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三度目のヘルメス  作者: 逆柿一統
一度目
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一度目 ①

最近、MORDHAUみたいな西洋チャンバラゲームをやっていたんですが、プレイ中に思いついて書いてみました。

見通しのよい平原に。

脛の中ほどの背丈の青草が一面を覆い起伏の乏しい開けた大地に。

数百の男達が隊伍を組み、各々得物を手にし、甲冑を身にまとった物々しい様相で屹立する。


草原の風が頬を優しく撫でるとも、男達の不安、恐怖、憤怒、闘志が渦巻く胸のうちは休まらず。

鼓動は早く、呼吸は浅く、手の内には汗をかき、装備の重さに消耗し。

ただ無言でその行く末を見つめる。


男達の前方には、これまた数百の男達が隊伍を組んでこちらを向いている。

彼らがこちらの男達と違うのは、背の高い動物に跨がっているということ。


"馬"と言ったか。

噂には聞いている。

人が走るよりもはるかに速く。また、方向転換も自在にでき、跨がったまま戦うことができるらしい。


連中はここ数年で近隣の村々を片っ端から襲撃し、略奪を欲しいままにしているが、これもその"馬"のせいだと聞く。


いつ頃か付近に住む者たちは連中を"馬賊"と呼ぶようになった。



エルムは、彼はこの馬賊討伐軍の中にいたのだが、正義感の強く逞しい男であった。


馬賊討伐の話が出ると、彼は村の男達に呼び掛け、40人もの兵士に仕立て、討伐軍へと参加したのだ。


エルムの瞳は、馬賊の猛猛しい姿を見てもなお正義の炎に燃えて煌めいていた。


彼は人々の平穏な暮らしを脅かし暴虐の限りを尽くす馬賊が許せなかった。


彼は、彼の村に住むあどけない子供たちや可憐な少女たち、礼儀正しい老人たちを愛していた。

彼は、彼の住む美しく牧歌的な村を愛していた。


エルムはそんな彼の宝を守るために、この戦いに参加したのである。


周りの男達が、その視界を占める馬賊の姿に不安を覚える中でも、エルムは勇敢であった。


彼はこの戦いに勝利しなければならなかったし、勝利への確信もあった。

エルムの心には不安が脅かす隙間など無かったのである。


その確信はリュコンの智恵のおかげであった。


リュコンはこの討伐軍をまとめ上げた男であり、付近の村々では有名な賢者でもあった。


今もこの隊列の中におり、男達に檄を飛ばし勇気づけている。



リュコンが考えたとおりに、彼らは足元の青草の中に、長く頑丈に作り上げた杭を隠していた。


馬賊が、その頑強な乗り物で彼らの隊列に突進して来た際に、一斉に杭を地面に逆立てその尖頭を敵に向けるためであった。


いくら馬の重さと速度で突貫を試みたとしても、その衝撃は杭を伝わり地面に吸収される。


馬賊はいたずらに杭に突き刺さることを恐れ、動揺し、躊躇して、その歩みを止めるであろうから、そこに石を投げ、長棒で馬から叩き落とす。



これがリュコンの思い描いた戦いの様子であった。


彼らの足元にはそのための石礫も、叩き落とすための長棒も用意されていた。

とどめはいつも農耕に使う鍬である。


エルムはむしろ楽しみですらあった。

リュコンの策を聞いた時から、この胸の高鳴りは止まらない。

憎き馬賊に杭を突き立て、石を投げつけ、棒や鍬でぶちのめすことはさぞ痛快であろう。


馬賊の連中が泡を食って逃げ出す様も想像できた。


連中は我々の思惑などついぞ知らぬはずだ。

我々は朝霧が立ち込める時からこの場所に陣取っていたし、道具も上手く隠してある。


あとは連中が無策に我々に向けて突貫してくるのを待つだけである。


そのようなことを一から何度も思い返すたびにエルムの心はさらに励まされ、身も一層ひき締まるのであった。

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