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ノア、旅へ

全年齢ではこの話が最後です。

翌日。

今日はボクがアンさんと出会ってから一ヶ月。

そして、王都コーラスを旅立つ日でもある。

王都コーラスのように巨大な都市は、城壁で都市を囲み、東西南北に一つずつ大きな門を構えるのが通常だ。

その門の近くに馬車乗り場がある。

馬車は大体、午前七時から午後三時の間、一時間に一本という頻度で運行している。

都市や町によってそこは当然変わってくる。


「アンさんは午前八時の馬車で出発するって言ってた」


ボクは昨日、別れ際に言われたことを思い出しながら口にする。

泊まっている宿屋の客室の時計を見ると、今は午前六時を少し回ったところだ。

ボクは昨日買ったもう一つの袋が載っているテーブルを見る。


「このプレゼント・・・渡さないと」


とは言っても、直接渡すのは勇気が出ない。

あんなことがあったのだ。

会ったらお互いにどうしていいのかわからなくなってしまうだろう。

だからボクは、ライカが気づく場所に置いておくことに決めた。





ボクは、宿屋の朝食と取った後、前住んでいた家・・・今はライカの家に来ていた。


「直接会うのが怖いなんて、ボクも臆病だな・・・」


ライカに非があるとしても、そこを責めきれないボクは情けないと思われるのだろうか、それともただのお人好しなのだろうか。

そんなことを考えていても今はしょうがない。


「扉のドアノブにかけておけば捨てられたりしないよね・・・?」


ボクは小声でブツブツと呟きながら、リュックから手頃な紐の代わりになる物を取り出し、プレゼントの袋に繋げる。

それをドアノブにかけて・・・。


「よし、これで大丈夫。・・・じゃあライカ、行ってくるね」


ボクはライカの家を離れ、アンさんと現地集合の約束をしている馬車乗り場へ向かった。





「少し肌寒いな・・・」


ライカの家に寄った時に、緊張したせいで汗をかいた。

それが今になって冷えてきた。

それでも勝手ながら一つ、区切りをつけられたことで心に余裕が生まれている。

ライカのことを忘れるつもりはないし、心配しないこともないが、それが原因で修行に身が入らないなんてことは本末転倒、だからこの行動はボクにとって大事なことだ。


「待ち合わせ場所の馬車乗り場は西門のところだったはず」


ボクは少し早く来たようで、馬車乗り場にはボクとアンさんが乗る予定の馬車以外、誰一人いなかった。

場所乗り場に建てられている時計を見ると、午前七時四十分を過ぎたところだった。

それから数分経つと、アンさんが少し眠たそうな表情で現れた。


「ノア君早いわね・・・」


「おはようございます。アンさん」


そこからはとくに会話もなく、馬車の出発時刻が近づく。

ボクは大事なことを聞いていないことに気がついた。


「そういえばアンさん、まだ目的地を聞いてませんけど、どこに向かうか決めているんですか?」


「ええ、王都から西の方にある、水上都市ウォルタルに向かう予定よ」


「水上都市ってことは、水の上に街があるってことですよね!?」


水上都市ウォルタルは、以前アンさんが活動していたと言っていた都市だ。


「そうよ。ウォルタル湖の上に作られていて、都市には橋が一つだけ架かっているの。ウォルタルに入る手段は橋を渡るか、船に乗って入るか、空が飛べればそれでも入れるわよ」


「空を飛ぶなんて・・・。湖が天然の要塞という感じですね・・・」


「そうね。ここはなかなか攻め落とせないと思うわよ。湖を船で渡って攻めてくるなら、渡ってる間に魔法で転覆させちゃえばいいわけだしね」


アンさんからウォルタルの話を聞いていると・・・。


「おーい、ノア!・・・ふぅ、ギリギリ間に合ったか」


ロライドさんが走って向かってきていた。

ボクの見送りに来てくれたようだ。


「ロライドさん!」


ボクの胸の中がぽかぽかと温かくなるのがわかった。


「お前なぁ、せめて元師匠として見送りぐらいさせてくれ。お前何も言わないから、ついさっき冒険者ギルドでちょろっと耳にして急いで来たぞ」


言葉通りロライドさんは急いで来たようで、息を少し切らしていた。


「それで、どこに旅に出るんだ?」


「ウォルタルです!」


「水上都市ウォルタルか!懐かしいな、昔行ったことがあってな。その時、Aランク冒険者の女の子二人組がいて、凄い有名で強かったんだ。でも、二つ名は恐ろしい名前だったな。ノアも、もしかしたら会えるかもしれないぞ」


