三度目 ②
四角錘はエルムの急な呼びかけに戸惑うかのように喋るのをやめた。
「お前は誰だい?なぜ僕の名前を知っている?」
「俺はエルム。あなたに協力を誓う者。」
「協力は嬉しいんだけどね。なんで僕のことを知っている?まるで待ち構えていたかのようだったし。」
エルムはにやりと笑って言った。
「もう三度目ですから。」
周りで見ていた人々は大騒ぎだった。
面白くて観察していた変人がへんてこなしゃべる石を見つけたのだ。
これほどの珍事はなかった。
中には嬉しくなって都市の仲間に知らせに行くものもいた。
「ふむ、お仲間がたくさんいるんだな。それなら都合がいい。さて、お前は何を望む?富か?名誉か?寿命か?」
「はい。俺は死にたくない。そのために寿命を下さい。くわえて誰にも虐げられることのない力も欲しい。」
四角錘は苦笑した。
「随分欲張りだな。でもいいよ。今日は機嫌がいいんだ。危うく海まで流されるところだったからな。ちょっとそこで待っててくれ。いま生命の素を送ってやろう。長生きできるぞ。」
四角錘はそれを言うとしばらく沈黙した。
エルムは待った。
野次馬も待った。
一体これから何が始まるのか。
平凡な暮らしの中でこれほど愉快なこともない。
都市から新たに人の群れが押し寄せエルムを囲んだ。
皆、めいめいにこれから何が起きるのか予想したり、酒宴を始めたりして楽しんでいたそのとき。
空から一筋の光がエルムの目の前に現れた。
その光の筒の中を何か大きなものが降りてくる。
それはやがてエルムの直前にすっと着地した。
エルムも野次馬もそんなものは見たことがなかった。
強いて言うならば石造りの棺か。
といっても石製ではなさそうだった。
棺は着地後にぷしゅっと音をたて一部が開くと中から白い粉がどさっと吐き出された。
「さあ、それを食べてみるといい。長寿になるよ。」
エルムは跪いて粉をなめた。
無味無臭でなんの刺激もない粉であった。
すると彼の身体に明確な異変が現れた。
痩せ衰えた筋肉は以前のはりを取り戻し、抜け落ちた歯は再び生えそろった。
それを見ていた野次馬はとにかく驚いた。
そばによって粉とエルムを交互に見る者、棺をじろじろと眺める者、それらが何であるのか議論する者、恐怖にかられて逃げ出すものもいた。
何人かが四角錘を小突きだしたので蝿の王は慌てた。
「おい、エルム。この連中を止めてくれ。壊れてしまうよ。」
エルムは立ちあがり言った。
「皆のもの!落ち着け!この方は神である!触れるでない!」
先ほどまで頭のおかしい乞食だと思っていたエルムの、威風堂々とした振る舞いと雄々しい声に人々は圧倒されて、エルムと四角錘、棺から距離をとった。
自然とひれ伏してしまう者までいた。
群衆の中から1人、身体中を皮膚病で蝕まれた老人が前に進み出た。
「私はこのとおり病に冒されております。どうかあなた様の慈悲で私の病を治してください。」
エルムはこの粉が自身以外にも効くのか試したくなった。
粉を指ですくい老人になめさせる。
すると途端に老人のただれた肌は健康そうな血色のよいものとなり、曲がった腰は真っ直ぐに伸び、白髪は黒く染まりしっかり生え揃った。
老人は自分の身体をくまなく見回し、その効果を認めた。
身体中に巣くっていた疼痛も跡形もない。
「おおおおお…これぞ神業!」
この様子を見ていた群衆は一様に歓喜した。
自分にも施しをと言うものが後を絶たなかったが、エルムは望む者には老若男女の別なく粉をなめさせた。
このエルムの太っ腹な振る舞いに群衆はすっかり気を良くし、人々は蝿の王を神とたたえ、エルムを神の言葉を伝える者として敬った。




