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当たり前の消失

規約上こちらにも少しだけ投稿しておくことになりました。

そうしないと運営側に削除されてしまうので、一章のみか、一章も途中までこちらにも投稿していきます。

「「お疲れ様!」」


ボクの名前はノア、十六歳だ。

冒険者で前衛の剣士をしている。

外見は昔からかわれて以来、騎士の甲冑のようなヘルムで隠している。

ヘルム被ることに慣れすぎてしまい、今では入浴以外で外すことはない・・・つまり、食事中も被っている。

ヘルムを少し浮かせたりしてスープを飲んだり、ヘルムの隙間からパンや干し肉を食したりしている。

そして、ボクと一緒にいる女の子・・・ボクの幼馴染で、昔から一緒に過ごしてきた彼女であり、同じく冒険者をしているライカだ。

彼女は白い肌で空色の髪で可愛らしい顔をしている。

胸は普通?ぐらいだ。

彼女は後衛で魔法使いだ。

得意な魔法は赤魔法・・・火や炎系を使う。

ボクが顔を隠すようになった原因の張本人だ。

ボクと彼女はDランク冒険者だ。

冒険者はFランクから始まり最高がSランクだ。

自分のランク以上の依頼は、何度が同ランクの依頼をこなし、許可されるまで受注できない。

この世界には、スキルや祝福の儀のようなものはない。

自分達で剣術を極めたり、魔法を探求したり、戦い方を工夫して強くなるしかない。

その中には、勇者や賢者と呼ばれる人達がいる。

彼ら彼女らは、たゆまぬ努力と人徳、あらゆる面で優れた人達の名誉と称賛の称号だ。

ボクもいつかそうなりたい・・・いや、冒険者なら二つ名の一つや二つ、称号は目標の一つだろう。

この世界の魔法属性は色で決まる。

無色・・・これは身体強化だ。

赤色・・・火又は炎、爆発。

青色・・・水や氷。

黄色・・・雷。

緑色・・・風。

茶色・・・土や石、砂や泥。

白色・・・光や治癒、バフなんかもそうだ。

黒色・・・闇や呪術、儀式やデバフだ。

基本はこのぐらいだが、もちろん例外もある。

例えば、ハイエルフのみが扱うことのできる、木々や花を利用した自然魔法、ドワーフが得意とする金属を扱った魔法などだ。


「おう!ノア、ライカちゃん、もうクエスト終わったのか?」


今話しかけてきたのは、Bランク冒険者のオッズさんだ。

ボクはこの人が嫌いだ、ライカとの距離が近い。

下心があるようにも見えるその表情がボクの警戒心を強める。


「はい!今回のクエストは簡単でしたので!」


ライカは元気よく答える。

この警戒心の無さは、人と良い関係を築くことに対しては強みだが、騙されやすい。

だからボクがしっかりしないと。


「ボクとライカはこれから家に帰るところです。失礼します」


オッズさんの横を通り過ぎ、ボクは、冒険者ギルドにかけてある時計を横目で見ながら言った。

今は午後三時だった。


「そうか、お疲れさん」


オッズさんはそう言いながら、冒険者ギルドを去るライカを目で追う。

いつもより執拗な視線な気がした。

ボク達の家は、ノイシュバン王国王都コーラスの郊外にある小さくて少々年季の入った家だ。

冒険者ギルドから歩いて二十分と、ちょうど良い距離にある。

家賃は安いし、意外と住み心地も割りと良い。


「「ただいま」」


ボクとライカは自宅に帰ってきた。


「ノア、今日のクエストあれでDランクなんてラッキーだったね!」


「うん、ゴブリンの数が多かったけど報酬は良かった!」


この世界の通貨は、銅貨一枚十円、大銅貨一枚百円、銀貨一枚千円、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨があり、格が上がるごとにゼロが一つずつ増えていく。


