕が頷く食事をした。こんなにご飯美味しかったっけ?


 食器を片付ける音がする。僕はリビングでテレビを見ていた。ふとニュースを見ると親がひきこもりの子供を殺したニュース、逆に引きこもりの子供が親を殺したニュースの特集をしている。何度もネットで見たことがあるニュースのはずなのにゾッとした。もしかしたら当事者になっていたかもしれないと気づく。もし、あの日異世界に行きたいと思わなかったら......また涙が出てきた。僕はこうも泣きやすかったのか、慌てて母さんが駆け寄ってテレビを消し僕を抱きしめる。


「ここまでこれたんだもの、ゆっくりでいいのよ。止まってもいいし戻ってもいいの。お母さんが守ってあげるから......」


 久しぶりに母さんと一緒に寝た。目が覚めてから考える。中学生に上がった頃に自分の部屋を貰ったので小学生以来か......17歳にもなって親と寝るとか恥ずかしい。17歳か......学校行ってみたかったな......



 特に変わりもなく生活が続いた。といっても変わったところもある。それは僕の部屋だ。2週間ほどたったころに母さんが部屋を片付けると言い始めた。正直臭いとハッキリ言われたのはショックだった。でもまあ勝手にじゃなく一緒にならと片付けることにした。終わってから気づく、この部屋こんなに広かったんだな。掃除する前はひたすら物が乱雑していたせいか広く感じなかったのに、何となく良い気分になる。


 3週間がたった頃、母さんが父さんについて話したいと言ってきた、内心怖かったが了承することにした。


「実は出張じゃなくておばあちゃん家に行ってるの。あの後お父さん泣いちゃって......どうすればお父さんとこうちゃんが会話できるか話し合ったの。それでおばあちゃん家に滞在するってことにしたのよ。もしこうちゃんがまだお父さんに会うのが怖いなら1ヶ月とは言わず2ヶ月でも3ヶ月でも待つって」


 父さんが僕のことを考えていたことに驚いた。あんなに怒っていたのに、嘘の気もしたが母さんが言うなら本当なんだろう。あと1週間で帰ってくる。


「もしこうちゃんが会ってもいいってなれば帰ってくると思う。その時はお母さんも一緒にいるから安心して、前みたいに怒鳴らせないわ、お母さんの方が強いもの!」


 本気で言うもんだから笑ってしまった。よし会おうじゃないか再クエストだ!でもあと1週間は待ってもらうことにした。



 父さんが帰ってくる日がきた。僕はリビングで母さんと待つことにした。ドアが開く音がする、吐きそうだ。1ヶ月ぶりの顔を見た。以前より更に怖い顔になっている。なんで.......なんで前より怒ってるんだ怖い怖い怖い!


「お父さん怖いからその顔やめなさい!」


 母さんが叫ぶ。本当に父さんより強かったのか。一瞬、更に父さんの顔が怖くなった、と思ったら急に泣き出した。


「ごめんよ...ごめんよこの前は酷いことを言って本当にごめんよ...本当は出てきてくれてありがとうって言いたかったんだ......」


 泣きながら弁明する父さんを見て狼狽える。母さんを見ると笑顔で肯く。本当なんだ......本当にそう思ってたんだ。


「ぼぼ僕の方がわる悪いんだごめんなさい....本当にごめごめんなさい...」


 僕も泣いた。父さんが泣きながら抱き着いてくる。母さんも泣きながら抱き着いてくる。3人で抱き合いながら泣き叫んだ。


 それから泣き止んだ僕たちは3人で晩御飯を食べることにした。3年ぶりの家族そろっての食事だ。喉が痛すぎて血の味がする、揃って酷い顔をした食事だった。


「とりあえず、今日はばあちゃん家に戻るよ。また明日晩御飯食べに帰ってくる」


 笑顔で言う父さんに、母さんも笑顔で頷く。


「じゃあまた明日な」

「あ....」


 上手く喋れない僕を父さんは笑顔で待ってくれる。


「ま...また明日......」

「おう!」


 父さんは笑顔で出ていった。ドアが開いたままなのに気づいてないのかジャンプしている。それを見て母さんが笑った。僕も笑った。気づいた父は凄い速さで逃げていった。それを見てまた笑った。



 あれから2ヶ月ほど晩御飯を食べるために父さんが帰ってくるようになった。今では父さんも普通に話してくる。大体が仕事の愚痴なのでよく分からない。でも3人で食べるご飯は、1人で食べてた時よりも2人で食べてた時よりも美味しかった。


「あ...あのさあ父さん」

「なに?」

「......そ...ろそろ家に帰ってこ...ないの?」

「......いいのか?」

「だ....だってここと父さんの家だろ......」


 父さんは泣いた。ちょっと引いた。もしかしたら僕がすぐ泣くのは父さんの遺伝なのかも知れない。けど母さんも泣いていた。もうどっちの遺伝かわからない。......結局僕も泣いた。


 父さんが家で生活するようになってから賑やかになった。僕も以前は不規則に寝起きしていたが朝7時に起きられるよう努力している。朝は3人で朝食を食べそれから掃除をし、母さんと昼ご飯を食べ、お昼はテレビを一緒に見たりしながら父さんの帰りを待ち、晩はまた3人でご飯を食べ喋り合い就寝する、そんな生活を送っている。



 数ヶ月がたち、僕は18歳になった。両親が誕生日パーティーをしてくれた。ケーキの蝋燭の火を消し、祝福され、それぞれからプレゼントを貰った。凄く幸せだったが僕はまだあの目標を忘れていなかった。


「実は話しておきたいことがあるんだ」

 

 真面目に話す僕に両親は真剣な顔になる。


「17歳になった日に僕はアニメを見ていたんだ。流行りの異世界転生物のね。そして思ったんだ、異世界に行けば幸せになれる。でも異世界に行くには1度死ななければいけない。だから死のうとした」


 父さんが息をのむ。


「今でもわからないんだけど、当時の僕では異世界でも通用しないと思い到った。だから次の日母さんに話しかけようとリビングに行ったんだ。でも喋ることすらできなかった。悔しかった。実の親にすら話しかけられないとか異世界でも生きていけないって。だからあれから毎日特訓で顔を合わせてたんだ。奇妙に映っただろうけどね。」


 母さんが微笑む。


「異世界に行きたい。それがきっかけで今こうして家族3人で18歳になれたありがとう」


 両親が拍手をする。


「けど実は今でも異世界に行きたいんだ。本気で思ってる」

「それは、今でも死にたいって......」


 僕は慌てて父さんの意見を否定する。


「今の僕は死にたくない、生きたいんだ。すごく幸せだから。でも今の僕の世界はこの家の中だけなんだ」


 気づいた母さんは笑顔になる。


「今までの家の中だけの僕の世界から、家の外、僕にとっての異世界へ行きたい。けどまだ1人では勇気が出ない。だから一緒に今から行ってほしいんだ」



 

 僕たち親子は玄関で靴を履く。4年前より成長していたらしく靴が合わず僕だけスリッパだ。父がドアを開けた。母がエスコートする。去年の同じ日に僕はこの玄関の前から動けなかった。でも今は状況も理由も違う、それに頼りになるパーティーを組んでいる。




「さあ、行こう!異世界へ!!」

2作目 

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