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君に決めた


相変わらず誰も、何も言わない。


もう、めんどくさいな。

誰がやったか知らないけど、隠れてないで出てくれば。


まあ、指示した奴はロザリーだろうけどさ。


私はお前らなんか、一撃で倒してあげる。

私は、つよい。この教室の、誰よりも。



さあ、もう、先生来るよ。早く来い。



「……ねえ、あなた、今日はおうちに帰った方がいいのじゃない?机は、みんなで探しておくから」



おや、様子見をしていた女の子が話しかけて来た。


栗色の髪に栗色の瞳。目立つ容姿じゃないけど、なんだか落ち着きのある、均整のとれた顔立ち。


ええと、確か、アリスだったか。

ずっと、周りで我関せずの態度でいたグループの子だ。


多分、アリスは実行犯じゃない。

なのに話しかけてきた。勇気あるね。


でも、引けない時もあるのよ。



「ううん、むしろここから全員出さないよ?

私の机をどこかに捨てた犯人が、この中にいるんだもん。

先生にちゃんと言って、犯人には学校を辞めてもらわないと。

そんな悪いやつと一緒に勉強なんかできないよね?」



「はあ!?出さないって、どういうことだよ!

辞めるとかなんでお前が決めんだよ!」


がたん!

勢いよく立ち上がったおかげで、自分が座っていた椅子を倒した奴がいた。



いつも派手に騒いでる、血の気の多い男子。

辞めてもらわなきゃ、に、釣られたかな?




あ、てことは君もやったんだね?



そういえば、こいつは主犯格の女の子達に気に入られてる、運動がよくできる奴だ。

普段から、何でもいちばん先に手をあげるタイプ。

剣術も多分いい成績を収めているはずだ。


この中では、多分、つよい部類に入るやつだ。




うん、君に決めた。




教壇から降りて、その子の目の前まで進む。


だん、だん。足音をわざと大きく立てて、ゆっくりと、目の前まで。

息をすると相手にかかるくらい、近く。



「出さないって言ったの。

先生、もうすぐ来るでしょ?それまで待てをするくらい、できるでしょう?

ねえ、忠犬わんわんくん」



かっと、そいつの顔が赤くなった。


え、図星かな?


くすくすと、嫌な笑いが漏れた。

あれ、これ、私の声?どこか遠くから聞こえるような気がする。



黒いどろどろが、出口を探して、目の前の男の子を見据える。


「わんわんくんの飼い主は誰かな?この中にいるよね?先生によぉく聞いてもらわなきゃね」



八つ当たりだ。わかってる。この子だけが悪いんじゃない。

でも、止められない。


黒いぐるぐるは、今にも出てきそうなのに、出口がなくて戸惑っている。


なんだろう。こいつも黒くしちゃえばいいのに。



目の前のわんわん君は、顔を真っ赤にして怒っている。

怒るってことは、机、隠したんだよね?

それでも、ごめんじゃなくて、怒るんだね?



ぐるぐる、ぐるぐる。


あ、わかった。あったかい。

これは、カラムの手だ。カラムのあったかさが、ぎりぎりで黒いぐるぐるの出口に蓋をしていた。


そうだね。

悲しませたくない。がっかりされたくない。



ちょっとだけ、方針変更。


ふん。ちょっとだけだからね。



「なんだと!ふざけるな!!」


かっとなって、わんわん君が拳を振り上げる。



よぉし、待ってましたよ。

敢えて、避けない。



がんっ!



顔を、思いっきり殴られた。みんなの、前で。

ぽた、と、口から血が出てくる。

うん、久しぶりだ。ちょっと痛いな。



わんわん君は、ちょっと慌てている。

いや殴ったら当然でしょ。こちとら女子だぜ?



本当はね。家の裏庭で、小さい頃から受けてきた訓練では、これくらいよくあることだ。全然平気。


むしろこれだけ?弱くね?


まぁでも、放っておくと顔が腫れてくるな。

早く腫れればいいのに。

盛大に、痛々しく、腫れればいいのに。



「え、あ、お、お前が悪いんだからな!

悪口を言ったからなんだから、お前のせいなんだからな!!」


ちょっと怯んでる。ふふ、よしよし。

君は私の犠牲者だ。黒いどろどろが移るといい。


そのうちご主人様に届くように。



ほら、私の顔、痛々しいでしょう?

みんな、見てるんだよ?


さあ、悪いことしたなと思え。

さあ、歪んだ気持ちに溺れろ。

自分に言い訳をして、悪いことに蓋をして、苦しめ。

そしてそれをこの後司祭様にすごく怒られるんだ。



いくら言い訳しても、私の顔の殴られた跡は消せない。殴ったところはみんな見てる。私の顔は、そのうち腫れて痛々しくなる。



私は慣れてるから平気だけど、そんなのみんなは知らない。

魔法ですぐ治せるけどね。治してやんないよ。

さあ、言い訳しろ。歪め。苦しめ。



にやっと嗤った私の顔は、どうなってるんだろう。


悪者はどっちだろう。


でも、私は悪くない。やり返せないから、糸口を見出そうとしているだけ。



わんわんくんには、悪いことしてるのかな。

でもこの子、多分、机捨ててるよね?

確認してないけど、きっとそうだよね?


わかんない。でも、なんだかとても気持ちがいい。



視界の端で、人が動いた。外に出ようとしている。先生を呼びに行ったのか、机を取りに行ったのか。


たんたん、と、ふたつ跳躍して教室の入り口に立ちふさがる。

わざと、ちょっとありえない移動速度で。


ひっ、と、動いた女の子達が怯む。



うん、君たちも主犯じゃないよね。

いつも悪口を言ってたやつらじゃない。傍観してた側だ。


それもわるいことなんだよ。知ってる?



「出さないって、言ったよね。

あなた達がやったと思ってるわけじゃないんだけどさ。やったやつらは大体わかるし。

でも、ごめんね。今はここを出ないで。誰も、一歩も」



ぎらっと、教室内を見渡した。

しんと、静まり返ったみんなを見て、女の子達に声をかける。



「席に、戻って。多分あなた達は関係ないよね?」


こくこくこくと頷いて、彼女達は席に戻った。



うん、あなた達はいいや。本当に仕返ししたいのはロザリーだ。


人を使って、表に出てこない、好き勝手なことを言って黒いどろどろを作り出すあいつだ。


私は、被害者だ。

そうだよね?カラム。私、悪くないよね?



さあ、出てこい。陰険金髪縦ロールめ。




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