「あっ、そうだった!ボクこの後ギルドの練習場で三時間ぐらい指導してもらうんだった!」


「誰にしてもらうの?」


「Bランクのロライドさん!じゃあ行ってくるね!」


「いってらっしゃい!」


ボクは、ライカにそう告げ、再び冒険者ギルドに走って向かった。





数分後・・・冒険者ギルドの裏にある練習場にて。


「ロライドさん!指導してください!」


「やっと来たね。それじゃあ練習場に行こうか!」


練習場のにやってきたボクとロライドさん。


「まずは好きな風にやってみな」


「はい!」


ロライドさんは、来いよ。と、手で合図する。

ボクはロライドさんに向かって距離を詰める。


「やぁッ!はッ!」


木剣を横、縦、横、突き、と繰り出すが・・・簡単に受け流される。


「力み過ぎだ!隙ができてるぞ!」


ロライドさんが叫びながら、ボクのお腹に木剣を叩き込む。


「い、痛い!」


それから一時間、ぶっ通しで模擬戦をした。

するとロライドさんが。


「ノア、お前は最近頑張りすぎだ。たまには体を休めろ。いいな?今日は一時間で終わりだ」


ロライドさんは早口で、ボクに反論をさせないように言った。


「え?でもーー」


それでも、ボクが何か言おうとすると・・・。


「お前の彼女にプレゼントでも買ってやれ」


これまたロライドさんが遮るように言い、さらに大銀貨一枚を投げてきた。


「うわっ!って、ちょっ・・・と!ロライドさんお金を投げないでくださいっ!」


「まぁ、そう言う事だ。帰れよ〜」


この人、ボクの話聞いない。

でも、ロライドさんかっこよすぎです・・・ありがとうございます!

ボクは急いで帰る準備をし、プレゼントを買いに向かった。





ボクは、赤色綺麗な薔薇を九本と綺麗な青い石の耳飾りを買った。


「喜んでくれるかな?」


薔薇の花なんて、かっこつけ過ぎなプレゼントかもしれないがたまにはこういう物が良いと思った。

どんな反応が返ってくるのかとウキウキしながら家の扉を開けーー。


「ただーーっ!?」


ボクは、ライカの声を聞いて言葉が喉に詰まった。


「あ・・・ん・・・オッズさ、ん・・・んあぁっ」


え?


「はぁ、ライカ・・・好きだ。一目見た時からずっと・・・はぁはぁ」


嘘だろ?

ボクは、持っていた九本の薔薇と青い石の耳飾りを落とした。

ライカの嬌声を聞いた瞬間、視界が一気にグラっと歪んだ。

嘘だ!嘘だ!嘘だ!ライカが、なんで?どうして!?