ボクはロライドさんと、ウォルタルの思い出や他愛ない話を聞いた。

ロライドさんの話が終わると、突然、少し覚悟を決めたような表情をした。


「それとな、お前は知りたく無いことかもしれないが一応報告な。オッズは奴隷商に売られたらしいぞ」


オッズさんのことだった。

あれからのことで知っているのはギルドカードを剥奪され、冒険者ギルドをやめさせられたことぐらいだった。


「あの人また何かしたんですか・・・」


「それは分からないが、あくまでも噂だ。本当ならノア、お前も安心してに旅が出られるな」


「はい。ライカも狙われることは無さそうなので」


「そうだな。俺もライカのことは気にかけておく。ノア、お前は心配しないで楽しんで強くなってこい!それとノアの新しい師匠の、えーっと名前はーー・・・アンジェリカだったか?ノアのことをよろしく頼んだ」


ロライドさんは、アンさんに頭を下げてお願いした。


「言われなくてもビシバシ鍛えるつもりよ」


「それなら安心だ!」


ロライドさんはそう言うと踵を返し冒険者ギルドへ戻っていった。


「ノア君、そろそろ出発だから乗るわよ」


「はい!」


ボクとアンさんが馬車に乗ると、ゆっくりと動き出した。

水上都市ウォルタルまではいくつか町を経由する。

まずは一番近い町、ムントという町が最初の目的地だ。





出発から二時間、ムントの町まではまだ距離がある。

ボクは、初めての旅で見る景色全てが美しく、輝いて見えた。

すると突然アンさんが。


「ノア君、プレゼントは幼馴染ちゃんに渡せた?」


「会うのは怖かったので玄関のドアノブに結んでつけておきました」


「そう・・・。ノア君の顔色は良いみたいだし、気持ちに一区切りつけられた。という感じかしら?」


アンさんの言葉にボクは頷き。


「はい。でも、心配はあります。ボクはあまりにもライカを見ず、距離を取っていました。もし、ライカが何かをされて自分の意思でなかったと思うと何もせずにはいられませんでした」


「そうね。私もナンパ冒険者と幼馴染ちゃんは、仲が良さそうには見えなかったわ。自らの意志ではないでしょうね。幼馴染ちゃんが何をされたのか、憶測では話せるけれど・・・」


脅迫、催眠、魅了・・・。

数えていたら可能性は多くある。


「でも、家に上げてしまったのはダメね」


「そこはボクもそう思います」


そこで会話が終わり、ボクは再び馬車から見える、外の景色に視線を向けた。





ノアとアンジェリカが馬車に揺られていた頃、ライカの家では。


ぐぎゅぅぅぅー


「お腹・・・減ってきちゃった・・・」


人という生き物は、どんなに辛くてもお腹は減ってしまう。

今の私は何もする気力がないというのに。


「食べ物・・・買いに行かなくちゃ・・・」


私はフラフラろゆっくり立ち上がって、ダイニングのテーブルに散らばっているお金を持って扉の方へ向かう。

ここ最近の生活は乱れに乱れていて、睡眠不足は当然のことながら、ゴミがそのままだったり、洗濯物を洗う回数も極端に減ってしまっていた。

シャワーも浴びない日が増えたせいで、髪や体臭、衛生面で酷いことになっているはずだ。

私は、家から出て扉を閉めようとドアノブに触れると、袋が紐によってドアノブに巻かれていた。

私は、オッズさんとノアが言っていたことを思い出しました。

これはノアがあの日、私に買って来たプレゼントなんだ。

きっと買い直してくれたんだ。と・・・。


「なんでなの?なんで、こんな・・・こんな優しいことするの・・・」


私は絞めつけられるような胸の痛みと、心に灯る小さな喜びを感じた。

袋を開けて中身を確認すると、そこには青い綺麗な石の耳飾りが入っていました。

私は、空腹も忘れ、家の中に戻り、耳飾りを抱きながら嬉し涙を流した。

少しだけ精気が蘇る感じがした。

すると急に眠気が襲ってきた。

私は今までの不安や苦しみから少し解放されたのか、何十日ぶりかに熟睡できた。


「ノア・・・ありがとう・・・」


その数日後、私の人生を強制的に変えさせられる出来事が起こった。

続きが気になる方はR18へお願いします。

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