母のお茶
ちょっと短めです。
ことん、と、紅茶とお菓子が出てきた。
お母さんだ。
「……申し訳ありません。聞いてしまいましたので、同業の方にうちのレシピを大盤振る舞いというわけにはいきません。お茶でご勘弁ください」
煌びやかなおじさんは、こくりと頷いた。
「そうでしょうな……。配慮が至らず、申し訳ありません」
いや、ごはん食べようって言ったのニムルス!
あ、でも、ここから学べって言ったのはこのおじさんか。そうなのか。
困ったような顔で笑って、お母さんは続けた。
「未成年の子に、お酒とおつまみというわけにもいきませんしね。
これは、リーナのおやつのクッキーです。私が焼きました。
うちでは、メニューにないものも、状況に合わせて作ってお出ししています。これがヒントにならないかしら?」
ロザリーは、目を見開いてお母さんを見上げる。
お母さんは、静かに、ロザリーを見ていた。
落ち着いた、優しい、私のお母さんだ。
大好きな、お母さん。クッキー、おいしいんだぞ。
そしてそれ今日の私のぶん。
くそ、まだ残ってるかな。今日は食べれないのかな。
食べれなかったら恨んでやる。
シンプルに、食べ物の恨みで。
ふふふふふ。
ロザリーは、少し、クッキーとお茶を見つめてじっとしていた。
そっと手にとって、さくっとクッキーを頬張る。
いちいち動作がきれいだ。
ちくしょう。なんか悔しい。
「……おいしい。あまり、甘くない」
まあ、お砂糖が高いからね。
「お茶、すぐに飲んでみてちょうだい」
お母さんは、紅茶をすすめた。
上品な仕草で、ロザリーはカップを手に取る。
「…紅茶の渋みが感じられないわ。お砂糖も入れてないのに。
高い茶葉ではないでしょう?こんな組み合わせがあるなんて…」
え、普通じゃないの?
クッキーと一緒にお茶、飲むでしょ?
「普段、お茶と一緒にお菓子、食べないの?」
ふるふるとロザリーは首を横に振った。
金髪縦ロールがぷるぷるしている。
ちょっと笑いそうになった。黒いものがちょっと喜んだ。
「お茶の時間は、マナーの勉強だから…。
お茶と一緒にお菓子を食べることもあるけれど、味なんて二の次だったわ。練習に必死で。
組み合わせなんて尚のことよ。」
カップを両手で包みながら、ロザリーは下を向いている。
どんな事情か知らないけど、本来は貴族なのに、こうして平民の暮らしをしてるんだもんね。
いきなり貴族になれって言われても、まあ、大変だよね。
ちょっとかわいそうかもしれないかんじだ。
関係ないけどな私には!!
ロザリーは、ニムルスを見た。今度は目が合ったらしい。ニムルスは、こくりと頷いた。
ロザリーは、クラスでは見たことのない、ふわっとした微笑みを浮かべた。
……何よ。元凶のくせに。うちで笑うな。
何その顔。かわいいとでも思ってんの。
くそ、ちょっとかわいいと思われるかもしれないかんじだ。
なんだろう。黒に何かが混ざる。
ぐるぐるぐる。
ねえ、あなた誰?新顔?
「ごちそうさまでした。美味しかったですわ」
お母さんを見上げて、ふわっと笑うロザリーは、まるでふつうの人みたいだ。
お母さんは、にっこりと笑いかえす。
もうなんだか、黒いきもちと新顔のなにかと、ロザリーが変なので、私はパンクしそうだった。