アンさんからノアにプレゼント
続きです。
修行の日々はあっという間で、半月を過ぎていた。
「ノア君、最近刺激足りないわよね・・・?」
ゴクリ・・・。
アンさんが修行中に突然そんなことを言った。
こ、今度はどんな依頼を受けることに・・・。
「そ、そうですね。Cランクまでの魔物しか討伐してないですもんね」
「やっぱりノア君も私と同じことを思っていたのね」
ふふふ。と、笑っているが、正直、言わされた感がある。
「そ、それでアンさん、今回はなにを討伐するつもりですか?」
「Bランクの魔物よ。それを一人で討伐してもらうわ。できたらBランク昇格間違いなしよ」
聞き間違いだろうか。
「あの・・・聞き間違いでしょうか、今、一人で。って言いましたか?」
「ええそうよ。なにか問題あるかしら?」
大アリだ。
Bランクの魔物はCランクの魔物と一線を画す。
力もスピードも段違いで、特殊な体質や能力を持った魔物もいるんだとか。
「大丈夫よ。いつも言ってるけど危なくなったら助けるわ」
アンさんはこう言うが、いつも危機が訪れても助けないのだ。
きっと余程の命の危機でなければ手助けしないのだろう。
「依頼の前に・・・ノア君の剣さ、もうボロボロよね?」
ボクは鞘に収まっている剣を抜き、剣身を見る。
確かに、剣身が所々刃こぼれしているし、剣自体の寿命も近そうだった。
修行ばかりに夢中でこういうことに気が回っていなかったのは、冒険者として失格だ。
「そうですね・・・。この剣は・・・幼馴染と一緒に選んだ剣です」
思い出してしまったせいで心臓の辺りがキュッと苦しくなる。
「へぇ・・・」
「な、なんですか?」
「そういえば幼馴染ちゃんのこと私はよく知らないなって」
アンさんがすごく知りたそうにグイっと顔を近づけてくる。
「別にいいですけど・・・」
ボクは、幼馴染のライカと一緒に冒険者を始めた頃から話しだした。
一緒にFランククエストの薬草採取をやったり、Eランクに上がった時には少し豪華な夕食を食べたり・・・そして、同じギルドのBランクの先輩冒険者に幼馴染を寝取られてしまったこと。
でも、そのおかげでアンさんと出会えて、美しい剣術に恋をして今に至ると。
アンさんも最初のうちは、いいわね。とか小さな声で、キャ〜。とか女性らしい・・・と言うよりも、女の子らしい反応をしていた。
しかし、寝取られの話になると、私の弟子のノア君になんてことを・・・。と、ボソッと呟いた。
その時、アンさんの背中には死神のようなシルエットが見えたのはボクの気のせいだろう。
その後、そのおかげでアンさんと出会えた。と言ったら、そう・・・なのね。と冷静になっていた。
「とまぁ、こんな感じです」
「私、決めたわ」
アンさんは、なにか決意に満ちた表情をした。
「なにをですか?」
ボクは不思議に思い、聞いた。
「修行は一ヶ月って決めてたけど、パーティーを組んで旅をしましょう」
「えっ!?それってつまり、まだ師匠として修行をつけてくれるってことですよね!?」
「ええ、今の話を聞いて連れて行くことにしたわ」
ボクが喜んでいる横で。
「二人で旅をすれば色々な町、風景、出会い、きっと素敵な度になるわよ」
アンさんが言うことに聴き入り、話すときの優しい笑みに見惚れてしまった。
「ノア君、大丈夫?」
「っ!は、はい!大丈夫れす!」
あっ、噛んでしまった。
「旅の話は置いておいて話を戻すけど、その剣じゃBランクの魔物を相手にするのは不安だわ。だから今すぐ新しい剣を買いに行くわよ。今回は私が選んであげるわ」
アンさんがボクのために剣を選んでくれる・・・なんかすごく嬉しいな。
「ありがとうございます!行きましょう!早く行きましょう!今すぐ行きましょう!」
ボクはアンさんの手を引っぱって、武器屋へ向かった。
ボクがアンさんの手をグイグイ引いて歩いていると、そっちじゃないわよ。と言われた。
アンさんの先導のもと着いた武器屋は、ボクがいつも行く店とは違い、アンさんがお世話になっている武器屋だった。
あまり詳しくないボクでも、どの武器も質が良くて、どの武器も高価な物だった。
「ノア君、今の剣は鉄製だったわよね?」
「そうですね。ランクが低いので鉄製にしか手が出せないですから」
「そうよね」
アンさんは笑いながら言って、続けた。
「今後の事も考えると、鉄とミスリルを混合した剣にするといいわね」
「アンさん、今さらっとミスリルって言いましたか?」
「ええ、そうよ。なにか問題ある?」
問題大アリだ。
ミスリルは武器や防具を加工に使用する金属の中でも高価な物だ。
混合している物でも結構値が張るし、Bランクの冒険者レベルの人が持つような物だ。
「ボクはそんな大金持ってないですよ!?」
「なに言ってるの?私がノア君にプレゼントするのよ?」
「えっ!?」
「ノア君、声が大きいわよ」
「ご、ごめんなさい。でも、プレゼントにしては高すぎますよ?」
ミスリルが混ぜられた剣は、割合にもよるが金貨一枚以上は絶対にする。
剣が丸々ミスリル製だと大金貨一枚になったりもする。
その理由は、ミスリルが魔力伝導性に優れており、加えて鉄よりもずっと頑丈でもある。
それに産出量が非常に少ないからなのだ。
「金貨八枚以内にするつもりよ。大丈夫、それ以上高いものは、今のノア君には使いこなせないわ」
金貨八枚、日本円で八十万だ。
「金貨八枚・・・わかりました。アンさんに甘えさせていただきます」
ボクはあまりの額に、一瞬、気を失いかけたがなんとか持ち直した。
それにしても、アンさんにとって金貨八枚なんて別に大したことでもないんだと理解した。
この時、ボクはまだ知らなかったが、アンさんことアンジェリカは、剣姫でSランク冒険者であり、お金は腐るほど持っている。
「あら、この剣いいわね」
アンさんは一本の剣を手に取った。
その剣は、鉄六割、ミスリル四割の剣だった。
「金貨五枚ね、これにしましょうか」
薄らと剣身が青みがかっているのが美しい。
「ミスリルを選んだのは、ノア君に武具纏を使えるようになってもらうためよ」
「武具纏?」
「今はまだ考えなくていいわ。旅に出た時にゆっくり教えるから」
「わかりました」
こうしてアンさんは、ボクに新しい剣をプレゼントしてくれた。
それなのに古くなった剣をボクは捨てることができなかった。
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