ボクは逃げ出した。

信じたくなかった、夢であってほしいと願った。

すれ違う人や建物が全て同じに見える。

手と足に力が上手く入らない。

今にもバランスを崩して転びそうな身体で走った。


ズキッ


薔薇の棘が心臓に深く突き刺さったように痛んだ。





ボクは無我夢中で走り、気づくと魔物がいる森まで来てしまっていた。

この森は、王都近くにあるコッコルスの森だ。


「ここは・・・あぁ、懐かしいな・・・」


まだ、ライカと冒険者なりたての頃に依頼でよく来ていた。

いわゆる、駆け出しの冒険者御用達の場所だ。

魔物もEランクとDランクの魔物ばかりだ。

今は、もう少し奥にある、こことは違う場所で依頼の魔物を討伐している。


「・・・クソッ!なんで・・・うぅ・・・」


ボクは泣いた。

嗚咽を吐きながら泣いた。

時間が数十分、数時間と経つと、少しずつ、どういうことがあったのか頭の中で整理がつく。

ライカとは幼馴染で昔からずっと一緒にいた。

一緒に過ごしていく中で、お互い惹かれ合い、付き合った。

ボクはBランクになったらプロポーズなんて事も考えていた。

しかし、信じていたものが、当たり前だと思っていた事が今日目の前で壊れた。

バキバキと音を立てて崩れ落ちていった。


「ハァ、ハァ、気持ち悪い」


当たり前が壊れた恐怖と不安、そして怒り。

それは、ボクの精神を蝕むには充分だった。

ボクの手は震え、冷や汗が止まらない。

呼吸は荒く、体だけでなく心にまで影響が出てくる。

落ち着いて整理すると、また心を掻き乱した。


「ボクはライカのこと本当に好きだったんだ・・・本当に大切だったんだな・・・」


失ってから気づかされる大切さ。

当たり前に一緒にいたから、自分がどのくらいライカのことを想っていたのかわからなかった。

今ならわかる・・・本当に想っていた。

もっとそれを言葉にしていればこんな事には・・・。


「・・・はぁ。少しだけ落ち着いてきた・・・」


そんな時。


ガサガサ


「ッ!?」


すぐそこの草むらから音が。


ガサガサガサ


『グギャ』


「ゴ、ゴブリン!?」


ボクは、まだ震える手で剣を抜き構えた。

落ち着いてきたとは言え、手足に上手く力が入らない。


『グギャァァ』


「クソッ!こんなときに!」


ボクは不格好にゴブリンの攻撃を避けた。

地面に転ぶように避けた姿はかっこ悪い・・・。

ボクはすぐに起き上がり、再び剣をゴブリンに向ける。


「・・・こいッ!」


『グギャァァァ!』


ゴブリンは、刃こぼれをしている短剣を片手に飛びかかってきた。

今度はしっかりと横に跳び避けた。

ゴブリンの短剣は地面に突き刺さり、抜けなくなっていた。

ボクは、ゴブリンに剣を三度向ける。

そしてゴブリンの頭に剣を突き刺そうとした・・・その時。


「ッ!」


ボクの頭の中にライカとオッズさんの姿が浮かんだ。


「うァァァァアアッ!!」


グシャッ


『ギャッ!?』


「クソッ!クソッ!なんでッ!なんでなんでなんでッ!!」


『ギャッギャ・・・ギ・・・』


ブシャグシャブシュ


『・・・』


ボクはゴブリンを切り刻んだ。

怒りのままにズタズタに切り裂いた。

ライカがオッズさんと交わっていたこと、裏切られたこと・・・何よりあの場面で逃げ出した自分自身の不甲斐なさに・・・。

怖かったんだ・・・。

ライカの心が本当にオッズさんに向いると思うことが・・・。


「ハァ、ハァ、帰ろう・・・」


ボクの手は、ゴブリンの血で血塗れだ。

返り血で服も汚れてしまった。

ボクは、心ここに在らずの状態のまま走ってきた道を辿り、帰った。





コッコルスの森を出て、王都コーラスの街に戻ってくると、いつの間にか夜になっていた。

ボクは、フラフラと今にも倒れてしまいそうな体に、鞭を打って家まで歩いた。


「ハハ、あの家に帰るのか・・・。ライカはどんな顔して迎えてくれるんだろうな・・・」


血塗れの体とズタボロの心で、そんな事を考えながらやっとの思いで家の前まで帰ってきた。

そこにはすでにボクが落とした物は無くなっていた。

きっと、帰り際にオッズさんが捨てたのだろう。

ボクは一呼吸置き、扉を開けた。


「た、ただいま・・・」


「おかえーーって、どうしたのノア!?血塗れじゃない!」


「えっ?血塗れ?」


そうだった、忘れていた。

でも、ボクにとってはそんな事どうでもいい。

それよりもボクが傷ついたのは、ライカがいつも通りだった事だ。

まるでボクが見た事が無かったことにされているような。

それに今のライカの心配はどういうものなの?

ボクの事を想って?それとも誤魔化すため?わからない。


「なにがあったの?」


なにがあったの?か・・・。

それはボクが聞きたい。

感情的に思い切り怒りたい。

でも、怖い。

もし、ボクが今ライカにさよならを告げられたら、本当に・・・どうなってしまうのか。

だからボクは。


「大丈夫だよ」


ボクはズボンの横をギュッとつまみながら言う。

自分で言っていて、なにがだよ。と、ツッコミたい。


「どこがなのっ!そんな血塗れでフラフラでどこも大丈夫じゃなーー痛っ!」


ライカは突然こめかみを抑えた。


「だ、大丈夫!?ライカ!」


あぁ、あんな事があってもボクはまだライカを心配してしまうんだ、ライカの事を好きなんだ・・・。

そう思うと辛くもあり、不思議と楽にもなった。


「・・・っ!今日はシャワー浴びて先に寝るよ」


ボクは逃げるようにライカから離れた。

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