女装男子・つづきです
この二人組は、周りにどう映るのだろう。夏生の後からやや遅れて付いていきながら、あずみは少しおかしくなった。ようやく気持ちに余裕が出てきた。
背の高い垢ぬけた女装男子と、チビで全く垢抜けない自分。
我ながら、珍奇な取り合わせに苦笑が出る。でも、今日夏生に付き合ってもらって、少しはしゃれた似合う服でも買えば、もっと違った印象になるかもしれない。そう思うと、心が弾んできた。
しばらく行くと、夏生が急に振り返った。
「で、どこへ行くんだっけ?」
「え、だから藤井くんの行くお店…」
「おれの行く店なんて、ないよ」
「新宿にないの?」
「つうか、店に行かない。あのねえ、いくら何でも、こんな服売ってる店で、おれが試着したらセクハラになりかねないでしょ」
頭が混乱してきた。
「だから、今日は堂々とそういうショップに入れるんで、うれしい」
「はあ、でもじゃあ、そういう…その、女装はどうやって手に入れてるの?」
「通販」
なんだ。あずみは拍子抜けすると同時に、困ってしまう。
「どこに行こう? 私、ユニクロしか知らない」
「ユニクロなら、西口の方にあるけど」
「やだ、それじゃ意味ないし」
「そうだなぁ。とりあえず、駅の方に行く? ルミネとか」
ルミネ。あずみは足がすくみかけたが、夏生と一緒なら大丈夫だろうと思い直す。
「うん、それでいい」
おじけたことは気取られないように、さりげないふうであずみはこたえた。
...にしても。
あずみは夏生に気づかれないように一人笑ってしまった。
夏生は自分の格好のことをどう思っているんだろう、と実は常々不思議だったのだ。だから夏生が「セクハラ云々」と初めて口走ったのがおかしかった。『自覚はあるんだな』。
駅ビルの中のファッションフロアに入ると、急に眩しくきらびやかになった。さっきまでのコンクリートの通路とはまるで別世界。田舎者でセンスもないあずみはただただ目をみはった。
通路を歩きながら、あずみは店に入る勇気が出ない。しばらくうろうろした。夏生はうれしそうな顔をしてあずみの横を歩いている。しばらくして、あずみは立ち止まる。
「どうしたの」
夏生が不審そうに聞く。
「どうしていいか分からない」
あずみは正直に答えた。
「そうだなぁ」
夏生は気をつかって、
「とりあえず、そこへ」
斜め前のショップを指さした。ブラウスやワンピースがきれいに陳列されているかわいいお店だった。
いらっしゃいませ。女性店員の甲高い声。あずみと夏生を見ても、顔色一つ変えなかった。自分が意識しすぎているのかもしれない、と思ったが、いっそ店員に笑われた方がまだ楽な気がした。
手前の方のハンガーに並んだワンピースを眺めた。花柄...。あずみはこんな服はもちろん来たことがない。
比較的地味に見えたネイビーのワンピースを手にとった。間髪入れず夏生が、先ほどの女性店員に「試着、いい?」と声をかけてくれた。